今年デビュー20周年を迎え、14年ぶりの新作『memori』をリリースするGOMES THE HITMAN。そのフロントマン・山田稔明の単独インタビュー、これまでのキャリアを振り返った〈前編〉に続き、新作『memori』について語った〈後編〉をお送りする。

2018年の段階で〈新作ではネオアコをやる〉と宣言していた山田だが、前編でも〈ネオアコとはアティテュードだった〉と語った彼だけあって、それが単純な原点回帰やノスタルジーに落ち着くわけもなく、『memori』は、GOMES THE HITMANが20年以上のキャリア経て辿り着いた境地ともいうべき傑作に仕上がっている。

90年代の初期作品に響いていた煌めくメロディーと〈ここではないどこか〉への夢想、2000年代に入り〈まちづくり三部作〉を経て重量感のある作品群へと至った濃密な作家性。そのすべてのエッセンスが『memori』には刻まれているし、結果として過去のどの作品とも似ていない、2019年のGOMES THE HITMANサウンドが奏でられている。再会の喜びと、決して消えることのない悲しみ、そのすべてがもたらす温かさ――山田自身も語っているとおり、この『memori』こそがGOMES THE HITMANの最高傑作だと声を大にして断言できる、そんな素晴らしいアルバムだ。

再び〈4ピース・バンド〉というプリミティヴな場所に回帰していくところから始まったという本作の制作。この最高傑作誕生に至った思いを、山田に語ってもらった。

GOMES THE HITMAN memori ユニバーサル (2019)

 

本気でギター・ポップのアルバムを作ってみない?

――ここからは、GOMES THE HITMAN(以下、ゴメス)の14年ぶりの新作『memori』の話をじっくりと伺っていきたいと思うのですが、去年RealSoundに掲載されたインタビューで、山田さんは〈新作ではネオアコをやる〉と宣言されていましたよね。

「そうですね(笑)。〈新作を作ろう〉となったときに、最初に思ったのは〈重苦しくないアルバムを作りたい〉ということだったんです。さっきも言ったように、前作の『ripple』(2005年)が、僕自身としては好きなレコードなんですけど、当時のバンドの状況や人間関係がすごく反映されたもので。暗いアルバムというわけではないんだけど、停滞感はたしかにあったんですよね。

僕は、その停滞感をポジティヴに捉えていたし、それを曲に封じ込めようとしたんですけど、おかげで曲がやたら長かったりして、すごく思いつめたアルバムになった。なので、今回はそれとは違うアルバムを作りたかったし、だからこそ、〈次はネオアコだ〉と言ったんです」

『memori』ダイジェスト・ムービー

――〈前の自分とは違う〉というアティテュードの表明として、ですね。

「そう、あくまでもアティテュードとしての〈ネオアコ〉。今回、自分たちに〈5分以上の曲は作らない〉という決まりを作ったんですよ。絶対に4分台、できれば3分台で、5分になりそうな曲はフェードアウトしたりして(笑)。

今の僕らは、昔みたいにバンドをやるときに〈やれやれ……〉とは思っていない、すごく面白がって、楽しんでやれている。そういうバンドの状態のよさが自然と反映されたアルバムになったと思います。コーラスをダビングするときもゲラゲラ笑いながらやっていましたし。そういう意味では、バンドを組んだ20年前、ネオアコが好きだった頃の自分の気持ちみたいなものも包括したアルバムにしたいなっていう気持ちもありました」

――なるほど。

「あと、〈ネオアコ〉と言ったのは、若い世代でネオアコやギター・ポップをやっている子たちに対する挑戦、という意味もありましたね。隔世遺伝じゃないけど、僕らが聴いていた音楽を後聴きして、影響を受けながら音楽をやっている子たちがすごく多い感覚があって、面白いなと思っていたんです。〈じゃあ、僕らも本気出してみようか〉みたいな(笑)」

