原 摩利彦が“Via Muzio Clementi”のミュ―ジック・ビデオを公開した。

京都を拠点に国内外を問わず、ポスト・クラシカルから音響的なサウンド・スケ―プまで、舞台・ファインア―ト・映画音楽など、幅広く活躍する音楽家の原 摩利彦。彼が今年6月にリリ―スしたニュ―・アルバム『PASSION』から、“Via Muzio Clementi”のMVを公開した。

MVは、原の祖父母が68年に海外旅行をした際、8ミリ・フィルムに残した世界各国の風景の映像を併せたもの。曲名の由来になっているロ―マなど、各国の都市を移動していく映像からは、当時の人々の飾り気のない温かな日常を垣間見ることができる。さらに、ひとつひとつの風景を逃さないようにとカメラを構えていたであろう原の祖父母の感情までをも感じられることができる。

原からのコメントは以下のとおり。

―――MV 《Via Muzio Clementi》に寄せて―――

 幼少の頃、祖母はリビングの壁にミノルタ社の小さな映写機でスライドフィルムを投影して、海外の風景を何度か見せてくれた。これらのフィルムは祖父母が1968年に海外旅行にでかけた際に撮影したもので、医師だった祖父の視察旅行でもあったらしく、医療施設の写真も何点かある。フィルムの入った箱には鉛筆で訪れた地名――――モスコ―、ロンドン、パリ、ベルリン、ロ―マ、ナポリ、コペンハ―ゲン、アムステルダム、ジュネ―ブ、ニュ―ヨ―ク、ロス、ホノルル――――が書かれていた。

 昨年、KYOTOGRAPHIE(京都国際写真祭2019)のアソシエイテッド・プログラムで何十点かのフィルムと、私が近年録音した音の旅の記録をミックスした展覧会を開いた。壁に投影した写真は、1968年の世界への窓のような気がして「Window」の語源の「Wind Eye」という言葉をタイトルにつけた。この展覧会の準備中に見つけた8mmフィルムをデジタル化して、初めて私は祖父の動いている姿を見た。どうやらライカのカメラは主に祖母が、8mmカメラは祖父が撮影していたようだ。生涯で一度だけの大旅行を少しでも多く残しておきたいと思ったのだろう。

 この曲は、アルバム『PASSION』の仕上げを兼ねて2019年夏に滞在したロ―マのアパ―トで作曲した。タイトルはそのまま滞在地のムツィオ・クレメンティ通り(「Via Muzio Clementi」)としている。風でゆれる白いカ―テンと外光の差し込む落ち着いた部屋で仕事をして、史跡をめぐり、おいしいものを食べるという幸せな時間を過ごした。

 今年の夏は旅に出ることは叶わなかったが、半世紀前の旅の記録と旅の途中で作った音楽を合わせることができた。次の旅にでられるまで、去年はいなかった新しい家族とともにゆっくり待とうと思っている。

原 摩利彦

『PASSION』からは、森山未來が出演した“Passion”のMVも公開中。また、京都ロ―ムシアタ―で行われた原の単独公演〈FOR A SILENT SPACE〉のパフォ―マンス映像もYouTubeで観ることができる。ぜひ併せてチェックを。