今年デビュー20周年を迎え、14年ぶりの新作『memori』をリリースするGOMES THE HITMAN。そのフロントマン・山田稔明の単独インタビュー、これまでのキャリアを振り返った〈前編〉に続き、新作『memori』について語った〈後編〉をお送りする。

2018年の段階で〈新作ではネオアコをやる〉と宣言していた山田だが、前編でも〈ネオアコとはアティテュードだった〉と語った彼だけあって、それが単純な原点回帰やノスタルジーに落ち着くわけもなく、『memori』は、GOMES THE HITMANが20年以上のキャリア経て辿り着いた境地ともいうべき傑作に仕上がっている。

90年代の初期作品に響いていた煌めくメロディーと〈ここではないどこか〉への夢想、2000年代に入り〈まちづくり三部作〉を経て重量感のある作品群へと至った濃密な作家性。そのすべてのエッセンスが『memori』には刻まれているし、結果として過去のどの作品とも似ていない、2019年のGOMES THE HITMANサウンドが奏でられている。再会の喜びと、決して消えることのない悲しみ、そのすべてがもたらす温かさ――山田自身も語っているとおり、この『memori』こそがGOMES THE HITMANの最高傑作だと声を大にして断言できる、そんな素晴らしいアルバムだ。

再び〈4ピース・バンド〉というプリミティヴな場所に回帰していくところから始まったという本作の制作。この最高傑作誕生に至った思いを、山田に語ってもらった。

GOMES THE HITMAN memori ユニバーサル (2019)

 

本気でギター・ポップのアルバムを作ってみない?

――ここからは、GOMES THE HITMAN(以下、ゴメス)の14年ぶりの新作『memori』の話をじっくりと伺っていきたいと思うのですが、去年RealSoundに掲載されたインタビューで、山田さんは〈新作ではネオアコをやる〉と宣言されていましたよね。

「そうですね(笑)。〈新作を作ろう〉となったときに、最初に思ったのは〈重苦しくないアルバムを作りたい〉ということだったんです。さっきも言ったように、前作の『ripple』(2005年)が、僕自身としては好きなレコードなんですけど、当時のバンドの状況や人間関係がすごく反映されたもので。暗いアルバムというわけではないんだけど、停滞感はたしかにあったんですよね。

僕は、その停滞感をポジティヴに捉えていたし、それを曲に封じ込めようとしたんですけど、おかげで曲がやたら長かったりして、すごく思いつめたアルバムになった。なので、今回はそれとは違うアルバムを作りたかったし、だからこそ、〈次はネオアコだ〉と言ったんです」

『memori』ダイジェスト・ムービー

――〈前の自分とは違う〉というアティテュードの表明として、ですね。

「そう、あくまでもアティテュードとしての〈ネオアコ〉。今回、自分たちに〈5分以上の曲は作らない〉という決まりを作ったんですよ。絶対に4分台、できれば3分台で、5分になりそうな曲はフェードアウトしたりして(笑)。

今の僕らは、昔みたいにバンドをやるときに〈やれやれ……〉とは思っていない、すごく面白がって、楽しんでやれている。そういうバンドの状態のよさが自然と反映されたアルバムになったと思います。コーラスをダビングするときもゲラゲラ笑いながらやっていましたし。そういう意味では、バンドを組んだ20年前、ネオアコが好きだった頃の自分の気持ちみたいなものも包括したアルバムにしたいなっていう気持ちもありました」

――なるほど。

「あと、〈ネオアコ〉と言ったのは、若い世代でネオアコやギター・ポップをやっている子たちに対する挑戦、という意味もありましたね。隔世遺伝じゃないけど、僕らが聴いていた音楽を後聴きして、影響を受けながら音楽をやっている子たちがすごく多い感覚があって、面白いなと思っていたんです。〈じゃあ、僕らも本気出してみようか〉みたいな(笑)」

――いいですねぇ(笑)。

「〈ちょっと、本気でギタポのアルバム作ってみない?〉という感じで」

 

Homecomingsやシャムキャッツ、若手バンドたちから受ける刺激

――山田さんの目に、若い世代はどう見えていますか。

「羨ましいですね。〈若い〉ということは前途があることだし、〈ファースト・アルバムでこれだけのものを作れていたら、これからどれだけのものを作れるんだろうな?〉って思わされるようなバンドもいますし。本当に単純に〈いい曲だな〉〈いい歌詞だな〉って思いながら聴いています。でも、あまり聴きすぎると嫉妬しちゃうんで(笑)、聴きすぎないようにもしているんですけど」

――若い世代に嫉妬されるというのは、素晴らしいことですよね。気になるバンドはいますか?

「僕はHomecomingsがすごく好きで。ギターの福富(優樹)くんと話すと、彼も音楽がめちゃくちゃ好きだし、ゴメスをすごくリスペクトしてくれているみたいで。前に会ったとき、彼らが日本語のアルバム(2018年作 『WHALE LIVING』)を作るときに『ripple』をめちゃくちゃ研究したと言ってくれて、それがすごく嬉しかったんですよね。僕も、〈日本語で歌うホムカミを聴きたい〉と思っていたから、そういう経緯をあとで知ると、すごく嬉しくて。

あと、シャムキャッツも好きですね。彼らのような勢いのあるバンドたちには、なにかあるなって思います。言葉も面白いし」