今や世界有数のフェス大国となった日本。フェス自体をプロモーションする方法も様々だが、開催前にフェス自体を擬似体験できるイベントはそう多くない。2024年4月24日に行われた〈Smash Go Round FUJI ROCK NIGHTS〉は、7月末に開催を控える〈FUJI ROCK FESTIVAL ’24〉の空気を一足早く感じられるものとして最良のキックオフイベントだった。

新潟・苗場スキー場で25回目の開催を迎える今年のフジロック。東京・渋谷CLUB QUATTROで行われた〈FUJI ROCK NIGHTS〉は、田島貴男(Original Love)とbetcover!!のライブをはじめ、99年から2023年まで歴代のフジロックに触れることができるライブ写真や資料の展示、そして名物とろろ飯の販売など、常連から今年初めて足を運ぶ人までが楽しめるイベントであった。

来場者の多くは、フジロックの名演を捉えたライブ写真の数々を前に記念撮影をしている。その中には、解散直前に最後の来日ライブとなったオアシス、ロックスターとして堂々と立つチバユウスケの姿が印象的なThe Birthday、フジロックと相思相愛な関係を築いたジョー・ストラマー、もちろんキング・オブ・ロックこと忌野清志郎の名ショットもあり、一人ひとりが自分のフジロックを思い返していた。

そして同イベントのメインとも言える田島貴男とbetcover!!のライブも、それぞれがひとつのパフォーマンスとして優れていながら、目の前に苗場の景色が広がるような空間を生み出していた。

 

進化と深化を繰り返すbetcover!!が登場

まずはDJを務めるMichael(Tangle)が今年出演するフリコや、この日の天気にあわせたかのようにボブ・ディラン”Rainy Day Women #12 & 35”などをスピンさせて会場を温める。そして柳瀬二郎(ギター/ボーカル)率いるbetcover!!が登場。白瀬元(ピアノ)、吉田隼人(ベース)、高砂祐大(ドラム)、松丸契(サックス)とともにステージに現れた柳瀬の両手にはサイリウムが握られていたが、フェス気分を彼なりに表現していたのかもしれない。

間髪入れず”ダンスの惑星”からスタートしたbetcover!!のステージは、極めてソリッドな内容だった。音源/アルバムでの演奏を基にしながらも随所にインプロのパートを入れ込むパフォーマンスは、特定のジャンルにあてがわれるのを拒絶しているかのようだ。松丸のサックスが甘い音色を聞かせる”狐”、『Red』あたりのキング・クリムゾンを彷彿とさせるセッションが脳裏に焼きついた”幽霊”と、序盤からプログレッシブな展開にこちらもついていくのに必死だ。

ラウドでパンクな”バーチャルセックス”、吉田のうねるベースがリードする”イカと蛸のサンバ”とライブはハイスピードで進む。その反面、歌謡の要素が濃いメロディーはしっかりと耳に残り、いつの間にかその中毒性に魅了されていく。ここ数年で進化と深化を繰り返してきたbetcover!!ならではのスタイルは、40分弱のステージでも十分に体現されていた。

キラーフレーズが優しく乱れ飛ぶ”あいどる”を経て、”不滅の国”からラストの”炎天の日”まで怒涛の勢いで突き進む。特に小節単位で表情を変えていく”卵”は秀逸で、白瀬の打鍵の強弱がヒリヒリとした空気感を生み、シャウトとファルセットが行き交う柳瀬のボーカルもこの日一番の迫力だった。

真っ赤なライトのもと披露した”炎天の日”で鮮やかに幕を閉じたbetcover!!のステージ、今年のフジロック最終日(7月28日)では、どんな選曲と構成でオーディエンスの心を掌握するか楽しみだ。