メンタルヘルスの問題を乗り越えて完成に漕ぎつけ、すでにビルボードのダンス/エレクトロニック・アルバム・チャートで1位を獲得している復活アルバムが待望の銀盤化だ。フレンチ・エレクトロという基盤にゴスペルやR&B、ディスコなどのテクスチャーを挿し込み、自身の歌唱と共に届ける内容。表層的にはレイドバックしているが、底から湧き上がる強い生命力には帰還したことの喜びが眩く漲っている。
マデオンことユーゴー・ピエール・ルクレールは、仏ナント出身。フレンチ・エレクトロ譲りのゴリッとしたビートとEDM/ビッグルーム・ハウス時代に呼応した起伏豊かなメロディーを重ね合わせ、独自の立ち位置を築き上げてきた。そんな俊才トラックメイカーによる昨年11月リリースの新作『Good Faith』が、この度ついに日本盤CDとして登場。パッション・ピットやマーク・フォスターら多数のヴォーカリストを召喚した2015年の初作『Adventure』に対し、このセカンド・アルバムでは自身の歌声を全面でフィーチャーしている。
その変化は、コラボでの特大ヒット曲“Shelter”を生みだした盟友、ポーター・ロビンソンとの生演奏や生歌を採り入れたライヴセットでの経験が後押ししたという。さらに、いくつかの楽曲には聖歌隊が参加。アルバムに厳かでホーリーなムードを添えている。もともとメロディーの良さに定評のあった彼だが、今回はフロア・バンガーな側面を抑え、ポップソングの練磨にフォーカスしたのだろう。善意や誠実さを意味するアルバム・タイトルのとおり、人生や幸福について思いをめぐらした彼の内省の旅を真摯に記録した作品だ。終盤3曲で聴かせるファルセットを使ったエモーショナルな歌唱は、巡礼者の祈りにも似た美しい横顔を覗かせている。