――いいですねぇ(笑)。

「〈ちょっと、本気でギタポのアルバム作ってみない?〉という感じで」

 

Homecomingsやシャムキャッツ、若手バンドたちから受ける刺激

――山田さんの目に、若い世代はどう見えていますか。

「羨ましいですね。〈若い〉ということは前途があることだし、〈ファースト・アルバムでこれだけのものを作れていたら、これからどれだけのものを作れるんだろうな?〉って思わされるようなバンドもいますし。本当に単純に〈いい曲だな〉〈いい歌詞だな〉って思いながら聴いています。でも、あまり聴きすぎると嫉妬しちゃうんで(笑)、聴きすぎないようにもしているんですけど」

――若い世代に嫉妬されるというのは、素晴らしいことですよね。気になるバンドはいますか?

「僕はHomecomingsがすごく好きで。ギターの福富(優樹)くんと話すと、彼も音楽がめちゃくちゃ好きだし、ゴメスをすごくリスペクトしてくれているみたいで。前に会ったとき、彼らが日本語のアルバム(2018年作 『WHALE LIVING』)を作るときに『ripple』をめちゃくちゃ研究したと言ってくれて、それがすごく嬉しかったんですよね。僕も、〈日本語で歌うホムカミを聴きたい〉と思っていたから、そういう経緯をあとで知ると、すごく嬉しくて。

あと、シャムキャッツも好きですね。彼らのような勢いのあるバンドたちには、なにかあるなって思います。言葉も面白いし」

 

やっぱりバンドだなぁ

――去年の夏には未発表音源を新録した『SONG LIMBO』のリリースもありましたけど、今回、完全オリジナルの新作を制作するということで、改めてバンドが集まったときのムードはいかがでしたか?

「最初に集まったときは、警戒し合っている感じはありましたね。〈またなにか、嫌な思いをしてしまうんじゃないか?〉っていう不安があったんだと思う。『SONG LIMBO』に関しては、アレンジが最初からでき上がっている曲たちの再録だったので楽しくやれたんですけどね。

GOMES THE HITMAN SONG LIMBO GOMES THE HITMAN.COM(2018)

2018年作『SONG LIMBO』収録曲“虹とスニーカー”

今回、新作を作るに当たって、僕はデモを作らなかったんですよ。僕がギターで弾き語ったなんとなくのスケッチだけを持っていって、それを、みんなでスタジオでセッションしていこうっていう形で進めていって。それは、ゴメスにとってはすごく画期的なことで」

――特に2000年代のゴメスは、山田さんが家で徹底的にデモを作りこんでいたわけですもんね。

「そう。でも、今回はほとんどなにもない状態からの録音だったので、自分の手の内に対して〈それ、全然ダメじゃん〉とか言われたらどうしよう?みたいな不安も、それぞれどこかにあったのかもしれないです。そういう中で、恐る恐るやり始める感じでしたね。

でも、〈やっぱりバンドだなぁ〉って思いました。意外とスムーズに進んでいったんですよ。ベーシックを録り終えるのも早くて。ただ、そこからのダビングやミックスの作業はやっぱり大変で、時間はかかりましたね。でも、憑き物が落ちるような感覚はありました」

 

〈これ、ゴメスっぽいね〉と思える場所を探して

――どんな部分が大変でしたか?

「やっぱり、アレンジひとつをとっても、選択肢がいくつもあるんですよ。〈Produced by GOMES THE HITMAN〉のアルバムなわけで、〈これだと派手すぎない?〉とか〈これだとポップすぎない?〉みたいなことのOKのラインを見極めていくのがすごく難しかったです。その〈丁度よさ〉探しに1ヶ月くらいかかりましたね。

いきなりバッキバキに派手なGOMES THE HITMANになるのもおかしいし、〈これ、ゴメスっぽいね〉と思える場所があるはずだと思って、ヴォリュームの違いとか、細かいところを探っていく感じで。そこに時間をかけました」

――その作業も、メンバー4人でやられたんですよね?

