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アナログ盤の最高音質を追求する録音方法〈ダイレクト・カッティング〉、その録音風景をレポート

アナログ盤の最高音質を追求する録音方法〈ダイレクト・カッティング〉、その録音風景をレポート

アナログ盤の最高音質を追求するダイレクトカッティング

 温かみのある音質が好評で、近年その生産量を伸ばしているアナログ・ディスク(いわゆるLP盤)。2018年の統計では112万枚ものアナログ・ディスクが出荷されたと言う。そのアナログ・ディスクにも実際には様々な録音方法があるのだが、その中でも最高の音質を誇るとされるのが「ダイレクトカッティング」と呼ばれる録音方法である。通常のアナログ・ディスクの録音は、いったんテープなどに演奏を録音し、それを元に編集を加えマスターテープを製作、さらにそれをカッティングすることになるのだが、ダイレクトカッティングはその名称の通り、一切の編集過程を経ないで、録音した音をそのままカッティングマシンと呼ばれる機械でラッカー盤に記録してゆく。限りなく、オリジナルの音に近い状態でアナログ・ディスクが完成する。1970年代から80年代にかけて、こうしたダイレクトカッティングによる高音質なLPが数多くリリースされていた時代もあった。

 その後、CDの発売により、LPの需要は低迷し、ダイレクトカッティングの機械なども倉庫に追いやられる運命となっていた。しかし、近年のアナログ・ディスクの需要復活の流れを受けて、キングレコードはかつて使用していたダイレクトカッティングマシンの復活を計画し、約1年半の歳月をかけて、そのマシンを復活させた。その内の1台は1991年頃稼働を停止したノイマン社製のVSM70タイプの1台で、それを使用して実際にダイレクトカッティングによる録音のデモンストレーションが行われた。この7月30日。会場はキング関口台スタジオである。

辻本玲

 当日は、まず技術説明などの後、ダイレクトカッティングによるデモンストレーションが行われた。ソロ活動のほかサイトウ・キネン・オーケストラなどでも活躍するチェロ奏者の辻本玲がJ・S・バッハの《無伴奏チェロ組曲第1番》の「プレリュード」をスタジオで演奏し、それを上階に置かれたダイレクトカッティングマシンを使って録音。そしてマシンでカッティングされたばかりのラッカー盤がスタジオで再生された。目前で聴いたばかりの音がそこに豊かに再現されていた。

米元響子

上原彩子

大矢素子

 その後、休憩をはさみ、後半はダイレクトカッティングによる演奏会が開催された。4人のクラシックの演奏家が出演。まずチェロの辻本がバッハの《無伴奏チェロ組曲第2番》から「プレリュード」「サラバンド」「ジーグ」を演奏した。想像される通り、ダイレクトカッティングは演奏者も、また録音スタッフも一発勝負のため、非常に緊張した時間が流れる。聴き手として参加したメディアの面々もその緊張した時間の中に置かれて、息を殺しているのが分かるぐらいだった。続いてはヴァイオリンの米元響子がイザイの《無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番》から第3楽章「亡霊の踊り」、第4楽章「フュリ(復讐の女神)」を演奏。さらにピアノの上原彩子がチャイコフスキーの《くるみ割り人形》から「花のワルツ」(上原彩子編曲)を、オンド・マルトノの大矢素子がラヴェルの《亡き王女のためのパヴァーヌ》(大矢素子編曲)を演奏した。

 ダイレクトカッティングにはスタジオの環境も欠かせない要素となるだろうが、キング関口台スタジオは天井高が10メートルもあり、自然な残響を持つ。また数十名のミュージシャンが同時に演奏・録音可能な規模でもある。キング関口台スタジオは日本でそうした録音が可能な唯一のスタジオであり、また世界的に見ても、他ではイギリスのアビーロードスタジオぐらいしか出来ないことだと言う。

 これからどんな録音プロジェクトが展開されるのかはまだ未知数だけれども、アナログ録音の最高峰として、その可能性を改めて教えてくれるダイレクトカッティングの世界は、かつてのオーディオ・ファンだけでなく、新しい音楽体験を求める若い世代にも興味深いものとなるだろう。また、アーティストにとっても新しいチャレンジの場が与えられたと言えるかもしれない。

 


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