どんな私でも愛してほしい――ありのままを追求した麗しの新作

いまの自分が聴きたい音楽

 夜のしじまに溶け込むような、とてもリラックスできて、気持ち良く身体を揺らされる音。歌い手の体温が確かめられるぐらい近い距離感でやさしく歌いかける声。西恵利香の1年10か月ぶりとなるニュー・アルバム『Love Me』は、それそのものが〈リフレッシュ〉的なテーマで並べられたプレイリストのようで、何度も再生を繰り返したくなる。ソロ・シンガーとしてのキャリアをスタートさせて、もうすぐ5年となる彼女が、本来やりたかったことに近づくことのできた前作『soiree』でひとつ手応えをつかみ、それを経ての今作。ここにいるのは、いま、ありのままの西恵利香。

西恵利香 Love Me para de casa(2019)

 「作っている段階で聴いていたジャンルであるとか、いまの自分が聴きたいと思う音楽を作ろうとした作品なので、『soiree』とはまた違う感じになったと思うし、そのぶん出すことにけっこうビビッてます(笑)。もちろん自信はあるし、だからこその〈Love Me〉ではあるんですけど。変化することを止めると、たぶん終わりだと思っているから、変わっていかないと残っていけない。そんな私でも好きでいてほしいっていう意味での〈Love Me〉。そこも含めて伝わってくれたらいいなって」。

 彼女がいま好きな音楽、というよりそもそも好きだったR&Bやヒップホップのなかに、昨今のチル・ポップやローファイ・ヒップホップ的なリラクシズムを落とし込んだ今作のサウンド観。そのイメージを共に具体化した作家陣には、これまでの作品でも好相性を見せてきた及川創介(元CICADA)や筑田浩志のほか、昨夏の配信シングル“DAY”でナイスワークを聴かせたPARKGOLF、SIRUPとの共作や多数のCM曲も手掛けるChocoholic、初の手合わせとなるMori Zentaro、MONJOE(DATS)、Shin Sakiuraといった面々が名を連ねる。

 「前作よりもよりクラブ・ライクになったというか、DJで使ってほしいなとか、クラブでかかってたら嬉しいなとか、そういうイメージの曲がほとんどで、真っ昼間をイメージしたのは(先行配信された)“ROMANCE”ぐらいかも知れない。『soiree』のときもわりと夜のイメージで書いてたんですけど、こっちは真夜中から明け方にかけてのイメージ。歌詞も、夜中にベッドの上で書いたりしたものも多かったんですけど、いただいたトラックのイメージも、不思議なことにみんな夜っぽいものが多かったですね。

初めて組んだトラックメイカーの方々も、こういう曲が好きで、こういうものをやっていきたいんですけど、っていうことをお話しやすかったですし、だからこそいろいろ……気が早いですけど、3枚目とかではもっと変わっちゃうかもしれないですね。またラップやってるかもしれないし(笑)。でも、今回もわりと言葉を詰めている曲が多かったり、ラップに近いフロウみたいなものにも挑戦してます。それに、歌い上げる曲がほぼなくなりましたね。そういうのが嫌になったわけじゃないんですけど、単純にいまの気分がそうだったっていうのと、〈歌が上手いね〉って言われることが、嬉しいことでもあり、ずっとコンプレックスだったんです。上手いだけじゃなく、それ以外の特徴も欲しくて」。

 しっかり歌っているのは“ROMANCE”ぐらいで、それでもデビュー当時のスタイルと比べればかなり控えめ。全体的に力を抜いたヴォーカルを聴かせながら、それで〈やせ細る〉どころからふくよかさが増している印象を与えているのは、丁寧に重ねられたコーラスワークによるところも大きい。

 「どこに自分っぽさを出そうかなって考えたたときに、コーラスワークに行き着いて。ベタですけど、アリアナ・グランデをよく聴いてるので、こういうフェイクの仕方があるんだ!とか、このコーラスすごくイイなとか、っていうのを参考したところはありますね。かなりがんばったので、主メロの歌を録るよりコーラスにかけた時間のほうが全然長かったです」。