「そうですね。録音、ミックスまでベースの須藤(俊明)がやったので。誰も他の人が介在しないレコーディングっていう感じでした。マイクも自分たちで立てていましたし」

――PLECTRUMのタカタタイスケさんが、4曲目“魔法があれば”と8曲目“houston”のプロデュースにクレジットされていますけど、タカタさんの存在は、4人のゴメスになにをもたらしましたか?

「アルバムを作るとなったときに、久しぶりだし、〈もし大喧嘩になったらどうしよう?〉と思ったんです(笑)。そこで、泰ちゃんがいてくれたら、緩衝材になってくれるだろうなと思って呼んだんです(笑)。

彼が最近、プロデュース・ワークをたくさんやっているのも知っていたし、僕なんかよりも断然、ギター・ポップに造詣が深いので、〈めちゃくちゃギター・ポップにしたい曲があるんだけど、一緒にやらない?〉と言って、共同プロデューサーであり、完全に〈5人目のメンバー〉という感じで来てもらって。ものすごくいい風を吹かせてくれましたね。

クレジットされているのは2曲だけですけど、彼の存在はアルバム全体にとって、めちゃくちゃいい影響があったと思います。同世代で、いい時期も悪い時期も知っている友達なので」

 

4人でコーラスをやろう

――このアルバムは、イントロダクション的な1曲目の“metro vox prelude”から、4人の声でアルバムが始まるのがすごく感動的ですよね。

「この曲はメトロノームの音と声しか入っていなくて。基本的に、いきなり始まらないアルバムが好きなんです。『ripple』も時計の針の音で始まったし、『mono』(2002年)も、雑踏の音から始まっていて。これまでもアルバムにはイントロダクションを持たせてきたんですけど、今回も、いきなり歌が始まらないアルバムにしたかったんですよね。

そういう話をしていたときに、〈アカペラから始まったら面白いよね?〉という話になって。このアルバムは特にコーラスをたくさん入れたアルバムだったし、このアルバムを象徴するのに打ってつけだなと思ったんです。それで、このアルバムの曲の中にあるコーラスやスキャットを組み合わせてみたら、すごく上手くできて。

自分がゴメスのファンで、アルバムを再生してこの曲が流れてきたら、めっちゃテンション上がるなって思うんです。〈“metro vox prelude”の、4人のアカペラからライブが始まったらめちゃくちゃかっこいいよね〉っていう話もしていて」

――想像するだけで最高の光景ですね。そんな“metro vox prelude”をはじめ、今作がコーラスを多用した作品になった理由というのは、どういったところにあるのでしょう?

「コーラスだったら、ライブでもみんなでやれるからいいなと思ったんです。それも、今までだったらコーラスを重ねるのも、堀越(和子)の女性コーラス以外は僕が自分の声でダビングしていたけど、今回は〈4人でコーラスをやろう〉って。

それは、5年前からライブ活動を再開したことの影響も大きかったと思います。サポートも入れず、4人だけでライブをやるとなると、楽器が足りなくなることもあったんですよ。でも、そういうときは〈ここ、音源通りにコーラスを入れればいけるよ〉みたいなことが結構あったんですよね。

〈ドラムを叩きながらコーラスは難しいから……〉みたいな理由で今までははしょってきたことを、〈今はもう4人しかいないんだからやってみよう〉って、やってきたこの数年間があって。コーラスが、自分たちのライブ演奏においてすごく重要なものになっていたんですよね」

――なるほど。

「例えば“悲しみのかけら”なんかは、僕の曲でよくある、ギターの弾き語りで始まり、ドラムが入ってきて、ベースが入ってきてっていう曲なんですけど、ここにストリングスを入れて感動的にするのではなく、今回は〈コーラスでやってみよう〉ということにしたんですよね。全員がサビで歌う、いわばザ・バンドみたいにしようって。

