溢れんばかりの音楽愛に開放的なグルーヴを伴って、よりいっそうストレートに歌を追求した待望の新作は……心して聴いて!

 まさに名が体を表した一枚の登場と言えるのかもしれない。恵まれた歌唱力とそれに見合った楽曲の幸福な出会いによって注目を集めてきた西恵利香が、音楽への愛に溢れたニュー・アルバム『LISTEN UP』を届けてくれた。本名での初リリースとなる『PROLOGUE』でスタートを切った彼女の2015年は、またも充実の楽曲集で締め括られるというわけだ。

西恵利香 LISTEN UP SHININGWILL(2015)

 そもそもErika.名義で流線形松原みき土岐麻子らの楽曲を取り上げたカヴァー集『unJour』(2013年)を発表した時点で、今様シティー・ポップな意匠にマッチした透明感ある歌声は高い評価を得ていた。その心地良いポップネスは、AeLL.を無期限休止して最初の作品『PROLOGUE』でさらに開花。山下達郎竹内まりやUAの安定したカヴァーに加え、筑田浩志の手掛けたオリジナル曲も最高にカッコ良い出来で、オリコンのインディーズ・チャート1位という評価も獲得している。夏には初のシングル『MUSICを止めないで/サマーパーティー』を限定リリース。そこで窺わせた快調な前進をステップに登場した今回の『LISTEN UP』は、待望の全曲オリジナルで仕立てられている。

 抜群の相性の良さを発揮してきた筑田との手合わせは今回も先行シングルを含む6曲で継続。ライヴで披露して音源化の要望も多かったというスタイリッシュな“Champagne”や、アタックの強い陽性のディスコ・ファンク“Morning Sun”あたりは、前作からの期待を裏切らない得意のスタイルと言えるだろう。一方、瑞々しいスウェディッシュ・ポップ風の“予感”と奔放なスウィング“刹那的前夜”の振り幅は、新しい表情と共に彼女の秘めたポテンシャルを見せつける。さらに新進の佐川紘樹が作曲し、筑田の師匠でもある松井寛が編曲した“ルージュの首飾り”は、かつての東京女子流を思わせるダイナミックなナンバー。そして、開放的なグルーヴに乗せて音楽の効能を歌う先行曲“MUSICを止めないで”はそんな作品全体に芯を通す彼女のテーマソングのようにも響いてくる。なかでもリッチなアレンジを纏った情緒豊かなミディアム“常花”はヤバいほどの素晴らしさがあって……楽曲のヴァラエティーも全体の完成度も含め、またも最高を更新した西恵利香の新作。良い歌が好きな人にはぜひ〈LISTEN UP〉してほしい一枚だ。