コラム

「SF映画のタイポグラフィとデザイン」未来らしさを視覚化する〈書体〉を仔細に分析した驚異の一冊

未来の組版 未来を先回りするSFの視覚化とのその実践

デイヴ・アディ,マット・ゾラー・サイツ,篠儀直子 『SF映画のタイポグラフィとデザイン』 フィルムアート社(2020)

 これは、SF映画がいかに未来らしさをタイポグラフィとデザインによって生み出して来たのかを仔細に分析した驚くべき本であり、その読書体験は本書でとりあげられた映画を観るのと同じくらいに、最高にエキサイティングなものであった。

 本書では、現在にまでいたる映画における未来のデザインの系譜を、「2001年宇宙の旅」を起源としているように、以降、観客もまた、未来を印象付けるために使用された書体から未来を感じるようになったという。

 宇宙空間を舞台にした未来を描いた映画が、現在において制作される際、映画のタイトルや字幕テロップはどうあるべきだろうか。過去を舞台にした映画における時代考証はもちろん重要だが、まだそれは実際にあったものである。しかし、未来となると、それはまだ誰も見たことがない、未来予測の問題になる。

 現在の映画なのだから、現在のフォントと文字組みで作られるしかない、ということは当たり前のように感じられるが、それでは映画内の時間とのギャップが生まれてしまうし、それが未来であるというリアリティが感じられない。また、未来のテクノロジーを表すために、同時代のテクノロジーの特徴を(それは未来には無くなっているかもしれないけれど)レファレンスとして残すといった手法など、現在の延長としての未来の描き方は、それが製作された時代によって異なってくる。

 この本は、いままで、これほどに映画の中の書体について考えながら映画を観たことはなかったと思わせるだろう。しかし、そうではなく、映画の内容や製作者の意図はそのデザインの細部にまで浸透しているのであって、映画を観る体験によって、それが無意識に刷り込まれるのだろう。

 この本が驚異的なのは、タイポグラフィについての分析と考察のみならず、そうした膨大な記号の集積としての映画の数々を、製作時のデザインやテクノロジーの同時代的な状況との対比によってあざやかに分析してみせるところにある。

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