岡村桂三郎「竜王の宝」

 

日本画と絵本の未知なる魅力を鑑みる。

 一冊の美しい絵本が届いた。題名は「海女の珠とり」。能楽曲「海士」の日本画絵本なのだという。鎮魂のために伝承されたいにしえの悲話は、能楽師・片山清司(現・片山九郎右衛門10世)により現代文になり、日本画家・岡村桂三郎の筆は600年も前の説話を目撃者のように描く。深い岩絵具の色彩は頁をめくるごとに変化し、構図も多様性に富む。愛の深さも海の深さも畏れも壮大に序破急。そして静けさ。涙が絵本の海にこぼれる。

片山清司,岡村桂三郎 海女の珠とり お能の絵本シリーズ (第1巻) アートダイジェスト(2002)

 この原画が佐藤美術館〈絵本にみる日本画〉展で間近で鑑賞できることを知りさっそく訪れてみた。千駄ヶ谷から5分のちいさなビルの美術館。運営する佐藤国際文化育英財団は、美術を専攻する国内外の学生の奨学援助や国際交流に貢献している。

 今回の企画展には、秋野不矩、朝倉摂、岡村桂三郎、福井江太郎という世代を超える四人の日本画家の絵本原画と本作品が並ぶ。

 秋野不矩の日本画による絵本は「いっすんぼうし」と「きんいろのしか」。日本の昔話は絵巻物や大和絵を彷彿させ、バングラデシュの昔話は細密画や印象派の構図を想起させ、それぞれに個性的だ。敏捷な動きをとらえる素描感にも惚れ惚れする。母性愛あふれる観察力。動物や虫の描き方にも愛を感じる。インドに通い暮らし、生きとし生けるものと向きあった画家のまなざしは熱い。

 朝倉摂の描く「たつのこたろう」の少年少女や動物にも躍動感を感じる。舞台美術家として高名な作家ゆえに 奥行きのある遠近感は演劇的でもあり、映画のコンテのようでもある。線画を生かし、岩絵の具だけでなく西洋の画材も使っているそうだ。大胆さと余白の美は日本画である証なのだと思った。

 福井江太郎の「駝鳥」は 筒井康隆の短編小説を読んでぜひ絵本を描きたいと画家から作家に直接オファーを出して実現した。NYでも高く評価されている駝鳥モチーフの第一人者、ほぼ駝鳥だけで絵本が成立しているのは圧巻だ。衝撃のラスト。制作秘話は2月24日開催のアーティストトークであかされるだろう。

 


EXHIBITION INFORMATION

絵本にみる日本画
開催中~3/3(日) 会場:佐藤美術館
秋野不矩「ラージャラー二―寺院II」「きんいろのしか」(絵本原画25点)「いっすんぼうし」(絵本原画25点)/朝倉摂「原題不明(帽子の青年)「たつのこたろう」(絵本原画21点)/岡村桂三郎「海女の珠とり」(絵本原画18点)/福井江太郎「晴(セイ)」「駝鳥」(絵本原画14点)計106点
sato-museum.la.coocan.jp/