©Adam Jandrup

リー・コニッツらと共演した録音が10年の時を経て、ECMからリリース

 デンマーク生まれのヤコブ・ブロは、ウォルフガング・ムースピール、ドミニク・ミラーと並ぶ、新世紀ECMの看板ギタリスト。即興演奏に軸足を置きながらも、ビョークの『ヴェスパタイン』に参加したトーマス・ナックと共演盤をリリースするなど、柔軟な音楽観の持ち主として知られる。

 そんな彼の最新作『テイキング・ターンズ』は、リー・コニッツ(アルト・サックス/ソプラノ・サックス)、ビル・フリゼール(ギター)、ジェイソン・モラン(ピアノ)、トーマス・モーガン(ダブル・ベース)、アンドリュー・シリル(ドラムス)という豪華面々による10年前の録音だ。

 「元々自分のレーベルから出すつもりだったけれど、マンフレート・アイヒャーが気に入ったのでECMからリリースすることになった」とヤコブは言う。

JAKOB BRO 『Taking Turns』 ECM/ユニバーサル(2024)

 アルバムでやはりデカいのは、2020年に逝去したコニッツの存在。「コニッツの音は年を経るにつれてか弱くなってきたけれど、それがより感動的に思えた」そうだ。

 「レニ・トリスターノらと演奏していた50年代のコニッツの作品は難解なイメージを持たれがちだったけれど、僕はシンプルなメロディのフォーク・ミュージックで彼にインプロヴァイズしてもらいたかったし、彼もそれを楽しんでいたんじゃないかな」

 無音のスペースを重要視し、行間や余白を活かしたヤコブ流の音作りは本作でも健在。幼い頃からアンビエントやエレクトロニック・ミュージックやミニマル・ミュージックも摂取してきたという彼ならではの、空間構成の妙には目を瞠るものがある。

 「ギターをソロ楽器というよりも、場の空気をつくるための装置として考えているんだ。リーダー作でも、場を設定して、そこに自分の音が必要なかったらあえて弾かないこともある。引き算の美学? ああ、そうだと思うよ。空間の作り方で影響を受けたのは、トーク・トークのマーク・ホリスのソロ作。高田みどりのアルバムも大好きだ」

 2025年2月にはヤコブやコニッツらのレコーディング風景や日常を切り取ったドキュメンタリー映画「ミュージック・フォー・ブラック・ピジョン」も公開される。同作のテーマはずばり、過去の豊穣な音楽遺産を未来へとバトンタッチする行為の尊さ。そしてそれは、ヤコブの音楽に向きあう姿勢とも共振/呼応する。ヤコブの先達への敬意と未来への期待は、いささかも揺らいでいないことが、この映画を観るとよく分かるだろう。

 


MOVIE INFORMATION
映画「ミュージック・フォー・ブラック・ピジョン ――ジャズが生まれる瞬間――

監督:ヨルゲン・レス/アンドレアス・コーフォード
出演:ヤコブ・ブロ/リー・コニッツ/ポール・モチアン/ビル・フリゼール/高田みどり/マーク・ターナー/ジョー・ロバーノ/ジョーイ・バロン/ジョーイ・バロン/トーマス・モーガン/マンフレート・アイヒャー
2025年2月28日(金)より、ヒューマントシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国時順次公開
https://www.musicforblackpigeons.com/