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ブラック・パレードの栄光とバックラッシュ

〈Three Cheers〜〉の成功でポスト・ハードコアやエモ、スクリーモといったオルタナティブなシーンで絶対的な人気を確立したマイケミが、ロック・バンドとしての金字塔を打ち立てたのが3作目の『The Black Parade』(2006年)である。ここで彼らは、デヴィッド・ボウイにおけるジギー・スターダストのようなオルター・エゴとしての架空のバンド、〈The Black Parade〉として、末期がんの男性である〈The Patient〉の人生の最後と死後の行方を描いた。

 コンセプチュアルな作品や物語を得意とするバンドであることは既知ではあったものの、壮大なロックオペラ作品を届けてきたのには、筆者を含めた多くのファンが度肝を抜かれた。グリーン・デイが2004年にリリースし大成功を収めた『American Idiot』という布石はあったものの、メジャー・デビューからわずか2作目でいきなりのロックオペラ。かのクイーンですらロックオペラを放ったのは4作目のことだ。

2006年作『The Black Parade』収録曲“Welcome To The Black Parade”

まるで生き急ぐかのような成長を刻んだ同アルバムは、米通算300万枚、日本でも30万枚という商業的な大成功をもたらす。バンドは日本武道館を含めた世界ツアーを敢行した。このツアーでは、ライブ本編ではThe Black Paradeとしてメイクアップもコスチュームもしっかりと作り込んで『The Black Parade』の全曲をパフォーマンス。その後マイケミとして、同作以外の楽曲を披露するという構成をとった。

その一方で、彼らが自称していないことはおろか、否定すらしているジャンル、エモの顔役というレッテルからか、2008年に英Daily Mailが、彼らのファンだった13歳の少女の自殺にバンドが関連しているというレポートを書いたことがあった。バンド側はもちろん抗議し、ファンもプロテストのマーチをしてバンドを擁護。だが、音楽ファンのなかにはバンドのヘイターも数多く、2007年の英〈Download Festival〉でヘッドライナーを飾った際には、おびただしい数のペットボトルがステージに投げ込まれ、ブーイングが轟く事態にも。2008年5月9日のNYマディソン・スクエア・ガーデンで『The Black Parade』ツアーのフィナーレを飾り、そしてその公演を記録した作品『The Black Parade Is Dead!』で締めくくったこの時期は、栄光の日々とは単純に括れない複雑な期間でもあった。