坂本龍一によるオリジナル楽曲も収録された待望のオンド・マルトノのアルバムが登場
「部屋に、子どもが来たことがあるんです。不思議な音がするけど、あれは何ですか?って。上の階に住んでいる子で、どうも、おもいあまっていたらしく」。
オンド・マルトノの、ポルタメントやグリッサンドを多用し、何か浮遊するようなひびきは、子どもの何かを揺さぶったにちがいない。
大矢素子のアルバムは、オンドのソロから、ピアノとのデュオ、アンサンブルと多彩。耳なじみのある曲をこの音で、というようなのではなく、タイトルどおり、“作品集”。池辺晋一郎、近藤譲、坂本龍一と、楽器の生まれたフランスの、ミュライユ、パルメジアーニの作品で構成。「じぶんが好きで、じぶんがおもしろいもの、オンドの佳作を集めています。近藤譲《原因と結果》は、初演とこの録音と二回演奏されただけです。作曲家のダンディズム、美学のでている作品ですが、弾くのがタイヘン。今回やらなかったらなかなかもう機会もないんじゃないか、と」。
ここは!とおもったところはブックレット。細部の写真つきで楽器を演奏家じしんが三ページにわたって解説する。CDのメリットはここにある。「不思議な音だから、そのかんじを残してアルバムを完結させる、というのはありでしょう。一方で知りたい、というのもあるとおもうんです」。
もともと、オンド・マルトノを研究していたが、演奏をするつもりはなかった、という。「変わってるなぁというところに興味があったんです。誰かが詳しく書いているというものでもなかったし。いろいろ調べているうちに、じぶんでもさわるようになりました。楽器のかたちにも惹かれたし、マルトノという人物に興味を持って」。
院生時代、リラクゼーションとエクササイズが骨格をなし、「人間という楽器」や「エネルギー」ということばがでてくるマルトノの 『アクティヴ・リラクゼーション』(春秋社)を翻訳も。「楽器じたいも、なかなか言うことをきいてくれなかったりするんですよ。メンテナンスのはなしとかしはじめたら何時間でもできてしまうくらい(笑)」。
いまの電子楽器は、MIDIでつなげば、アウトプットはさまざまに変えることができる。でも、オンド・マルトノはそうじゃない。アウトプットも決まっている。「音響空間をプロデュースする、というところがありますよね。スピーカーに絃を張ったり、ゴングに共鳴させたりするんですから。録音すると、しばしば、音質など、嘘っぽくなってしまったりします。でも、今回は丁寧に録っていただいて、とてもいいものになっているのでは、とおもっています」。
LIVE INFORMATION
電子楽器コンサート
○12/6(金)18:30開演 東京藝大第6ホール
「オンド・マルトノってどんな楽器?(仮題)」
オンド・マルトノ・セミナー
○12/8(日)午後に約1時間半 国立科学博物館本館講堂