
フィッシュマンズの名盤『空中キャンプ』がリリースから30周年を迎えた。今回はこれを記念し、音楽家の沢田穣治に執筆を依頼。ファンとしてフィッシュマンズの作品に出会いながらメンバーの佐藤伸治・柏原譲・茂木欣一と共演もし、2011年のプロジェクト〈FISHMANS+〉に参加するなど彼らと関わりが深い沢田。リスナーとしての本作への深い思い入れや音楽家としての関係性について特別寄稿してもらった。 *Mikiki編集部
佐藤さん、譲さん、茂木さん達が紡ぐ音楽は宇宙そのもの
フィッシュマンズ、一言で語れば不世出の、そして音楽史に名を刻むであろうバンドの名前!
最初に今回のお話をいただいたときにフィッシュマンズ『空中キャンプ』が1996年2月1日にリリースされてから30年と聞かされ、時間の流れの早さに驚きを隠せませんでした。
今回の30周年をきっかけに、あらためて彼らのアルバムを手に取り聴くことができました。時空を超えた佐藤さん、譲さん、茂木さん達が紡ぎ出す音楽は宇宙そのもの。改めて彼らにその役割を与えたくださった音楽の神に感謝です。
この原稿は長いファンであった私的視点からのフィッシュマンズとの関わりを思い出しながら書いておりますので、かなり偏った内容になりますがご容赦ください。
当時の背景などの振り返り、彼らの音楽の魅力、いま聴く意義、佐藤伸治さんとの思い出などを、自由に掘り下げて書こうと思います。
HONZIさんとの化学反応で到達点に
真っ先に思い出すのはフィッシュマンズのメンバーと言っても過言でないHONZIさんの存在です。
彼女の音楽と彼らが紡ぐ音楽との間に絶妙な化学反応が起こったことが、ひとつの到達点である『空中キャンプ』に多大な影響を与えたと今は思っています。
当時からのフィッシュマンズファンの方がどう感じられているかは気になるところですが、自分にとっては後述するZAKの存在と共に欠かせない音楽家だったと思います。
佐藤さんの思いを継ぐ音楽家に使命が与えられたのでは
最強のサポートを得て世に放たれた『空中キャンプ』は未来へつながるアルバムであり、以後の『空中キャンプ』を含めた世田谷3部作になる『LONG SEASON』『宇宙 日本 世田谷』から察するにそのことを強く思います。フィッシュマンズがこれから生み出す未来の作品に期待を持てない理由はその時はありませんでした。
突然の佐藤伸治さんの旅立ちでその未来を垣間見ることが叶わぬ夢になるまでは。
でも彼が残した作品の数々は未来へのメッセージでもあったのでは、彼の思いを引き継ぐミュージシャンに使命が与えられたのではと前向きに思えるようにもなりました。
その予想通り、新生フィッシュマンズとして現在活動が再開されたことがそのことを物語っています。
感想を語れば陳腐になるほど完璧な音楽
ところで、なぜにジャンルの違うわたくしにフィッシュマンズとの関わりが?と思われるかもしれませんが、
1994年にリリースした、室内楽アンサンブルとフィールドレコーディングなどを織り交ぜた当時としてはかなり実験的なアルバム『架空線上の音楽』を聴いて評価し連絡をくれた恩田晃さんをきっかけに彼らとの関わりが始まりました。
その後、彼を通して素晴らしい出会いをいただきました。
その恩田さんから「沢田さんのツボにくるサウンドでは?と思いますよ」とフィッシュマンズの最新作『空中キャンプ』を紹介されました。
初めて聴くや否や、その独特のサウンド、そして佐藤伸治さんの声と歌詞が沁みたのはもちろん、譲さんと茂木さんが紡ぎ出す独特のグルーヴで、彼らが具現化する音楽は至福の領域にあるんだと魅了されてしまいました。
当時の驚きは、感想を語れば陳腐になるほどで、完璧な音楽と言っても過言ではなかったですね。
こんなオリジナリティー溢れるバンドが日本にいたんだという驚きと感動でその後すっかりファンになりましたが、過去のアルバムも聴きたいとメディア・レモラス時代のアルバムを一気に聴きました。
自身が目指す音楽にはないサウンドにすっかり魅了され、すっかりリスナー状態でしたが、それとは別に音楽家としては彼らとの邂逅を願うようになりました。
当時を思い出しながら、やや偏光フィルターもかかりつつ書き綴りますが、30年も前で思い入れもあるので、その辺はご容赦ください(汗)。

お互いの音楽に欠かせない関係になった譲さんとの素晴らしい出会い
ある日、彼らが制作の拠点にしていたワイキキ・ビーチ・ハワイ・スタジオに恩田さんと伺いました。
それが、まずは関わりのスタートでしたかね。
当時、フィッシュマンズのエンジニアとして常駐されていたZAKさんとの出会いがそこであり、のちにフィッシュマンズ周辺の音楽家との制作が始まることになりました。
その中でも譲さんとの出会いは自分にとっては青天の霹靂と言いますか、素晴らしい出会いになり、彼との出会いから自身の音楽人生において有意義な時間をいただくことになりました。
