Anchorsong
ロンドンからインド音楽の世界へ入り込んで獲得した、自分らしい〈アウトサイダーな音楽〉

 日本での活動を経てロンドンに拠点を構え、2010年には自主制作した『The Lost & Found EP』を現地でリリース。そしてトゥルー・ソーツと契約して2011年にファースト・アルバム『Chapters』を発表し、広く世界に紹介されることになったのが吉田雅昭のソロ・プロジェクト、Anchorsongだ。BBEからのEP『Mawa EP』(2014年)を挿んで2016年にはセカンド・アルバム『Ceremonial』をリリース。手法の変化はありつつ、エイフェックス・ツインやプレフューズ73、DJシャドウに影響されてインスト作品の世界をストイックに追求してきた彼だが、このたび完成したトゥルー・ソーツでの3作目『Cohesion』は、70年代のアフリカ音楽に着想を求めた前作に対し、インド音楽をインスピレーションの源としている。しかも古典ではなくボリウッド音楽だ。そんなテーマもあってか前作以上にダンサブルなトラックが並んでいて、同時にサイケデリックに響く楽器の調べはメロディアスにしてリズミカルなものとなっている。

Anchorsong Cohesion Tru Thoughts/BEAT(2018)

 「『Cohesion』というタイトルはアルバムのコンセプトに直結しています。アフリカ音楽の打楽器と比べてもインド音楽の打楽器は音程感があるから、その性質上ボリウッド音楽などのポップ寄りの音楽は、メロディーとパーカッシヴなポップというか、リズミカルなんだけど同時にメロディックな音楽でもあると思うんです。インド音楽のいちばんの面白味は、リズムとメロディーが並列で存在し、そのふたつの境界線が曖昧なところです。『Cohesion』を作るうえでも、打楽器を中心にしつつ、音程感があるという性質を生かして、打楽器をメロディーの一部のように聴かせています。その逆もまた然りで、他のメロディー楽器も、それぞれのフレーズを短いミニマルなリフにすることで、リズミカルなパターンとして聴かせていたりします。そうしたメロディーとリズムが曖昧な音楽を作るというのが『Cohesion』のコンセプトです」。

 そういう意図を聞けば、リズムと音階を兼ね備えた(ボリウッドらしからぬ)スティールパンが聴こえてくるのも納得だろう。彼が追求するのは自己流のインド音楽というわけではないのだ。

 「ボリウッド音楽の影響を受けたからといって、もろにインド音楽へのオマージュにはしたくないというのは意識したところではあったんです。僕が現地に行って現地のミュージシャンとレコーディングした作品ではないので。あくまでインド音楽をインスピレーションにしつつ、純粋なインド音楽ではない〈アウトサイダーな音楽〉というか、そういうものにしようというイメージはありました」。

 異国情緒に止まらない音の旅を別の地平へ誘う『Cohesion』。つまり、彼の試みは見事に達成されている。