Ryan Keberle & Catharsis@Cornelia Street Café, NYC 2017 ©Tak. Tokiwa

アメリカの政治的閉塞状況と未来への希望を、再び音楽で問うライアン・ケバリー。

 ニューヨークのビッグ・バンド・シーンで活躍する中堅トロンボーン・プレイヤー、ライアン・ケバリー率いるグループ〈カタルシス〉の第6作は、前作で表現した現代アメリカを憂う政治的メッセージを、さらに深化した作品だ。フロントにマイケル・ロドリゲス(tp)に代わりスコット・ロビンソン(ts)が加わり、カミラ・メザ(vo,g)のギターも大きくフィーチャーされた。ケバリーはトロンボーンだけでなく、ヴィンテージ・シンセサイザー、ピアノもプレイし、ホルヘ・ローダー(b)とともにコーラスも歌う。コードレス・ユニットで8年前にスタートしたカタルシスのサウンドは、多彩な広がりを帯びた。

RYAN KEBERLE & CATHARSIS The Hope I Hold Green Leaf(2019)

 冒頭の《Tangled in The Ancient Endless》から始まる4曲とエンディングの《Epilogue / Make America Again》は、1920年代のハーレム・ルネッサンスの指導者だったアフリカ系の作家、ラングストン・ヒューズが1935年に発表した詩『Let America Be America Again』にインスパイアされ、チェンバー・ミュージック・アメリカ・ニュー・ジャズ・ワークショップのサポートで制作された。ヒューズが描いた世界恐慌後のアメリカと共通項を見出せる現代のアメリカの政治状況の閉塞感と、未来への希望を描いた組曲だ。

 また前作のフィーチャー・チューンだった《Become the Water》、メザのオリジナル《Para Volar》を含む4曲は、2017年の日本ツアーを巡ったケバリー、メザ、ローダーのカタルシス・トリオでプレイされた。ケバリーのキーボード・ワークや、メザの繊細かつメロディックなギターが、大きくフィーチャーされ、カタルシスの浮遊するハーモニーと鋭いリズムで構成される世界観が、凝縮されている。

 ライアン・ケバリーの音楽的成熟が、音楽による政治的メッセージに強い説得力をもたらした作品である。