©Robbie Documentary Productions Inc. 2019

兄弟のような絆で結ばれ、唯一無二の音を奏でたザ・バンド。
その波乱に満ちた旅路を描いた初めてのドキュメンタリー映画

 昔々、兄弟のような絆で結ばれたバンドがいました。彼らは長い旅をして理想郷を見つけたものの、やがて傷つけあい、最後には悲しい別れをしたのでした……。60年代のロック・シーンに大きな影響を与えたカナダのバンド、ザ・バンドの物語は、ロック・バンドをめぐる寓話のようでもある。2016年にメンバーだったロビー・ロバートソンが「ロビー・ロバートソン自伝 ザ・バンドの青春」を出版。それをもとに制作された、ザ・バンドをめぐる初めてのドキュメンタリー映画が「ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった」だ。映画にはロビー・ロバートソンが登場。彼の発言を中心に、ボブ・ディラン、エリック・クラプトン、ブルース・スプリングスティーン、マーティン・スコセッシなど、ザ・バンドを愛した人々のコメントも交えながらザ・バンドの旅を振り返っていく。

 アメリカ先住民の居留地で生まれたロビーは10代の頃にギターに夢中になり、ロカビリー・シンガー、ロニー・ホーキンスのバック・バンド、ホークスに加入する。そこで出会ったのが、バンドのリーダーだったリヴォン・ヘルムをはじめ、リック・ダンコ、リチャード・マニュエル、ガース・ハドソンといった面々だ。意気投合した彼らはロニー・ホーキンスのもとを離れて独立。しばらくドサ回りの日々が続いたが、そんな彼らの運命を変えたのがボブ・ディランとの出会いだった。ディランのマネージャー、アルバート・グロスマンの目に留まり、彼らはディランのバック・バンドを務めるようになる。

 ヒップスターとの共演で上昇気流に乗ったかと思いきや、当時、ディランはアコースティック・ギターをエレキに持ち替えたことで「ユダ(裏切り者)」と罵られ、行く先々で罵倒を浴びていた。演奏しても誰も聴いてくれない。しかも、結局、誰かのバック・バンド。そんな日々に疲れ果ててリヴォンは脱退。バンドに解散の危機が訪れるが、NY郊外のウッドストックに全員で引っ越したことが転機になった。都会の喧騒を離れ、〈ビッグ・ピンク〉と呼ばれた農場で共同生活を送りながらジャム・セッションに明け暮れる。それは彼らにとって至福の日々だった。リヴォンも戻ってきて、彼らは曲作りに没頭。そして1968年。ついにファースト・アルバムにしてロック史に残る名盤『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』を完成させる。

 

ブルース・スプリングスティーン ©Robbie Documentary Productions Inc. 2019

マーティン・スコセッシ ©Robbie Documentary Productions Inc. 2019

エリック・クラプトン ©Robbie Documentary Productions Inc. 2019

 映画では当時の映像や写真が数多く登場するが、やはりウッドストック時代のものが素晴らしい。農家の一室で楽しそうに演奏している映像からは、音楽と生活が溶け合っていたことが伝わってくる。フォトセッションで撮影された写真の佇まいは、まさに〈アメリカーナ〉。サマー・オブ・ラヴの華やかさとは無縁のダウンホームな雰囲気が漂っていて、ブルースやカントリー、ゴスペルなど、ルーツ・ミュージックを掘り下げていた彼らの姿勢が、その佇まいからも伝わってくる。ビッグ・ピンクは彼らの理想郷だったのだ。しかし、幸せな日々は長くは続かなかった。

 アルバムが話題を呼び、順調に音楽活動を続けるなかで、ロビー以外のメンバーはアルコールやドラッグを楽しむようになる。一方、ロビーは結婚して子供も生まれ、音楽を職業として続けるために、毎日ピアノに向かって曲作りをする。大人として振る舞うロビーと、大人になれないメンバーとの間に溝が生まれていく。やがてロビーは大物プロデューサー、デヴィッド・ゲフィンに誘われて、セレブが住むマリブに家族と移住。他のメンバーはウッドストックを離れようとせず、ザ・バンドは分裂してしまう。ビッグ・ピンクはザ・バンドにとって学生寮のように心地良いアジール(聖域)だった。ロビーは前進するために、そこを〈卒業〉することを決意。実質上、バンドの解散ライブとなった〈ラスト・ワルツ〉を企画するが、それはザ・バンドへの決別であり、彼にとっての卒業式だったのかもしれない。そして、ザ・バンドは解散。5人はバラバラになってしまう。

 

©Robbie Documentary Productions Inc. 2019

 映画の冒頭、ロビー・ロバートンソンが自分で書いた本作のテーマ曲“ワンス・ワー・ブラザーズ”を聴いて「この曲を聴くとザ・バンドのことを思い出す」と呟くが、この映画は失われた絆、そして、すでにこの世を去った3人(リヴォン・ヘルム、リック・ダンコ、リチャード・マニュエル)へのレクイエムなのだろう。映画の原題は「Once Were Borothrs / Robbie Robertson And The Band」だが、本作はロビーから見たザ・バンドの物語。27歳という若さの監督、ダニエル・ロアーはメランコリックな感情は抑えめにして、名もなき若者たちが世に出ようと奮闘する姿を生き生きと描き出した。「ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった」はロックの寓話であり、ほろ苦い青春映画でもあるのだ。映画を観終わった後、原題の〈And〉というワンワードがずしりと胸に響いた。

 


CINEMA INFORMATION

映画『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』
監督:ダニエル・ロアー
出演:ザ・バンド〈ロビー・ロバートソン/リック・ダンコ、リヴォン・ヘルム、ガース・ハドソン/リチャード・マニュエル〉/マーティン・スコセッシ/ボブ・ディラン/ブルース・スプリングスティーン/エリック・クラプトン/ロニー・ホーキンス/ヴァン・モリソン/ピーター・ガブリエル/タジ・マハール/ジョージ・ハリスン/他
配給:彩プロ(2019年 カナダ、アメリカ 101分)
©Robbie Documentary Productions Inc. 2019
theband.ayapro.ne.jp
◎2020年10月23日(金)角川シネマ有楽町、渋谷WHITE CINE QUINTOほか 全国順次公開