声優アーティストのトップを走り続ける水樹奈々が、3年ぶりのオリジナルアルバム『CANNONBALL RUNNING』をリリースする。アニメ主題歌のシングル曲や振り幅の多彩な新曲など、実に全17曲を収録。30代ラストでデビュー20周年イヤーを控え、撒いてきた種がすべて実を結んだようなスペシャルな1枚となった。

水樹奈々 CANNONBALL RUNNING キング アミューズメント クリエイティブ(2019)

アルバム制作に当たっては毎回、最初にコンセプトを決めるのでなく、直感的に「歌いたい」と思った曲を選んでいくという。その中で今回の新曲は、シンプルな構成のものが多くなった。

「シングルやデジタルリリース曲がパンチのあるもの揃いなので、さらに濃い曲を加えたらこってりしすぎて、3曲くらいで〈もういい〉と止められそうで(笑)。水樹奈々といえば強くて激しい曲というイメージを、良い意味で裏切りたいと思いました。女性らしい優しさや包容力を感じるバラードは、アルバムでは絶対入れたかったです」

その「まさにやりたかった」というバラードが“マーガレット”。ゆったりとリズミカルなアコーステック・ギターが印象的で、自ら手掛けた歌詞は草原のチャペルでのささやかな結婚式を思わせ、〈幸せになると誓います〉などと水樹の温かい歌声が映える。

「春に行った〈ナナラボ〉(ひとつの楽器×水樹のヴォーカルで構成したライヴ)の経験を活かせました。ボーカルだけが中心だけではなく、シーンごとにギターにスポットが当たったり、ヴォーカルに当たったり移り変わることで、心地良く曲に身を委ねていただける音を目指しました。それはアニメのアフレコと同じだと思います。〈私、私!〉とワンマンではダメ。自分の務めを果たしつつ、周りの発信するものに瞬時に対応して、みんなでひとつの作品を作り上げていく。自分の歌も楽器のひとつ。音を受け取って表情を変えて、とにかく曲が一番良くなることを考えています」

曲を歌いこなすのに必死だった頃は気付けなかった感覚が、スキルを上げた今はある。ドラマチックなもうひとつのバラード“ALL FOR LOVE”ではミックス・ヴォイス、軽快なオールディーズ・ロック調の“Knock U down”ではファルセットを効果的に駆使している。

「私の高音はレーザービームのようで(笑)、心の震えや愛に包まれた優しさを表現するには強すぎる時もあるので、“ALL FOR LOVE”のサビはミックス・ヴォイスで、今までにないまろやかさを出しました。“Knock U down”の主人公はダメ男に振り回されて、うんざりしていて(笑)。〈これからは私らしく生きる!〉という心の内を天の声のようなイメージで、裏声でソフトに歌っています」

さらに、アニメ「戦姫絶唱シンフォギア」シリーズの激アツな主題歌を手掛けてきた上松範康によるピアノ・ロック“カルペディエム”では、超高速な言葉のたたみ込みが圧巻だ。

「滑舌命の曲なので声優として試されているなと(笑)。ただ早口で歌ってもダメ。タイトなリズムの中にもアクセントをしっかり付けて言葉の輪郭をハッキリさせ、〈本当はどうしたいの?〉と、主人公の心に針を刺していくイメージでした。本気出さない主義の主人公の本音と建前が交錯する様子をメリハリ付けて表現したかったんです」

幼少期から父親に歌の特訓を受け、来年デビュー20周年を迎える水樹だが、3年ぶりのこのオリジナル・アルバムを聴くと、シンガーとして、いまだ進化の途上にあると感じる。

「1曲目の“Higher Dimension”では、今までで一番高いBにチャレンジしました。年齢を重ねると一般的に高音が出にくくなると言われていますが、鍛え方次第で音域を広げられることを体感しています。デビューの頃から担当していただいているPAさんにも〈今の声が一番良い〉と言っていただけました。以前はライヴで低音域が出にくい時があったのが、トレーニングを見直した後は、しっかり太い音圧で出ているそうです。自分でも、声に脂が乗ってきたのを感じます」

アルバムには恒例で自ら作曲したナンバー“UPSETTER”も収録。プロデューサーから〈メジャーコードで構成してライブで盛り上がるけど泣ける要素もある曲〉とのお題を出されていた。

「それって一番難しいテーマなんです(笑)。曲ができるまで2週間かかって、ラグビーワールドカップの日本×南アフリカ戦の直前に降りてきました。だから詞に〈gain〉とか〈パス〉とか入ってます(笑)。社会人になって色々な壁にぶつかっている人に向けて、〈今できることを精いっぱいやればいい〉というメッセージを込めた応援ソングにしたかったんです」

来年3月からは全国ツアーを行い、40歳の水樹奈々が始動する。

「30代で試行錯誤したことが安定してきて、できることも経験値も増えて、体力的にもまだまだ。40代は最高に楽しくなりそうな予感がします。更に進化した歌声を届けたいです!!」