大地から生まれ、宇宙に響く壮大な歌声。
森羅万象の原理に触れるような生々しくも神々しい神秘的なパワー!

 昨年1月に行われた22年ぶりの日本公演でさすがの実力と貫録を見せつけてくれたブルガリアン・ヴォイス・アンジェリーテがこの9月、再びやって来る。80年代のワールド・ミュージック・ムーヴメントで注目を集めるようになった伝統音楽のポリフォニー・コーラスだが、とりわけ強烈な衝撃を世界中のリスナーに与えたのがブルガリアの女声合唱だった。ブルガリアの女性合唱の歴史は古く、現在も数多くの合唱団がいるが、その象徴的存在として最も幅広く活躍してきたのがアンジェリーテだ。

 アンジェリーテのルーツは、およそ70年前までたどることができる。第二次大戦後間もなく、“ブルガリア国家の民俗音楽の見本を作る”という国威発揚的な社会主義政策の下、作曲家/音楽学者のフィリップ・クーテフ(1903~82)が国立歌舞アンサンブルを結成し、そこから更に女声合唱だけを独立させる形で新たにブルガリア国立合唱団が組織された。そして社会主義政権崩壊を機に、彼らは国家の統制を離れた独立合唱団としてアンジェリーテを名乗り始めたのである。

 アンジェリーテはこれまでメンバーや音楽監督/指揮者を随時替えながら、伝統音楽集団としての新しい試みを続けてきた。昨年の来日時の指揮者ゲオルギ・ペトコフは日本公演後に退任し、現在はカティヤ・バルロヴァという女性がその任に就いている。フィリップ・クーテフ国立民俗芸術学校で長年教鞭をとりつつ、同校合唱団の指揮者も務めてきたというこの大物監督を迎えたアンジェリーテは、今年に入ってさっそく新作『ヘリテージ~未来への遺産』を発表した。これは収録曲の約半分が過去の代表的レパートリーの再録音なのだが、「様々なスタイル、色彩、感情的要素を活用し、音楽によって絵を描くことを目指した」とカティヤが語るように、これまでにない音響的瑞々しさが作品全体に横溢している。メンバーも全20人中8人が新加入した若手だ。昨年の日本公演でも話題になった、不協和音が大胆に交錯する名曲《Mehmetio》も一段と迫力を増している。

 今回の来日公演では、かつてゲームソフト『ゼノギアス』の音楽制作にあたりブルガリアのポリフォニー・コーラスを現地録音したこともあるアニメ/ゲーム音楽の大家、光田康典とのコラボや、東野珠実が率いる笙アンサンブルとの共演なども予定されているというからますます楽しみだ。リオ五輪閉会式後の旗引き継ぎセレモニーにおいて、三宅純が編曲したペイガニックな《君が代》で初めてブルガリアン・ポリフォニーの凄さを知った日本人も多いはず。土俗性と前衛性が一体化した驚異のコーラスをぜひ体験してほしい。

 


LIVE INFORMATION

大地と天を繋ぐ、調和への祈り~ブルガリアン・ヴォイス×笙の響き~
9/29(日)16:30開場/17:30開演
会場:すみだトリフォニーホール
ゲスト:笙アンサンブル 星筐-Hoshigatami-

ブルガリアン・ヴォイス・アンジェリーテ来日公演2019~ツアー・ヘリテージ~
9/21(土)14:30開場/15:00開演
会場:つくば・ノバホール

9/27(金)18:15開場/18:45開演
会場:豊田市コンサートホール

9/28(土)14:30開場/15:00開演
会場:三鷹市芸術文化センター 風のホール

10/1(火)18:15開場/19:00開演
会場:福井県立音楽堂 ハーモニーホールふくい