今までだったら〈ここで管弦楽が入ってきたら感動するよね?〉みたいな感覚でダビングしていたものを、そういうものを入れずに、あくまでも4人で、バンドとしてライブで演奏しても成立するものを作りたかった。だから、〈あまり人数がいっぱいいない感じがいいよね〉という感じで作っていましたね」

 

僕らはギター・ロック・アルバムを作りたかった

――先ほど、本作を作る上でのキーワードは〈90年代〉だったと仰っていましたけど、その辺りの話も伺いたいです。

「僕が90年代に聴いていたUSインディーのバンドを、レコーディングに行く車の中で須藤さんに聴かせたりしていて。ペイヴメントとか、90年代とはちょっと違いますけど、デス・キャブ・フォー・キューティーとか、ささくれたギター・ロックをずっと聴いていたんですよね。

やっぱり、ギターがメインの音楽って90年代的だと思うんですよ。今はもう〈ギターが入っている音楽は聴かない〉っていうくらいの人がいるなんていう話も聞くくらい(笑)、ギターはダサい楽器になってしまっていると言いますけど。でも、そんな中で、僕らはギター・ロック・アルバムにしたかったんですよね」

――確かに、近年のメインストリームでは特に、ギター・サウンドの存在感は希薄になっていますよね。でも、先ほど山田さんが〈隔世遺伝〉と仰ってたように、Homecomingsのような国内バンドだけでなく、海外からも、80~90年代のネオアコやギター・ロックから影響を受けてきたようなバンドが2010年代には多く出てきた状況もありましたよね。そういった海外勢も、山田さんは聴かれていましたか?

「聴きますね、リアル・エステイトとかも好きですし。あと、僕、サンフランシスコのバンドがすごく好きなんですよね。サンフランシスコって、ぺらっぺらなギターで、夢見がちなバンドが多くて。最近聴いているのでも、例えば、ジェイ・ソムっていうのもサンフランシスコだし、あと、ノー・ヴァケーションっていうバンドもすごく好きで。彼らは〈これ、新作?〉っていうくらい、レトロなギター・ポップなんですけどね。

ノー・ヴァケーションの2017年のシングル“Yam Yam”

あと、ここ何年かは、ナショナルがすごく好きでした。僕は、彼らをR.E.Mの後継者だと思っているんですけど、今年はナショナルを観にサンフランシスコまで行ったんです。僕、RE.M.もナショナルもファンクラブに入っているんですけど……」

ナショナルの2019年作『I Am Easy To Find』収録曲“You Had Your Soul With You”

――ナショナルって、ファンクラブあるんですね!

「そうなんですよ(笑)。R.E.Mも、ナショナルも、ファンへのケアがすごくて。ナショナルは、クリスマスにファンクラブ会員にギフトも送られてきたりするんです。そういう部分がすごくいいなって思うんですよね。バンド活動をしていくうえでのお手本にしています。

あと、最近は女性シンガー・ソングライターがすごく好きですね。それも、嫉妬しないからだと思うんですけど(笑)」

――ははは(笑)。

「フィービー・ブリジャーズとか、大好き。やっぱり、僕はアメリカの音楽が好きだし、弾き語りでもバンドでも、言葉とメロディーが核にあるアーティストが好きだというのは、自分が好きなアーティストに共通しているなと思いますね」

フィービー・ブリジャーズの2017年作『Stranger In The Alps』収録曲“Motion Sickness”

 

Hey baby driver 僕を連れていけよ/ここじゃない どこか遠くへ

――新作『memori』の話に戻ると、今作を作っていくうえで、最初に作品全体の方向性を決めた曲などはありましたか?

