©2019「カツベン!」製作委員会

「舞妓はレディ」から5年。お待ちかねの周防正行監督最新作!
今回の主役は、サイレント映画時代の暗闇の英雄・活動弁士!
どんな物語が展開しますやら、皆々様、さあさあ、お立ち会い!

 映画黎明期。フィルムに音はついていなかった。つけられなかった。代わりに、音楽の生演奏がつき、日本では活動弁士なる職業も生まれて、映画をさまざまに〈補完〉し、〈翻案〉した。現代の人気女性活動弁士・澤登翠によれば、最盛期には7千数百人もの弁士が日本の映画興行界には存在したとか。弁士によっては、映画や俳優以上の人気を集めたという。

 「舞妓はレディ」以来、5年ぶりとなる周防正行監督の最新作は、そんな〈活動弁士とその時代〉を描いた青春人情喜劇である。

 物語の舞台は今からおよそ100年前の大正期。幼少期から活動弁士に憧れていた青年・染谷俊太郎(成田凌)は、その夢を安田虎夫(音尾琢真)ら悪い仲間に利用されて、盗人の片棒を担ぐ日々。いいかげん、警察から追われる生活に嫌気がさした頃、とある街の靑木館なる常設活動写真館に、流れ着くこととなる。今度こそ〈ホンモノ〉の活動弁士になる!と決心する俊太郎であったが、そこで待っていたのは人使いの荒い館主、酔っぱらいの活動弁士、傲慢で自信過剰な活動弁士、気難しい映写技師などまさかの曲者のオンパレード! そのうえ、安田や安田一味を追う刑事にも目を付けられ、夢を叶えるどころか人生最大のピンチに! そんな中で再会を果たしたのは、幼なじみの初恋相手、果たして俊太郎の夢や恋の運命はいかに。

 普段、日のあたらない題材に着目し、その面白さ、真の価値を掘り起こす――。活動弁士という現代では影を潜めた職業を見直した本作品は、その意味ではまたまた周防正行映画の王道を行く新作になった。いかに弁士の語り口ひとつで大衆が映画に熱狂したか。丁寧に再現されたかの時代からは、当時の風俗、日常が垣間見えるばかりか、それを映し出しているこの映画自体が大正期の映画=活動写真そのままの体裁をとることで、古き良き時代の笑いの純粋さ、のどかな作劇テンポも探られる。一種の二重構造映画として、風情と含蓄に富んで味わい深い。

 妙な色欲、目をそむけるような下劣な表現とも無縁。総じて健康的かつ品性豊かな作風も、おなじみの周防調。例によって、年齢不問。老若男女、幅広い客層が楽しめる。もっとも、今回はズブの素人が体技や知識を訓練の上、獲得し、極めるような成長物語ではない。主人公の青年弁士の腕前は、登場した時点で、すでにプロはだし。そこは「シコふんじゃった。」「Shall we ダンス?」「舞妓はレディ」の気分で臨むと、ちょっと勝手が違う新しさ。

 新しいといえば、何よりも今回は脚本を周防自身が書いているわけではない。「それでもボクはやってない」「終の信託」などの周防作品に助監督として参加してきた片島章三によるオリジナル脚本を採用しており、周防にとって他人の脚本を使った長編映画の演出はこれが初めてのこと。趣向も違って当然。大男が壁をぶち抜いて暴れるような大がかりなアクションまで用意される。堂々たる活劇娯楽表現が周防作品で展開する、その新味。

 出演陣にもフレッシュな顔ぶれがそろった。俊太郎役にはオーディションで選ばれた成田凌。撮影前、周防とともに活動弁士、講談師らの〈伝統話芸〉を何度も見て回り、果ては人気弁士・坂本頼光の指導のもと、弁士の実技を学ぶという徹底ぶり。その訓練の成果は、完成品を見てのお楽しみ。

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 ヒロイン・梅子役の黒島結菜もオーディションで選ばれた。こちらは無声映画の女優を目指す少女という設定だが、俊太郎がとある事情から、弁士の仕事に支障をきたす場面では、即席の女性弁士となって彼をサポート。これまた相当な練習をして臨んだとのことだが、澤登翠もかくやの、頼もし嬉しの可憐な名調子。

 靑木館のライバル館・タチバナ館の娘役・井上真央。活動写真大好きの警察官役で竹野内豊ががなり声を奮起して出したかと思えば、高良健吾や永瀬正敏もそれぞれ人気弁士、ベテラン弁士役として、これまた弁士特訓の冴えを見せる。

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 周防組の常連俳優も健在。徳井優、田口浩正は正名僕蔵とトリオを組んで、靑木館のさえない楽士を好演。その靑木館の館主・竹中直人の役名はもちろん青木富夫で、女房役は渡辺えり。笑いの縁の下は、またも彼らによって支えられた次第。

 劇中に登場する無声映画も、ほとんどがこの映画のために新たに製作されたもの。シャーロット・ケイト・フォックス、上白石萌音、城田優、草刈民代といった面々が、どんな形で顔を見せているのか。それを探すのも、この映画のまた別のお楽しみ。

 撮影は昨年の9月18日から11月にかけて行われたが、中でも福島市民家園に残る明治期建立の芝居小屋・旧広瀬座(福島県伊達市より移築。国指定重要文化財)を使っての靑木館・活弁描写はかなりの見もの。先述の俊太郎&梅子のタッグ弁士の場面もここで撮影されている。観客に扮したエキストラ陣とともに、活動写真館の熱気を共有できること必至だ。

 また、今回は往事の大衆流行歌“東京節”を劇音楽の主題曲に設定。エンドロールでは片島の作詞、周防義和の編曲、奥田民生の歌唱で、新たに“カツベン節”としてリメイクしている。その無垢な活気、郷愁たなびく響きに身を委ねながら、かぐわしき大正ロマンに最後までじっくり浸っていただきたい。

 


映画「カツベン!」
監督:周防正行
音楽:周防義和
エンディング曲:奥田民生
出演:成田凌/黒島結菜/永瀬正敏/高良健吾/音尾琢真/竹中直人/渡辺えり/井上真央/小日向文世/竹野内豊
配給:東映(2019年 日本 127分 )
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◎12月13日(金)ロードショー!
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