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自分の人生に合った歌

 音の興味もさることながら、すべて自身で手掛けた〈詞〉についても、変化が見られる。

 「30歳になったので、そこはけっこう大きくて。30になったいま、何を感じて、誰に向けて歌いたいかって考えると、やっぱり同世代の女性や、ちょっと下の子たちに向けるのが自然かなって。友達からは結婚してママになったっていう話もよく聞くし、相変わらず仕事に熱心なコもいる。人生の分かれ道だけど、みんな毎日がんばってることに変わりはないから、自分も含めてそういう人たちのがんばりを肯定して、背中を押してあげられるようなことを書きたいなって思って、書きました。

すべて女性に向けてではありますけど、男性が聴いても女心を感じ取ってくれるかも知れないし、そういう意味でも〈Love Me〉かなって。自分は自信家でもないし、基本はネガティヴなんですけど、でもそう思い込んじゃうとどんどん卑屈になっていっちゃうから、自分を愛してあげれば人生楽しくなるんじゃないかな、ってう気持ちです」。

 少し前まで背伸びして歌っていたようなことも、リアルな年頃に。リード曲“オンリーユー”における〈知らない誰かの温度が心地良い〉〈知らない誰かに もう全部あげてもいい〉といった言葉には、行動を伴うかはさておいても、大人の女性なら誰しもが抱えているであろう素直な心情が受け取れる。

 「〈オンリーユー〉って言うと重たいんですけど、恋愛って結果、重たいものじゃないですか。そういう重たさとかを私も経験してるし、その気持ちわかるよってことを歌いたかったんです。“オンリーユー”は、失恋して、寂しさをまぎらわすためにクラブに行って、夜通し踊って、そのへんの人と朝帰りしちゃった女の子のストーリーなんですけど、そういうのもひとつの人生だし、この作品の中に生きてる女の子を象徴する、そんな歌かなって思っていて。

いろんな生き方を経験している女の子がこのアルバムにはいるんですけど、もしかしたらひとりの女の子の歌かも知れないし、もしかしたら西恵利香の歌かも知れないし……誰にでもひとつは当てはまる歌があるんじゃないかなと思ってます」。

 風通しの良い制作環境のなかで、より際立った彼女らしさ。ありのままの自分を表すように、〈ヌーディー〉をコンセプトとした柔らかい色合いのヴィジュアルも麗しく、また、ここからまた鮮やかな色合いを身に付けていくかもしれない、という意味もそこには忍ばせていて。

 「この先どう変わっていくか、どこを残していくか、このアルバムを起点に考えていきたいと思っています。これからもっといろんなこと、人並みの幸せも経験したいと思ってるし、そういう人生を歩むことで歌うことも変わってくるだろうから、自分の人生に合った歌を長く歌っていくことが、『Love Me』を作り終えたいまの私が思い描いている理想ですね」。

西恵利香の近作。