「このアルバムに入っている曲は、一番古い曲で2004年に作った曲なんです。それこそ“悲しみのかけら”も、十数年前にゴメスで演奏したことがある曲だし、最後の“ブックエンドのテーマ”は、ライブ活動を再開する前にできた曲で。

『ripple』を作ったあとに、まさかここまで長く休むことになるとは思っていなかったので、『ripple』の次のアルバムに向けて書いていたけど、宙に浮いてしまっていた曲たちもたくさんあったんですよね。自分でソロを10年やってきた中でも、〈この曲はゴメスの曲だからな〉と思って取り上げなかった〈古い新曲〉がたくさんあって。そこに決着をつけたいという気持ちがあったので、本当に、時間を凝縮したアルバムになっていると思うんです」

――〈古い新曲〉というのはまさにな表現だと思うんですけど、“悲しみのかけら”も“ブックエンドのテーマ”も、2019年のゴメスが出す新曲として、ものすごくしっくりきますよね。表現としての年輪は感じるけど、音楽としての古さは感じないというか。僕はてっきり、全曲、近年作られた新曲なんだと思っていました。

「僕も、ここに収められた曲に自分の中で古さを全然感じないので、客観的にそう言っていただけるのは嬉しいです。

そういう曲たちの中で、〈このアルバムは上手くいくぞ〉と思ったのは、“baby driver”ができたときでした。今回は『ripple』の続きのつもりで作ってきた曲も多いので、書きこみの多い、命を削って書いたような歌詞の曲が多く入っているなと思うんですけど、“baby driver”は〈なにも言わない〉ことをテーマにして作った曲で。本当に、どうでもいい曲というか(笑)。〈ウェ~イ!〉みたいな(笑)」

『memori』収録曲“baby driver”

――ははは(笑)。

「ただ演奏して楽しい、自分にも問いかけない、単純にその状況を歌っているだけ。そういう意味では、新機軸の曲なんですよね。ただ〈海に行こうぜ〉と言っているだけなんだけど、そういう曲を作れたことが自分にとってはすごく楽しいことで。〈GOMES THE HITMANの新曲です!〉と言って出してきたと思ったら、なにも言ってない。〈いいこと言うと思っているでしょ? でも、なにも言っていないですよ〉っていう(笑)。

この曲は2年前にできたんですけど、できたときに、〈あぁ、これはアルバムの核になるな〉と思いました。それこそ、20年前に出した『weekend』(99年)の頃に通じるテンポ感の曲だし。ゴメスの新曲として最初に聴いてもらうなら“baby driver”が一番だし、〈この曲があれば、アルバムは大丈夫だ〉と思いましたね」

99年作『weekend』収録曲“雨の夜と月の光 -album mix-”

――確かに、“baby driver”はいい意味での軽薄さがある曲だと思うんですけど、冒頭の歌詞にある〈Hey baby driver 僕を連れていけよ/ここじゃない どこか遠くへ〉というようなエスケーピズムは、もしかしたら90年から、山田さんの音楽の中に根深くあり続けたものなのかもなと思ったんです。

「そうかもしれないです。でも、それこそ20年前は車も持っていなくて、当時は池袋界隈で過ごしていたんですけど、渋谷すら遠くて。生活していくのに精一杯で、海に行くことすら、憧れや想像でしかなかったんですよね。その頃、『weekend』に収録された曲なんかは、本当に妄想のなかから作りだしたもので、理想像なんです。

でも、あれから20年経ち、自分も普通に車に乗っているし、〈海に行きたいな〉と思ったら、仕事をサボって海に行けるような状況にある。そういう中で、すごく地に足の着いた逃避行の歌を書けるようになったなって思うんです。それこそ、“baby driver”は、インドネシアのバリで作ったんですよ」

――そうなんですね。

「めちゃくちゃ仕事が忙しくて疲れ切ってしまったときに、無理やり休みをとってバリに行ったんです。そこで、非日常を何日間か過ごしているときにできたのが“baby driver”で。現地のドライバーさんに、英語が通じないから身振り手振りで行きたい場所を伝えるんだけど、〈ちゃんと連れていってもらえるかな?〉っていう不安を抱えながら後部座席に座っている……そういうシチュエーションの曲なんです、実は(笑)。

