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黒人音楽史にとって大切な場所〈ビール・ストリート〉にロフト・ジャズが響く

 「ビール・ストリートの恋人たち」は、19歳と22歳のアフリカン・アメリカンのカップルを主人公とする純愛ドラマである。ただし、美しくも悲痛な物語だ。なぜかというと、ある日突然男性が無実の罪で投獄されたため、二人は面会室のガラス越しにしか会えなくなってしまったのだから。

 原作は、1974年に出版されたジェイムズ・ボールドウィンの「If Beale Street Could Talk」。この小説の題名は、メンフィスにある同名の場所を題材としたブルース作曲家W.C.ハンディの“Beale Street Blues”からの引用だ。メンフィスのビール・ストリートは、米国の黒人音楽史における最重要地点の一つ。ボールドウィンは、この“ビール・ストリート”をメンフィスに限らず、アフリカン・アメリカンの魂の拠り所を象徴する名称として使っている。

 「ビール・ストリートの恋人たち」のスコアを手掛けているのは、バリー・ジェンキンス監督の前作「ムーンライト」同様、ニコラス・ブリテル。ニコラスは、この72年のニューヨークを舞台としたラヴ・ストーリーにふさわしい、小編成による管弦のスコアを書き下ろしている。

NICHOLAS BRITELL 『ビール・ストリートの恋人たち』 Lakeshore/Rambling(2018)

 映画に登場する人物の大半は、被差別者側のマイノリティ。当然のことながら、72年は、今以上に人種や社会階層の差別が激しく、マイノリティは抑圧的な空気にさらされていた。それだけに、メインの旋律は憂いを秘めた深い青(Blue)に彩られているが、ジャズとクラシックの要素を併せ持つアレンジで変奏され、単に鬱屈した情感だけでなく、気品あふれる叙情も醸し出していく。また、ミシェル・ルグランが思い浮かぶほどメランコリックかつロマンティックなスコアもある。

 映画「ビール・ストリートの恋人たち」は、音響の面でも優れた作品だが、そうした魅力の一端を伝えるのが、“Ye Who Enter Here”だ。というのも、このスコアは音響的にも、まさしくロフト・ジャズの雰囲気。つまり70年代のNYのロフトで演奏されていたジャズが、幻想的な残響として表現されている。

 


CINEMA INFORMATION
映画「ビール・ストリートの恋人たち」

監督:バリー・ジェンキンス
原作:「ビール・ストリートの恋人たち」ジェイムズ・ボールドウィン著(早川書房刊)
出演:キキ・レイン/ステファン・ジェームス/レジーナ・キング
配給:ロングライド(2018年 アメリカ 119分)
2019年2月22日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国公開https://longride.jp/bealestreet/