恐ろしく曖昧な形容ながら、ここ1~2年の日本のバンド・シーンにおいて〈ブラック・ミュージック〉がひとつのキーワードとなっていたのは言うまでもない。が、あまりにも言葉が濫用されたせいでそうしたスタイルも食傷気味のように感じている人は多いのではないだろうか。そもそもその単語が言い交わされるようになった背景には、ディスコ・リヴァイヴァルや新世代ジャズの盛り上がり、ヒップホップ市場の数字上の広がりといった海外のキャッチーな動向と、それ以前からの〈シティー・ポップ〉感覚の拡張によってそこに含有されたブラコンやフュージョンの要素が改めて流行化~一般化してきたという日本国内の状況の変化がある。ただ、そうしたアクトは洋の東西を問わず何十年も途切れず存在してきたわけで、〈ブラック・ミュージック〉が流行ったというよりは、邦楽リスナーの間でそう形容することが流行ったということなのかもしれない。
その意味で考えると、トレンドを強く意識したようであると同時に、時流とは関係なく好きな方向へ向かった結果こうなったようにも思えるのが、このkukatachiiだ。2012年にスタートしたこの東京発の5人組は、かつて別のバンドでデビューしたり安室奈美恵『Finally』(2017年)のコーラスに参加した経験もあるYudaiをフロントマンに擁し、メンバー個々の音楽的なバックグラウンドや活動歴も実にさまざま。そうした各人の背景の違いも踏まえつつ都会的なブギー/ファンク/R&Bをスタイリッシュな演奏で聴かせるポップ・バンドである。なお、〈クカタチ〉と読むバンド名は古代日本での神明裁判〈盟神探湯〉から取られたものだという。
2013年にバンド体制へと発展した彼らは、音源もコンスタントに世に出しながらイヴェントやサーキット・フェス出演などでライヴ活動も精力的に展開。2017年にはパリで行われた〈Japan Expo〉にも出演を果たしている。一般流通のフィジカル作品としては2015年の『A hurray』を皮切りに、現メンバーになっての『Business of you』(2017年)、そしてYudaiのヴォーギングする謎のMVも話題になった“Passerby”や“Under the Sunshine”などの配信ヒットを集めた2018年の話題作『Real Things』に至るまで、ミニ・アルバム・サイズの作品を連発。なお、トーチャード・ソウル『Hot For Your Love Tonight』の日本盤化に際しては“Can't Keep Rhythm From A Dancer”のリミックスを担当しているが、そこで彼らと並んでリミキサーを務めたのがmonolog & T-Grooveだったことを思えば、このバンドのめざすところもイメージしやすいかもしれない。
そして、『Real Things』からおよそ3か月のスパンで登場したのが、この年2枚目のミニ・アルバムとなった『INCESSANT』だ。煌びやかなシンセや小気味良いギターが主導するサウンドの持ち味は当然変わらないが、妖しげな魅力を放つ歌心と彩り豊かなサウンドのしなやかな絡みはいっそう堂に入ったものになっている。先行配信済みの楽曲メインだった前作『Real Things』に対し、『INCESSANT』は初出の楽曲が中心。80sモードのシンセ・ブギー“WHY”で幕を開け、Funkcutsのトークボックスとスクラッチをフィーチャーした軽快な“COME BACK TO ME”、ダフト・パンク(というかジョージ・デューク)を連想させる爽やかな“LIFE”、緩急のあるトロピカル・ディスコの“MFEO”などなど、クールかつ大胆なタッチでキャッチーな独自性を紡ぎ出している。
今回もタイトなグルーヴと柔和な歌唱のカッコ良さは保証付きで、従来の作品のファンならずともポップに楽しめる快作と言えるだろう。同時に、時流にジャストなセンスも踏まえて引き出しの奥行きが気になるところ。いずれフル・アルバムのサイズでその全容を覗いてみたいものだ。
kukatachii
Yudai(ヴォーカル)、KAJ(ベース)、Yui(キーボード)、Takt(ドラムス)、Prof.O(ギター)から成る5人組バンド。2012年12月にYudaiとYuiによって結成され、2013年よりバンドとしての活動を本格化する。SoundCloudや会場限定盤を通じて音源を発表し、2015年に初の一般流通作となるミニ・アルバム『A hurray』をリリース。2017年にサポート・メンバーだったProf.Oが正式加入して現在の編成となり、EP『Business of you』が配信ヒットを記録。2018年は4月の“Passerby”を皮切りにコンスタントなデジタル・リリースを続け、9月にミニ・アルバム『Real Things』を発表。このたびニュー・ミニ・アルバム『INCESSANT』(SELECTIVE)をリリースしたばかり。