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僕はネオアコで人生を語る

――初期のゴメスと言えば、やはりファースト・アルバム『GOMES THE HITMAN in arpeggio』(97年)の1曲目“僕はネオアコで人生を語る”が、タイトルからして強烈ですよね。

「後悔しているんですけどね、そのタイトルに関しては(笑)」

97年作『GOMES THE HITMAN in arpeggio』収録曲“僕はネオアコで人生を語る”

――そうなんですか(笑)。

「事ある毎に、〈山田さん、この曲のタイトル、すごいですね〉って言われて、〈なんでそんなに大きいこと言っちゃったんだろう〉って(笑)。

この間、ナタリーのコラムで僕らが取り上げられたときも、この曲のSpotifyのリンクが貼り付けられていたんですよ。〈これ、一番下手な曲だよ〉って(笑)。……まぁ、言葉としてもキャッチーだし、リリースした当時も〈なんだ、このタイトル〉って引っ掛かって曲を聴いて下さった人たちも多かったので、いいんですけどね。

今、45、6歳になって、こういう話を笑いながらできていることは、幸せなことなのかもなって思います。〈ネオアコで人生を語る〉なんて言って、1枚で解散しててもねぇ(笑)?」

――そうですね(笑)。

「まぁ、いまだに語り続けていますけど。60歳くらいになって、あの曲を演奏できたらすごくかっこいいなと思いますけどね」

 

普段着でいい――〈ネオアコ〉というアティテュード

――当時の山田さんにとって、〈ネオアコ〉とはどのようなものだったのでしょう?

「〈ネオアコ〉というジャンルを深く掘り下げて聴いていたかというと、大体は後追いだったりするんですよね。自分にとって〈ネオアコ〉というワードは、どちらかというと、姿勢、アティテュードに近いものだったんです」

――アティテュード、ですか。

「僕の世代はハード・ロックやヘヴィメタルがめちゃくちゃ流行っていて、中学生の頃にはガンズ・アンド・ローゼズやメタリカなんかをギターでコピーしていたんです。ああいう音楽って、〈黒い服を着なきゃいけない〉みたいな、形がある音楽だったんですよね。

でも、そんなときに出会ったネオアコのバンドたちは、普段着で、歪んでいないぺらっぺらなギターの音で、日常的に思っているなんでもないことを歌にしていた。そこで、〈俺でも日常の延長で音楽ができるんだ〉という感覚が植え付けられたんですよ。ライブをやるにも髪の毛を立てなくていいし、スーツも着なくていいし、ボロボロのTシャツでいい。大学で勉強して、ご飯食べて、家に帰って友達と電話で話す……その延長で音楽をやるのって、すごく自分に合っているなと思ったんです。肩ひじ張らなくていいし、形から入らなくていい、自然でいいんだって。

それまではヴォーカリストであること恥ずかしくて、サブでギターを弾いていたのが、こんなにかっこつけなくてもいいんだったら、自分でオリジナルをやろうと思えた。そのきっかけが、僕にとってのネオアコだったんですよね」

 

なによりも大きかったR.E.M.というバンド

――〈ネオアコ〉は〈ネオ・アコースティック〉の略称ですけど、日本で生まれた言葉なんですよね。そこに括られるアーティストたちの源流を辿ると、本来的にはパンク~ポスト・パンクの文脈ですよね。

「そう、掘り下げていくと、〈ポスト・パンク〉ということなんですよ。捻くれているし、人が聴かないマニアックなものに惹かれるしっていう、自分のなかにある〈メインストリームではないんだ〉という概念を言語化しようと思ったときに、〈オルタナティヴ〉という言葉が出てくる前に、〈ネオアコ〉という言葉があったという感じなんです。そういう意味で、〈僕はネオアコがやりたいんだ〉ということは、自分の所信表明として、すごくハマりがよかったんですよね」

――当時、特に好きだったバンドはいますか?

「トラッシュキャン・シナトラズというバンドがすごく好きでした。鍵盤がいるネオアコ・バンドだったので、音作りの面で、すごく参考にしましたね。あと、ちょうどスウェディッシュ・ポップが流行ったタイミングとリンクしていたので、エッグストーンやカーディガンズも好きでした。

トラッシュキャン・シナトラズの90年作『Cake』収録曲“Obscurity Knocks”

でも、当時の自分にとってなによりも大きかったのは、R.E.M.です。中学校2年生の頃にR.E.Mを知って、〈俺しかこのバンドを知らないんだ〉という優越感も秘めながら、ずっとそのバンドが好きでした。もう解散してしまいましたけど、今でもR.E.M.が一番好きなバンドです。音楽的な影響は、そんなにわかりやすい形では出ていないけど、その精神性は、ネオアコの源流がポスト・パンクにあるのだとしたら、R.E.M.のことはずっと自分の頭の中にありますね」

R.E.M.の87年作『Document』収録曲“It's The End Of The World As We Know It (And I Feel Fine)”