巨匠ブニュエルの〈メキシコ時代〉の代表作2作が初ブルーレイ化!
巨匠ルイス・ブニュエルのフィルモグラフィーは、シュールレアリム時代の「アンダルシアの犬」からフランス時代の遺作「欲望のあいまいな対象」までどの時代も傑作揃いだが、分けても低予算で日活無国籍アクションのような映画まで撮っていた〈メキシコ時代〉を愛するファンは多い。今回はその〈メキシコ時代〉の代表作2作が初のブルーレイ化である。
「忘れられた人々」は、メキシコシティの貧民街の不良少年の物語だ。イタリアン・ネオリアリスモに通底する〈社会派映画〉然としているが(カンヌ映画祭監督賞受賞)、例えば不良少年たちが盲目の老人や障害者を襲う場面の容赦のなさは、これぞブニュエルの真骨頂である。罪悪感から主人公が見る悪夢シーンの素晴らしさが見ものだ。
「エル」は、ブニュエルの最高傑作という声も多い。かの精神分析家ジャック・ラカンが精神病理学講義に使用したことでも伝説となった作品である。脚に見惚れて結婚した妻が不貞を働いているという嫉妬心と猜疑心にかられた男の物語。誰かが妻を覗いているでは?と、主人公が鍵穴に長い針を差し込む名場面など、エスカーレートする異常行動とその結末には震撼あるのみだ。
この2作を含めブニュエル映画に一貫するのは、虫の生態を観察する昆虫学者のように人間の愚かさ滑稽さを見つめるところだろう。ただ、ブニュエルは人間の愚かさ滑稽さを声高に〈告発〉する訳ではない。例えば「エル」の狂気的な主人公は自身の分身であるとブニュエルは言うのだ。愚かで滑稽な人間がいるのではなく、ただ人間が愚かで滑稽なのだ。その事実から誰しも逃れられない悲劇/喜劇こそブニュエル映画というべきだろう。
その意味でブニュエル映画はすべて地続きで繋がっているかのような奇妙な〈錯覚〉を見る者にもたらす。作品を見れば見るほど面白さが倍増するブニュエル映画! 来るべきメキシコ時代の傑作群のブルーレイ化を心待ちにしようではないか。