写真:加藤甫

多くの人がかかわる芸術活動の可能性をどうとらえるのか

 〈合奏〉という語をあまり耳にしなくなった。文字をみればぴんとくる。このことばであらわせるものは、もっと馴染んだ音楽用語よりオープンで自由なイメージ。この小冊子、英語では〈OUR MUSIC〉だ。

杉原環樹,清宮陵一 『いま「合奏」は可能か? -心・技・体を整えて広場にのぞむために』 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京(2020)

 オリンピック開催に同時期にTokyo Tokyo Festivalが予定された。〈隅田川怒濤〉もそのひとつ。隅田川を〈営みの場所〉としてとらえかえす。この小冊子もそうして生まれた。登場するのはパフォーマーやミュージシャンじゃない。パフォーマンス云々について語られはしない。多くの人たちを巻きこむ、巻きこまざるをえない、そしてすべての人を絶対的に肯定するわけではない、多くの人がかかわる芸術活動が、どう可能にする/なるのか、可能性をどうとらえるのか。そんな問いへの道筋が複数の声で織りなされてゆく。

 〈チューニング〉するのはVINYLSOYUZ LLC代表の清宮陵一。5つの声がつづく。法律 (弁護士・齋藤貴弘)、まちづくり(公共空間プロデューサー・飯石藍)、宗教(僧侶・近江正典)、医療(医師・稲葉敏郎)、音響(サウンドエンジニア・ZAK)と、異なったところからの声がべつべつに発せられ、〈合奏〉する。

 〈合奏〉するためにも、段取りがある。やっちゃえばいい、わけじゃない。スムーズでありつつ、相互に刺激を与えあい、ひとりやふたりではありえない何かを感じる。こういうの、つぎもまたやりたいよね、とおもわせる。その方向に、参加する人だけでなく、まわりの人たちももってゆく。そのための声がここにある。そして、この小冊子もまた、ひとつの〈合奏〉の試みなのだ。

 現時点で〈隅田川怒濤〉の開催は困難かもしれない。が、小冊子に提起されている〈公共空間を営みの場所として取り戻すには?〉へのいくつかの切り口は、今後にとってすくなからぬ意味を持ちつづける。〈トライアル〉でかまわない、手にしてみては?

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tarl.jp/library/output/2019/2019_ourmusic/