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ではここで、リー・コニッツの隠れた名演をいくつか紹介させていただこう。

Lee Konitz “Yesterdays”(1951年)

初期、特に53年以前のリー・コニッツの演奏は謎めいている。スウェーデンの現地ミュージシャンとのライブ盤に入っているこのバラード曲では、テーマの提示部からも予期される通りに後半へ向けて無調に突入していく。初期の演奏について、伝記によると当時はハーモニーについての知識がなく、自分で何を吹いているのかよくわからなかったと語っているが……。

名盤『Subconscious-Lee』(49~50年録音)の中の名曲“Rebecca”でも同様の抽象的な演奏をしており、一部では全て書き譜なのではとも言われてきたが、これを聴く限りアドリブでこのレヴェルの演奏を日夜していたのだと思わされる。

 

Lee Konitz-Warne Marsh Quartet “You Stepped Out Of A Dream”(1959年)

共にレニー・トリスターノの元で学び、素晴らしいコンビネーションを見せたテナー・サックス奏者ウォーン・マーシュとのライブ録音。テーマ部からアルト音域で絡みつくマーシュはそのまま小節線を隠しながら横へ横へとフレーズを紡ぐ。5年ぶりの共演でコニッツはマーシュに対して気後れしていたとのことだが(この日トリスターノの代役でピアノを弾いているのはビル・エヴァンスだが、彼も同様に怖気づいていたらしくほとんどバッキングで弾いていない)、マーシュのソロに鼓舞されて同時期の他の録音よりも緊張感のあるソロを見せる。そのまま2管で絡み合ったソロを2分以上続けるが、偶然フレーズが重なるところもあり面白い。

ちなみにこのライブ盤『Live At The Half Note』は90年代に出た発掘盤だが、70年代にトリスターノがコニッツのソロを全てカットしたヴァージョンをウォーン・マーシュ名義でリリースしていた。カルト化した集団は恐ろしい。

 

Lee Konitz “Blues For Bird”(1965年)

これは65年に催されたチャーリー・パーカー・トリビュート・コンサートにおけるコニッツの無伴奏ソロ演奏。コニッツは無伴奏ソロというフォーマットに挑んだパイオニアの一人で、録音作品もいくつか残している。

ここでは会場のカーネギー・ホールの響きを確かめながら通常よりもビブラートを効かせて彼なりのブルースを表現している。コニッツは中期以降、構造や曲の尺に縛られないオープンな演奏に向かっていくが、その片鱗が見える。