『空中キャンプ』がリリースされた同年には譲さんプロデュースのMariMariさん『Indian Summer』に参加することになり、このシングルで佐藤伸治さんとの共演があり、今となってはそのことが大切な賜物になりました。
ちなみに収録曲“one happy”では、ストリングスアレンジとコントラバスを担当させていただきました。
ブラジル音楽へのリスペクトが共通してあったことで譲さんとは親交を深めるようになり、自身プロデュースのji ma ma『Dragonfruit Moon』ではサウンドプロデユースをお願いしたり、譲さんのPolarisではストリングスアレンジなどを担当したりと、お互いの音楽制作には欠かせない関係になっていきました。
佐藤さんのメッセージが刺さって思いが入りすぎたFISHMANS+
大切な思い出の一番は、やはり2011年に野音で開催された〈FISHMANS+〉ですね。
ストリングスセクションのアレンジと演奏で参加することになりましたが、佐藤伸治さんが残した未来への予言とも言うべきメッセージが鋭く刺さってリハ中何度も自分の思いが入りすぎ、ZAKからのダメ出しもあったように記憶しております。
そのリハ期間に3.11が起こり緊張が走りましたが、なんとか開催する方向になりました。
未曾有の原発事故が未だ収束はしていない事実も今や忘れ去られていますが、佐藤さんのメッセージに耳を傾けることで現在の我々は隠された悪を拒絶し目覚める必要があるのではと改めて思います。
『空中キャンプ』がこの世に存在したことは凄いことです
ところで、譲さんと茂木さんがスカパラの加藤さんと3人で結成された〈So many tears〉。
このバンドのうねるグルーヴ感は『空中キャンプ』で衝撃を受けた独特の浮遊感と同じで、またやられてしまったな~って感じでした。
最後に、フィッシュマンズ『空中キャンプ』がこの世界に存在したこと、その中心であった佐藤伸治さんがこの世に生を受けて作品を生み出したことは凄いことなんです。ひとりのファンとして彼らに感謝しかありません。
PROFILE: 沢田穣治

コントラバス奏者/作編曲家。
映画やアニメのサウンドトラック、舞台作品の音楽、フィールドレコーディング作品の制作、アルバムのプロデュースなど、その活動領域は音楽が存在する場所すべてといってもよいほどに多岐にわたる〈破天荒音楽家〉。プロジェクトごとに楽器(コントラバス、フレットレスベース、ギター、ピアノなど)を持ち替えるマルチインストゥルメンタリストであることが、沢田の表現活動をよりミステリアスなものにしている。
ブラジル音楽の室内楽トリオである〈ショーロクラブ(Choro Club)〉での活動は37年にも及ぶ。
近年は京都市立芸術大学でのバシェ音響彫刻の修復・研究にも関わり、演奏家/作曲家としてロームシアターで公演をおこない、2018年には映像作家ヴィンセント・ムーンとのコラボレーションも果たす。
現代音楽および邦楽器などのための室内楽作品の作曲と並行して、おおたか静流、川本真琴、畠山美由紀、ヴィニシウス・カントゥアリア、ジョイス、フェルナンド・カブサッキ、太田裕美、忌野清志郎、ji ma ma、EPO、松下奈緒、サイモン・フィッシャー・ターナーといった数多くのシンガー/音楽家達の公演やアルバム制作・プロデュースに精力的に関わる。
2022年には七尾旅人の新作アルバム『Long Voyage』にストリングアレンジほかで参加。
盟友でもある中川陽介監督の作品の音楽を長く担当し、近作に「コザママ♪ うたって! コザのママさん!!」の音楽などがあり、佐藤順一監督の「ARIA」シリーズでも長く音楽を担当。
代表作には2012年に海外の音楽家も多数参加した総勢20名による『NO NUKES JAZZ ORCHESTRA』などがあり、最新作は『武満徹ソングブック -コンプリート-』。個人の音楽プロジェクトとしては、2020年、闘病を機に個人レーベル〈アンノウン サイレンス(Unknown Silence)〉を始動させた。
オフィシャルサイト:https://www.unknown-silence.com/
UPLINK京都・吉祥寺の劇場で総合芸術イベント〈Unknown PRISM〉を2年連続で主催。中山晃子、アオイヤマダ、富沢ノボルを始めとするトップクリエイター達や沢田音楽に欠かせないミュージシャンが参加した。
近年の代表的なリリースには作曲家の窪田ミナとの室内楽アンサンブルNowhere Chamber Ensemble『Tempo Caotico』、高木正勝と京都ゆかりの音楽家で立ち上げたアンサンブルCloseness Ensemble of Kyoto『WaBaSaTa』などがある。
