〈サマソニ2019〉でヘッドライナーを務めるザ・チェインスモーカーズが、ニューアルバム『シック・ボーイ...スペシャル・エディション』をリリース。ヒット曲&リミックスが満載された国内盤には13曲ものボートラが収録。快進撃の裏で彼らが抱える問題や悩みと向き合い、ひと回り大きくなった彼らがここにいる。

THE CHAINSMOKERS シック・ボーイ...スペシャル・エディション Sony Music Japan International(SMJI)(2019)

昨年1月から毎月1曲というハイペースで新曲を発表してきたザ・チェインスモーカーズ。それまでのセツナ&メランコリックな曲調から大きく変貌・進化したサウンドには、正直驚いたファンも多かったはず。立て続けに発表されたシングル『シック・ボーイ』、『ユー・オウ・ミー』、『エヴリバディ・ヘイツ・ミー』などには、暗い影が重くのしかかり、アグレッシヴなまでの怒りが込められていた。

「みんなが期待していたザ・チェインスモーカーズとは、確かに違っていたかもね。でも僕らにとっては前進するために必要だったんだ。それほど僕らは八方塞がりで、不満が溜まっていたよ」

その不満とは、メディアからの不当な扱いや、EDMシーンの出身というだけで小バカにされたり叩かれる世間の風当たりの強さもあれば、売れれば売れるほど妬まれる負のスパイラルの影響もあったはずだ。何しろ“ローゼズ”、“ドント・レット・ミー・ダウン”、“パリ”といったヒット曲や、コールドプレイとの共演曲“サムシング・ジャスト・ライク・ディス”は、すべてが全米トップ10入り。ホールジーをフィーチャーした“クローサー”に至っては全米チャートの頂点を12週間も制覇し、アンストッパブルな快進撃を繰り広げた(最新アルバムにはこれらのヒット曲をリミックスで収録)。デビュー・アルバム『メモリーズ...ドゥー・ノット・オープン』も当然のように全米1位を獲得した。

「大成功してキャリアの頂点に立っている、みたいに思われたかもしれないけど、実際にはすごく辛くて落ち込んでいたよ。だから自分たちの気持ちを一旦吐き出したかったんだ。寒い冬に制作したというのも関係してたのかもしれないけれど、僕らの音楽は、いつも僕らの置かれている状況や心情を反映しているから当然なんだよね」

というわけで、暗かった曲調にも晴れ間が覗き、夏に向かうにつれて以前のザ・チェインスモーカーズらしさも次第に取り戻していった彼ら。その変遷が全てがこのアルバムには収められている。甘酸っぱいラヴソングの“ディス・フィーリング”、儚い傷心ソング“ホープ”のような以前の彼ららしい楽曲もあれば、ファンキーなディスコ・チューン“サイド・エフェクト”やインディ・ロック調の“ビーチ・ハウス”のような一見らしからぬスタイルにも挑戦。サウンドスケープの振り幅を押し広げ、成長の跡を窺わせている。

「“ビーチ・ハウス”というのは、僕たちの大好きなインディ・ロック・バンドの名前でもあるんだ。あの曲を作っていた頃、彼らの曲をすごく聴きまくってたんだ。いわば僕たちのルーツに戻った感じかな」

元々はインディ・ロックやパンクも大好きだったという彼ら。最近のライヴではドラマーが準メンバーとして参加しており、アレックスがキーボードを演奏したり、ドリューもヴォーカルに加えてギターをプレイ。今年に入ってからはファイヴ・セカンズ・オブ・サマー、タイ・ダラー・サイン、ビービー・レクサらとコラボした新曲を次々と発表するなど、ロック/ヒップホップ/ポップとダンスの融合をごく自然かつミレ二アル世代ならではの斬新な感覚で体現する。8月の〈サマーソニック2019〉ヘッドライン・ステージでは、そんな現在進行形の彼らの姿を観ることができるはず。苦しい時期を乗り越えたからこそ、ひと回り大きく骨太になったザ・チェインスモーカーズを確認できることだろう。このアルバム『シック・ボーイ...スペシャル・エディション』には、そんな彼らの成長の記録がギッシリと詰め込まれている。