ドラゴネットを迎えたリゾート気分満点のダンス・ポップ“Galactic Appeal”と、2パックへの敬愛を忍ばせたようなファンク調の“Drive”が共存する光景に、改めて彼の出自を思い出したりもする。眩しく降り注ぐカリフォルニアの陽光に映える青春ヴォイスの持ち主——ザック・ウォーターズのニュー・アルバム『Z-Funk Era』は、LAに生まれ育ったこのシンガー・ソングライターのカラフルなポテンシャルを改めて証明する一枚となることだろう。
もともとメタリカやスイサイダル・テンデンシーズが好きだった父親と幼少期を過ごし、母親の再婚相手となった義父の影響でルーサー・ヴァンドロスやジョニー・ギルといったR&Bシンガーに傾倒していったというザック(初めて行ったコンサートはブライアン・マックナイトだそう)。その後はディアンジェロや2パック、アンソニー・ハミルトンといったアーティストに憧れてプロのアーティストを志した彼は、しかしながらバンド活動での挫折を経てマデオン“The City”(2012年)で脚光を浴びるまでは、長らく日の目を見ない時期が続いていた。
【参考動画】マデオンの2012年作“The City”
ソングライター/ヴォーカリストとして一定の成功を手にし、今年に入ってからは中島健人のソロ曲“Black Cinderella”(Sexy Zoneのアルバム『Sexy Power3』に収録)を共作していたり、アレックス・ガウディーノのプログレッシヴ・ハウス・チューン“Lights Go Out”に客演するなどコンスタントに露出のある彼だが、シンガー・ソングライターとして自身の作品を送り出す際には、そうした期間の人生経験も投影し、自身の奥深くにある深層心理を掘り下げてキャッチーなメロディーと両立させるのだという。そのようなプロセスを経て生まれたのが、初のフル・アルバム『Lip Service』からTV番組「テラスハウス」の挿入歌にも選ばれた話題曲“Runnin Around”であり、哀愁を帯びた人気のラヴソング“Over You”であったわけだ。
【参考動画】ザック・ウォーターズの2013年作『Lip Service』収録曲“Runnin Around”
さて、昨年の来日タイミングに合わせて放った『Limited EP』を間に挿み、このたび約2年ぶりのフル・アルバムとして完成された『Z-Funk Era』は、ソロ・デビュー以来の盟友となるジャラッド・クリステイン(ミーカ、ミア・マルティナ、Fairies他)を引き続きパートナーに迎えて制作されている。エモーショナルなメロディーをドリーミーなアレンジで盛り上げるアウル・シティ系のダンサブルなシンセ・ポップ・サウンドはザックにとっても自身の魅力を引き出す正攻法となっているが、今回はどことなくブレイクボット&イアファンっぽいディスコ・フィーリングも纏った先行カット“Gotta Move Around”や、ウェッサイなレイドバック・ムードを湛えた先述のLA讃歌“Drive”、グリッティなベースやホーンの賑やかな“My Jam”、パーティー・ファンクの“Thirsty”、コーラス・ワークの麗しいフュージョン・ソウル風の“Brad Pitt”など、ザックが昔から親しんできたソウル~R&Bやヒップホップのテイストがよりナチュラルに表出されていて、タイトルでみずから定義した〈Z-Funk〉というアプローチも単なる思い付きのダジャレではないということがよくわかるだろう。
極めてキャッチーで普遍的なポップネスを発散しながら、さらにパーソナルな表現としても純度を高めた『Z-Funk Era』。暑い季節の出来事を甘く、あるいはホロ苦く振り返ってしまう秋の初めには、本作が恰好のサウンドトラックとなるはずだ。
ザック・ウォーターズ
LA出身のシンガー・ソングライター。ロック・バンドのブルースカイリアリティで活動を始め、2008年に『The Cabin Sessions』をリリースする。その解散後はソロ活動に移行。2012年にマデオン“The City”のソングライター/ヴォーカリストとして脚光を浴び、並行して自身のシングル“Skinny Dipping In The Deep End”を発表。アダム・ランバート“Trespassing”のリミックスや、キャンディランド“Not Coming Down”への客演などを経て、2013年にファースト・アルバム『Lip Service』をリリースする。翌2014年には『Limited EP』をタワレコ限定で発表し、〈サマソニ〉出演のため来日も果たした。9月11日にニュー・アルバム『Z-Funk Era』をリリースする。"