才気迸るコリィ・テイラーの表現力に驚くばかりだ。ご存知スリップノット/ストーン・アワーのフロントマンによるソロ作は既定のヘヴィー路線とは一線を画しながら、ロック好きもを魅了する見事なバランス感覚に長けた内容。特に大らかな歌唱力を活かしたパフォーマンスは、ジャンルや世代を問わない普遍性を帯びている。どの曲も人懐っこいメロディーに貫かれており、こうした肩肘張らないフレキシブルな資質こそ、彼が魅せたかった素顔なのだろう。ピアノ・バラード“Home”(名曲!)、テック・ナインとキッド・ブッキーを交えたラップ・メタル調の“CMFT Must Be Stopped”も文句ナシのかっこ良さ。質の高い楽曲を揃え、音楽的間口を狭めない開放的な曲調は一級の娯楽作と言っていい。 

 


結論から言ってしまおう。ソロ名義での初アルバムとなる今作は、本隊スリップノットとも自身のプロジェクトであるストーン・サワーとも異なるが、とにかくメチャクチャカッコイイ!

スリップノットは2019年にアルバム『We Are Not Your Kind』をリリース。本来であれば2020年はそのツアーに明け暮れている予定だったが、コロナ禍によって自宅待機を強いられた為、ソーシャル・ディスタンス対策を整えた上で気心の知れたミュージシャンたちをスタジオに集めて本作の制作に取り掛かったと言う。アヴィーチーの“Wake Me Up”のメタル版とでも言おうか、カントリー調の“HWY 666”に始まり、ともすれば80年代のヘア・メタルかと思わせるポップで煌びやかな“Samantha’s Gone”、重戦車の如きロックンロール“Meine Lux”、爽やかオルタナ・ポップ“Kansas”、美メロ・ピアノ・バラード“Home”など、どの曲もスリップノットやストーン・サワーでやるには明らかに違和感があるが、個々の楽曲のクオリティーは非常に高く、コリィの声にも非常にマッチしている。メロディアスなヘヴィー・ロック・チューン“Black Eyes Blue”や、プロレスの入場曲になりそうなラップ・メタル“CMFT Must Be Stopped [feat. Tech N9ne & Kid Bookie]”あたりは彼の真骨頂だ。

スリップノットにおけるドロドロ感や重苦しさは本作ではほとんど無く、全体的にカラッとした明るさが感じられ、彼自身が非常に楽しんで制作したことがうかがえる。正直、バンドの制約から解き放たれるとここまで振り幅を広げられるのかと驚いた。この先どこまで行ってしまうのか、次作が恐ろしくも楽しみだ。