昔はただの想像だったし、行った先の場所がどんなものかわからなかったけど、今はどれだけ忙しくても、〈これが終われば解放される〉みたいな感じで、行きついた先の場所が把握できるようになっている。行こうと思えば本当に行ける、というか。

昔はがむしゃらに空想や妄想に手を伸ばすようなエスケーピズムだったものが、時間が経ち、年をとったことで、今は〈本当にそこにある〉というリアリティーを持って、エスケーピズムを描けるようになった。それが昔と今の説得力の違いかなと思います。昔の曲はキラキラしているけど、今はもっと現実的で、日常と接着していると思う」

――それは、聴いていてまさに感じました。僕は今30代なんですけど、10代や20代の頃ほど無邪気に現実逃避を追い求めてはいないし、もう、そう簡単に現実から目を背けることはできない。かと言って、現実や社会ばかりを直視することも疲れてしまうし……自分の中にある欲望や夢想も、大切にしたくなる。そういう感覚に、このアルバムはすごくフィットするなって思うんです。

「〈このアルバムが日常にあったら、相当いいんじゃない?〉と思えるものになったと思うんです。僕は最近、車に乗っているときも、電車に乗っているときも、このアルバムばかり聴いているんですけど、生活のサウンドトラックとして、すごくいい作品だなと思うんですよね。いろんな景色を見ながらこのアルバムを聴くと、すごく腑に落ちるんですよ。〈この言葉の選択は間違っていなかったな〉と自分で思える。

今年の年末から、このアルバムがみんなのもとに届きますけど、ふっと暮らしが変わるなにかしらの魔法は、このアルバムにはあるような気がします。そういうものが作れたのは本当に嬉しいんですよね」

 

個人的な言葉が普遍性を持つとき

――あと、歌詞の面で言うと、現実的には触れることのできない距離や時間軸にいる〈君〉という存在にも届く〈言葉〉を探している……そういう情景を、アルバム全体から感じました。こういう、夢や記憶を探りながら〈ここにはいない誰か〉を想い、語りかけるような感覚は、山田さんのどういった部分から出てきたものなのでしょう。

「去年の暮れ、このレコーディングに入る直前に、父を亡くしたんですよ。このアルバムの曲はほぼすべて、それ以前に書いた曲だったんですけど、父の死を通して、曲の解釈が自分の中で変わっていった感覚があったんですよね。

例えば、“memoria”や“小さなハートブレイク”は、5年前に飼っていた猫を失くしたときに書いた曲だったんですけど、改めて歌おうとすると、〈あれ? 自分の中での意味合いが変わっているな〉と思ったり、〈この曲って、こういう気持ちで歌う曲だったんだっけ?〉と思いながらレコーディングしたりすることもあって。

父を失くしたことで、自分の中で発見するものがあったし、その気持ちを歌に入れることができたのは、本当によかったなって思うんです」

――実際にその曲が生まれたときの気持ちと、今の山田さんの気持ちが、作品の中で重なり合っているんですね。

「すごく個人的なことを歌っているし、それも、すごく色濃くなっているんだけど、ライブでその曲を演奏して、MCで今言ったような話をすると、ライブが終わった後に〈実は私も父を失くして……〉って話してくれるファンの方が何人もいて。年齢的にも、40代50代になってくると親も亡くなるよなぁって思うんだけど、〈周りにも、同じように感じている人がいるんだな〉って思うと、自分だけの気持ちだと思っていたものが解放されるというか。〈自分が思っていることは、それ相応の人数が感じていることでもあるんだ〉って、改めて気づかされたんですよね」

