
すべてを〈できない〉わけではない
――そういうリファレンスがあちこちにあるのが面白いなと思います。それから、小日向さんの特徴は何と言っても歌詞ですよね。さっきも話した〈できない〉こと、つまり社会や人と噛み合わないことや、怒りとか寂しさが歌われているのがグッときます。どんなふうに書いているんですか?
「何小節かはそのときに思ったことで、そこから膨らませることが多いです。例えば“水色”だったら〈青い空が落ちてくる 気づいて 溢れちゃいそう〉の部分が最初に出てきたんですよ。〈山梨あいどるフェスティバル〉に出たときに、山梨の風景ってビルもなにもないから、どっちが上か下かわからなくなるような空だったんですよね。その不思議な感覚から最初の歌詞が思いついて。いまは眉村(ちあき)とかオタクとかみんなと仲良しみたいな感じで一緒にいるけど、東京に帰ればバラバラになるし、そこにいる人たちは私のファンじゃない人もいるから、もう会えないかもしれないから寂しいなという思いを曲にしたいと思ったんですよね。あとはお母さんが不幸に生まれてきちゃったから仕方がないってことばかり言ってたのを否定したい気持ちとか、色々なものが混ざって一曲になりました」
――noteに綴っている文章を見ても、言葉の人なんだなと思います。
「少し前からnote新規が現れるようになって。現場には行けないけどnoteを読んで音源を買うみたいな人も結構いるんです。そういう人も含めて、私を面白いと思ったり、共感できると思ってくれる人たちに向けて、私は幸せになるから見ててほしいなっていう気持ちも込めた歌なんですよね」
――だからすべてを〈できない〉わけではないんですよね。言葉を通じて人の心を動かすことができているわけで。
「人よりできない人間として生まれたこととか、こういう生い立ちだから不幸だとか、嘆きたくもなるし、実際嘆いているけれど、何をすれば楽しいかっていうのを見つけていきたいんですよ。生まれたらどうせ死ぬんだから、諦めない。どんなハンディを背負っても、心の持っていきかたできっと幸せになれるんじゃないかなと思って。私はマイナス思考で、何もプラスには考えられないタイプだから大変なんですよ。楽しいと感じて生きるのは大変だけど、それをプラスに変えるきっかけを掴めたなと思ってもらえたら嬉しいなと思ってます」
――“コミニュケーション廃止”の〈のびたカップ麺〉だって、全然コミカルな描写じゃなくて、何かひとつ行動が挟まるとお湯を入れたことを忘れてしまうんですよね。
「そう! 後になってうわーっていう。これを直そう直そうと思ってるのに直せないんですよ。スマホがおかしくて致命的に不便なんですけど直せない、とか(笑)。修理のお金がないわけでもないのに!」
――曲名や言動からユーモラスな印象を受けるんだけど、じつは繊細で切実な描写があちこちにあるなと思います。“モップは何も語らない”とか。
「“モップは何も語らない”は最初、業者1とやっていたんですけど、完全におちゃらけた歌詞だと思われていて。でもこれは、バナナの皮で転んだから始まるバカな歌だと思われてもいいし、わかる人にはなんて深い歌なんだって思われる歌にしたかったんですよ。ちゃんと意味を持たせたいっていう話をしたら、業者1に〈この曲聴いて泣く人がいると思います~? 面白いに決まってるじゃないですか~?〉って言われて……。その点、業者2はわかってくれる。“メンタルパイプハンガー”は業者2がメタルチックな曲を作りたいって言い出したんですよ」
――メタルにラップが乗る曲ですよね。
「私、メタルとか聴かないし全然わからないんですけど、出だしの音をちょっと作ってもらったので、帰りの電車で〈すり減ったメンタル 来いか恋か 干からびた心に 水をくめ!〉ってボイスメモに録音して送ったんですよね。そしたら〈すり減ったメンタルなんて共感しまくりだよ!〉って言ってくれて。同じ側の人だなって(笑)」
――音だけじゃなくて歌詞の面でも理解してくれる人に出会えたのはよかったなと思います。それから、“キラキラ”はミスチルみたいな90年代のJ-Popだなと感じました。いまとは作風が違いますよね。
「あれはジュディマリなんですよ。“空想少女”“キラキラ”“ストールンハート”“どうしようもないウソ”は8年くらい前に作った曲で、当時は未来の希望とか恋に溢れてたんでしょうね。明るさが見受けられる。“キラキラ”は一番化けた曲だと思います。生き返ったという意味でよくなった曲だと思う。で、“妄想するなら”“コミニュケーション廃止”“モップは何も語らない”は3年前くらいに作った曲で、頑張った結果、生きづらさがピークに達している頃です(笑)」
――その後の近作ではモードもまた変わりましたか?
「生きづらさのもう一歩先をうまく表わせたらいいなと思っているんですけど、なにせ生きづらい渦中にいる人間なので(笑)。先が見えてたらもっとうまくいってると思います。でも、最近は深く考えずに、感じたことをそのまま表せたらなと思って作ってますね」
――小日向さんの短くない歴史がここにまるっと収録されたわけですが、冒頭で話してくれたように、今はすでに次の作品への意欲が湧いている段階なんですよね。
「はい。私には業者がいるので、すごい勢いで曲を作れる制度が整っているので。8年前はオリジナル曲を作ってもらう課金バトルでアイドルが競ったりしてるのを傍から見てたんですよ。これ、誰が得してるって主催者じゃん、みたいな。いまはそんなのに参加する必要がないですよね。ストックも何パターンかあるから、そこから膨らませて形にすることもできると思うし、きっと半年とかでできちゃいますよ。楽しみです。でも、まずはこれ(『夢じゃないよ』)をもっとみんなに聴いてもらうことからですね」
LIVE INFORMATION
小日向由衣&なりすレコードpresents
「ラママを救え!ソフトクリームフェスティバル vol.1」
2020年3月25日(水)東京・渋谷La.mama
開場/開演:18:30/19:00
予約/当日:2,200円/2,500円+ソフトクリーム食べ放題1,000円
(開場から終演までラママのソフトクリームが食べ放題/ドリンク希望の方は別途ご購入下さい)
出演/イヴにゃんローラーコースター、ponz(小日向由衣バンド)、honninman、ぼんぼん花ーーー火、るなっち☆ほし
予約:https://tiget.net/events/89579
