ロシアの賢才アントン・バタゴフの異能が炸裂。音は自作バタゴフのポスト・クラシカルな世界だ。しかしそこに屹立するテクストの威力。紀元前シュメールの王女から現代ロシアの地下詩人まで、女性たちの「ことば」が召還される。その行間や背景に導かれて欲しい。バタゴフと協働するソプラノ、ナディーネ・クッチャーの名は、あのクルレンツィスのラモーやパーセル、ストラヴィンスキーへの参加でご記憶の聴き手もおられよう。彼岸と此岸を往還する巫女的役割をも「表現」しようとする彼女の献身は圧倒的だ。奥行き深い16曲に、遠い彼方から聞こえてくるようなヴォカリーズが加えられ、名状しがたい空間が閉じられる。