ラスト・アルバム『Rainbow Ends』

映画「The One Man Beatles」で制作中の状況が映し出されていた新曲群は、その後、配信音源として2011年に3曲がリリースされた。メリー・ゴー・ラウンドのメンバーだったジョエル・ラーソンがバックアップし、ドキュメンタリーではエミットの活動再開を半信半疑に思っている様子だったキース・オルセンもミキシングで参加。さらにバングルス、リチャード・トンプソン(!)というサプライズ・ゲストも加わったが、残念ながらこの時点でのリリースは大きな話題を呼ばなかった。

そこから再び中断の時期があり、結果的にラスト・アルバムとなった『Rainbow Ends』(2016年)までのプロジェクトを再開させたのは、プロデューサーのクリス・プライスや、元ジェリー・フィッシュのジェイソン・フォークナー、ロジャー・マニングJrら、彼の音楽に育てられた面々だった。

リリースされた『Rainbow Ends』のジャケットを見た瞬間、エミットの表情に気持ちがとても動揺してしまった。彼は再びアルバムを出せたことを喜んでいるのだろうか。それとも長すぎた休暇を悔いているのだろうか。英語では〈The End Of The Rainbow〉とは〈決してたどり着けないところ〉転じて〈叶わぬ夢〉と解釈されることが多い。

2016年作『Rainbow Ends』
 

でも、エミットは、endedではなくendsと言っているよね。彼の描いた夢と理想はまだ続くつもりなのだと思いたくなった。かつてエミットは、たったひとりで3年間で6枚のアルバムを作ると宣言し、自分にとって最高のサウンドを実現するつもりだった。夢の形は変わったかもしれないけど、やっぱり夢見ることをやめることはできなかったな。ジャケットの顔は、今ではそんな気持ちを物語っているように、ぼくには見える。

 

夢見ることをやめられなかった永遠の12歳

ドキュメンタリー「The One Man Beatles」にはせつないシーンも多いけど、もう一度ミュージシャンとして復帰を図ろうとするエミットに対する友人たちやミュージシャンたちの声に胸が熱くなった。なかでも、マイケル・ペンが送ったエールが大好きで、いまでもはっきり思い出せる。マイケルは60歳になったエミットの復帰を「20歳の天才ミュージシャンとしてはもう遅くても、12歳のだだっ子みたいに音楽を新しくやれるかもしれない」と後押ししたのだ。最高じゃないか。

エミット・ローズは70歳の生涯を終えたが、彼が残した作品群は誰の心にも住む〈12歳の夢〉をこれからも刺激し続けるだろう。