たとえば、同郷シカゴのノックス・フォーチュンとタッグを組んだチャンス・ザ・ラッパー。あるいは、自身の最新作でロンドン出身のレックス・オレンジ・カウンティを起用したタイラー・ザ・クリエイターなど、メインストリームのラッパーとインディーのソングライターが分かち難い関係性を築きつつある今日この頃。この日本のシーンも無関係ではなく、先日ファースト・アルバム『PLAYGROUND』でデビューしたMomは、それら世界的な潮流と並走する気鋭のシンガー・ソングライターだ。本稿ではそんな〈クラフト・ヒップホップ〉とも称される彼の音楽性に迫ったうえで、いまMomと聴くべき注目の国内アクトも紹介したい。

 

Mom

「21歳、ラッパーでもバンドマンでもないです」 

MomのTwitterにはそんなプロフィールが記されている。さて、この「ラッパーでもバンドマンでもない」という彼は一体どんな音楽家なのか? 早速リリースされたばかりのファースト・アルバム『PLAYGROUND』を再生してみよう。 

まず耳に飛び込んでくるのは、なめらかなフロウで矢継ぎ早に吐き出されていくリリック。なるほど、たしかにここで彼をラッパーと捉えるひとがいたって、何もおかしくはないだろう。しかし、同時にその声から紡がれる旋律は、一貫して抑揚に富んでいて、とにかくメロディアスだ。 恋愛などの対人関係を主なモチーフとした歌詞も、たとえば相手への想いを比喩的に伝える〈君のプレイリストに僕を加えてよ〉といったラインがじつにイマっぽい。

では、サウンド・プロダクションについてはどうだろう。アルバムに通底しているのは、ギターや鍵盤を主体とした生楽器の響きと、ヒップホップ/トラップ以降のビート感覚が共存する音作り。あるいは肉声とオートチューンが滲んだヴォーカル・トラック。どこをとっても極めて2010年代的である。聞けば、Momは『PLAYGROUND』の収録曲をMacユーザーにはおなじみのソフトウェアGarageBandと、iPhoneのフリー・アプリですべて制作したのだという。これもまた極めて現代的だが、一方でこうした手法自体はもはや特別なことではないんだろうな、とも思う。それこそジ・インターネットのスティーヴ・レイシーあたりが象徴しているように、いまやフリー・アプリで音楽をつくることはギターを手に取ることよりもよっぽど身近なのだから。 

ヒップホップ以降の感性とラップ・スキルがごく普通に備わったソングライティングと、現代のローファイともいうべきデジタル+ハンドメイドな制作アプローチ。この両輪を携えているMomが「ラッパーでもバンドマンでもない」という文面から伝えているのは、きっと「だって、これが今のポップスでしょ?」みたいなことなのだと思う。ジャンル間の境目がいよいよなくなりつつある2018年。『PLAYGROUND』はそんな時代のど真ん中を射抜く新たなポップ・スタンダードなのだ。

 

betcover!!

続いて、Momと感性をシェアする注目のニューカマーを4組紹介しよう。まずは、99年生まれのヤナセジロウが主宰するソロ・プロジェクト、betcover!!。オーセンティックなロックンロールやブラック・ミュージックを下地とした、その広範にわたる音楽的要素を大胆に折衷させていくソングライティングと、PC上でなかば強引にエディットしたような楽曲構成をさも当たり前のように生バンド化させてしまうアレンジ力。そのセンスの鋭さにおいて、まさにMomと双璧をなす新世代だ。

 

さとうもか

プロデュース役に入江陽を迎え、ほぼすべての演奏をさとうもか本人が手がけた最新作『Lukewarm』(2018年)は、そのゆたかなコード感とキャッチーなメロディー・センスに支えられた恋愛ソングをホーム・レコーディングでそのまま捉えた傑作。フランク・オーシャン『Blonde』(2016年)以降ともいえる、ビートを最小限に押さえた構成でここまで惹きつけられるのは、その声の魅力があってこそ。

 

tamao ninomiya

ネット・レーベル〈慕情tracks〉を主宰するtamao ninomiyaが繰り出すのは、〈lo-fi chill bedroom pop〉という呼称も言い得て妙のラフなシンセ・ポップ。その無防備なヴォーカルとノイズ混じりの生々しい音像は、まるで彼女の脳内イメージをそのままPCから出力しているかのようだ。ファースト・アルバム『忘れた頃に手紙をよこさないで』には、さとうもか『Lukewarm』にも携わるhikaru yamadaや入江陽も参加。

 

VaVa

ヒップホップ・レーベルの〈SUMMIT〉及び〈Creative Drug Store〉に所属するラッパー/ビートメイカーのVaVa。そのメロディアスなフロウやビートのチルな雰囲気もさることながら、TVゲーム由来のネタがたびたび登場するリリックが非常に特徴的で、その筆致から文科系ナード的なキャラクターを嗅ぎ取れるところも、既存のラッパーとは一線を画している。

 

ヒップホップを咀嚼したシンガー・ソングライターたちが次々と台頭している現状からして、国内のインディー・シーンがこれから新たな局面を迎えるのは間違いないだろう。そして、12月6日(木)に迫った、東京・渋谷TSUTAYA O-nestで開催される、Mom『PLAYGROUND』のリリース・パーティーには、上記で紹介したbetcover!!とさとうもかの出演が決定。今後さらに飛躍するであろう3人の新世代シンガー・ソングライターが一同に会したこのリリパは、日本のポップを新たに定義する、エポックメイキングな一夜となるに違いない。これはぜひとも駆けつけたいところだ。

 

Live Information
〈Mom presents『PLAYGROUND』release party〉
2018年12月6日(木) 東京・渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:Mom/betcover!!/さとうもか
開場/開演:18:30/19:00
料金:前売り 2,300円(+1ドリンク)

ローソンチケット 0570-084-003[Lcode:74089]
チケットぴあ 0570-02-9999[Pcode:131-350]
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