©2019 映画「アンダー・ユア・ベッド」製作委員会

2019年日本映画の過激な刺客!

 30年間生きてきて誰からも名前すら憶えてもらえなかった孤独な男が、大学時代に唯一自身の名前を呼んでくれた女性に11年間想いをを馳せ、ストーカー、盗撮、盗聴、そして彼女の家のベッドの下に潜み始める…。ベッドの下に長時間潜る為、主人公が 意を決して成人用オムツを装着する。予告編にも登場する主人公の変態的で滑稽なシーンに、観客がまるでアメコミヒーロー誕生のような高揚感を覚えるといったら驚かれるだろうか。

安里麻里,高良健吾 アンダー・ユア・ベッド ハピネット(2020)

 構成の妙がある。主人公が思いを馳せた女性は、夫から毎晩DVを受けていることが判明する。R18指定の凄惨なDVシーンを直視させられた観客は、ベッドの下に潜り込む主人公に女性を救出する“ヒーロー”になることを託し応援してしまうという寸法である。歪で狂気的な恋愛映画と、DVという“牢獄”からの潜入/救出を図るサスペンス映画が手を取り合う。アブノーマルな物語や手を抜かない暴力表現といった過激な要素が、それ自体自己目的化することはなく、恋愛映画、サスペンス映画というジャンル映画的な愉悦にあくまで奉仕する様は、どこか懐かしく爽快ですらある。

 監督の安里麻里は黒沢清や塩田明彦の助監督を経て、2004年『独立少女紅蓮隊』のデビューから本作まで多作な“職人”と目されてきた。安里の美点は、どんなジャンルであっても素材に合わせて最良の演出を施した結果、映画自体が映画であるが故に思ってもみない輝きを放ちはじめる瞬間にある。 近年の『バイロケーション』『劇場版 零~ゼロ~』で垣間見えたそんな安里の逆説的な“作家性”が、本作で完全に開花した。俳優(高良健吾、 西川加奈子が素晴らしい!)や美術撮影録音等、現場のエネルギーを安里が巧みに作品に反映/昇華させた結果であろう、映画が放つ異様なテンションとグルーヴは2019年日本映画の中でも屈指のものだといっていい。

 全てが収斂するラストには息を呑む。結末はここでは伏すが、圧倒的なカタルシスが待っているとだけはお伝えしておきたい。是非ご自身の目と耳でご確認いただければと思う。