イエルーン ・ ベルワルツの真骨頂『Baroque to the Future』
世界屈指のトランペット奏者が魅せる世界
坂田直樹作品の初演も

 数少ないソリストのトランペット奏者として、つまりトップレベルの奏者として世界を飛び回る日々を送るイエルーン・ベルワルツ。そんな彼が大々的にフィーチャーされる『Baroque to the Future』が、日本人作曲家の坂田直樹作品の世界初演と合わせ、11月7日、王子ホールで開催される。

 卓越した技術を持つ彼は、同時に歴史意識と自覚を持っている。例えば、「J.S.バッハの《ブランデンブルク協奏曲》や《マニフィカト》など、バロック期には注目を浴びていた過去を持つ、この楽器のレパートリーを拡張し、またまだ知られていない現代曲から新たな魅力を提示することで、この楽器の可能性を高めていきたい」と語る。この日のプログラムには、ヘンデルの組曲《水上の音楽》やテレマンの《トランペット協奏曲》など一般的に親しまれているバロック期の名曲から、ヒンデミット作品など、バロックに影響された近代の作品をはさんで、現代を生きるマイケル・ブレイク・ワトキンスや坂田直樹作品までが彩られ、「聴衆に新鮮な感動を届けたい」と意気込む。

 ここでは現代の二作品を。フランスの詩人、ジョゼ・マリア・ド・エレディア作品に由来するワトキンスの《レーグルの死》(つまり鷲の死を意味する)は、ベルワルツの先達で、共演も多いホーカン・ハーデンベルガーに書かれた作品。10分以上のソロ作品ゆえに、「多大な準備が必要で、半年以上練習をしている」とのこと。「武満作品のように。歌の要素が強いが、同時に巧みに構成されている作品」で、楽器演奏のためにジャズ・ヴォーカルも学び、常日頃から「歌の要素を大事にしている」ベルワルツがどう吹ききるだろうか。

 プログラムのラストを飾るのは、坂田直樹のトランペットと弦楽アンサンブルのための《Mirage Lines》(直訳すると「蜃気楼の線」)。パリの国立高等音楽院や電子音楽の総本山〈IRCAM〉で研鑽を積み、2017年に『組み合わされた風景』で芥川作曲賞や武満賞など、日本の作曲賞を総なめにした気鋭の作曲家。「日本で最も才能のある作曲家の一人」と賞賛するベルワルツとは、微分音にも満たないわずかな音程のズレなど、細かなやりとりでしか生まれない、「息」の技術が光る作品が生まれた。横浜シンフォニエッタとの流動的なアンサンブルの中で、高度な技術から生まれる、どこか脆くて儚い、音の煌めきが幻惑する。

 バロックを起点にしながら、拓かれるトランペットの未来。エポックメイキングなひとときを、ぜひ見届けたい。

 


LIVE INFORMATION

Baroque to the Future
バロック トゥ ザ フューチャー

2019年11月7日(木)18:30開場/19:00開演
会場:王子ホール

イエルーン・ベルワルツ∞坂田直樹with 横浜シンフォニエッタ
2017年日本での作曲コンクールを制覇した坂田直樹とベルワルツに託す未来

プログラム:
ヘンデル:組曲「水上の音楽」より
G.F. Handel:Suite “Water music”
ヒンデミット:弦楽のための5つの小品 op. 44-4
P. Hindemith:5 Pieces for Sting Orchestra op.44-4
テレマン:トランペット協奏曲 ニ長調
G.P. Telemann:Concerto Sonata in D
マイケル・ブレイク・ワトキンス:レーグルの死
M.B. Watkins:La Mort de l‘aigle
バッハ/ストコフスキ編曲:G線上のアリア
J.S. Bach/arr. L. Stokowski:Air on the G string
坂田直樹:ミラージュ・ラインズ(委嘱/世界初演)
N. Sakata:Mirage Lines (Commissioned piece / World premiere)

出演:
イエルーン・ベルワルツ(トランペット)
横浜シンフォニエッタ(弦楽アンサンブル)

<メンバー>
ヴァイオリン 長岡聡季(リーダー)、大澤愛衣子、戸島さや野、高岸卓人
ヴィオラ 伴野剛、高山愛
チェロ 朝吹元、海老澤洋三
コントラバス 佐々木大輔
http://okamura-co.com/concerts/btf2019/