――なるほど。

「僕は昔からずっと、〈自分は作詞ができる才能があるだけで、他の人も思っていることを代弁しているだけだ〉という気持ちが強くあったんですよ。〈僕は言葉にできたけど、こういうこと、みんなも普段思うよね?〉ってずっと思い続けていたんですけど、今回のアルバムには特に、そういう歌ばかりが入っている気がしますね。〈言い方だけの問題で、こんな気持ち、あるでしょ?〉って。ちゃんとした日本語で、そういう歌詞を書けたのはすごく嬉しくて。

ゴメスは歌詞を評価していただくことも多いんですけど、別に、言いたいことがあるわけではないんですよ。伝えたいことがあるわけでもない。ただ、自分が思ったことがあったら、それは、きっと他の誰かも思ったことだし、それを共感できたらいいなと思って作ってきたんです。

このアルバムも、同じ時代を生きていて、同じようなことを感じ、考えている人が聴いてくれたらいいなって思っています。もちろん、相容れない人もいるでしょうけど、それだったら、〈僕らは、上手くいかなかったんですね〉って思うし」

 

人生の〈目盛り=memori〉

――このアルバムが完成してから、メンバーの皆さんで一緒に聴いたり、アルバムに関して話したりすることはありますか?

「この間、マスタリングする時に一緒に聴きましたけど、僕は、みんなの前で〈最高傑作ができちゃったね〉って言いました。メンバーも、〈よくなったねぇ〉なんて言ってて(笑)。きっと、みんなも最高傑作だと思っているんじゃないかなぁ」

――いちリスナーとしての意見ですけど、僕も、今作がゴメスの現時点での最高傑作だと思いました。最後に、〈memori〉というタイトルの由来を教えてください。

「人生っていう大きなものを考えたときに、〈目盛り〉は付き物だなって思ったんですよね。“背くらべ”の〈柱の傷は一昨年の〉なんていう歌詞もありますけど、時計の針が指し示す目盛りもそうだし、音楽に関しても、ギター・アンプのノブの目盛りって、〈1〉にしたら大きすぎるし、〈0.7〉でもダメだし、ほんのちょっとの目盛りの違いに命をかけて調整して、音を鳴らすんです。

それに、人と人との尺度の違いとか……そういうあらゆることが〈目盛り〉によって言い表せるし、このアルバムのタイトルも、『memori』にすることで、時間とか、メンバーの距離感とか、考え方とか、自分たちが見つめてきたもののすべての説明がつくなと思ったんですよね。

〈memori〉をタイトルにしようと思ってから、プラスチックの定規でもアンティークでも、目盛りがついたものを集め始めたんですよ。僕はそう言うことを始めると度が過ぎて集めすぎちゃうんですけど、そのコレクションが、ジャケットやブックレットには載っています」

 


LIVE INFORMATION

GOMES THE HITMAN presents
new album『memori』 発売記念公演
“MEMENTO – TOKYO”

2020年2月25日(火)東京・渋谷 WWW
開場/開演:19:00/19:30開演
ゲスト:PLECTRUM
前売り/当日:4,500円/5,000円(いずれもドリンク代別)
主催:GOMES THE HITMAN.COM
​協力:UNIVERSAL MUSIC

GOMES THE HITMAN presents
new album『memori』 発売記念公演
“MEMENTO – NAGOYA”

2020年3月21日(土)愛知・名古屋 K.Dハポン
開場/開演:18:00/18:30
前売り/当日:4,500円/5,000円(いずれもドリンク代別)
主催:GOMES THE HITMAN.COM
​協力:UNIVERSAL MUSIC

GOMES THE HITMAN presents
new album『memori』 発売記念公演
“MEMENTO – OSAKA”

2020年3月22日(日)大阪・梅田 シャングリラ
開場/開演:18:00/18:30
前売り/当日:4,500円/5,000円(いずれもドリンク代別)
主催・企画制作:GOMES THE HITMAN.COM/Shangri-La
協力:UNIVERSAL MUSIC