日本やアジアだけにとどまらず、アメリカ、ヨーロッパにまでその名が轟き始めた藤井 風。2025年は待望のニューアルバムのリリース、欧州と北米ツアーの開催など例年以上にアクションの多い年となった。さらなる飛躍が約束された2026年を前に、今年の藤井の活動を時系列で振り返っていく。 *Mikiki編集部

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新章の始まり

1年前、筆者は2024年の藤井 風の活動を〈アメリカ〉〈成長〉〈挑戦〉と3つのキーワードに沿って掘り下げた。初のアメリカツアー、“死ぬのがいいわ”がアメリカレコード協会にゴールド認定されたこと、“満ちてゆく”“Feelin’ Go(o)d”など新機軸となる楽曲のリリース、日産スタジアム公演の成功など、活動の軌跡だけを追えばまさに順風満帆な1年だったと言えるだろう。

そんな激動の1年を締めくくった「第75回NHK紅白歌合戦」での“満ちてゆく”のパフォーマンスも圧巻だった。挑戦の舞台の1つでもあったニューヨークから中継を繋ぎ、明かりの灯った部屋から外へ出た藤井が街中を歩き、最後は朝日が降り注ぐビルの屋上で熱唱するという一発撮りのドラマティックな演出に誰もが魅了された。今振り返れば、このパフォーマンスも“満ちてゆく”で描いた壮大な愛を表現するとともに、自身がこれまでいた場所からさらに大きな舞台へと羽ばたいていくことを我々に伝えていたのではないだろうか。

年が明けて2025年、藤井の最初のアクションは日本コカ・コーラ〈い・ろ・は・す〉の新アンバサダー就任と新曲“真っ⽩”のリリースだった。藤井自身、CMのタイアップは過去に何度か経験しているが、直接新曲を書き下ろすのは2021年の“きらり”以来とのこと。CMも“満ちてゆく”などのMVを手がけた山田智和がディレクターを務め、まさに〈チーム藤井 風〉として取り組んだプロジェクトだった。

5月に開催された国内最大規模の国際音楽賞〈MUSIC AWARDS JAPAN 2025〉では、藤井は最優秀アルバム賞、最優秀国内シンガーソングライター賞、最優秀クロスボーダー・コラボレーション楽曲賞に輝いた。京都ロームシアターで行われた授賞式ではピアノの弾き語りで“満ちてゆく”を披露。自身を写したモノクロ写真をピアノの上に置き、時に激しく打鍵しながら歌う藤井のパフォーマンスには、どこか崇高なムードが漂っていたように思う。

6月に入ると、藤井は長らく制作していた全編英語詞の3rdアルバム『Prema』が完成したことを発表、さらに先行シングルとして“Hachikō”を配信リリースした。250(イオゴン)、トバイアス・ジェッソ・Jr.、サー・ノーランとタッグを組んだ“Hachikō”は、冒頭のサンプリングボイスやストリングスシンセなどクラブミュージックを意識したトラックに、映画「ハチ公物語」を観て着想を得たという歌詞とメロディが乗ったエレクトロポップで、藤井の新章の始まりを華やかに彩ってみせた。

日本国内での活動に一旦区切りを付けた藤井は、新たな挑戦でもある初のヨーロッパツアーを7月よりスタートさせた。単独公演のほか、デンマークのロスキレやオランダのノース・シー・ジャズなどのフェスにも顔を出し、欧州各国のリスナーに直接自らの音楽を届けたのだった。ちなみにヨーロッパでのライブではエイミー・ワインハウス“Love Is A Losing Game”のカバーを披露していて、こうしたカバーなどを通じてオーディエンスとの距離を縮めるあたり、何とも藤井らしい振る舞いだ。