ふざけてるようにも、真面目なようにも聴こえる音楽
――だいたい2020年の頭にはこのメンバーが揃ったんですね。
安宅「2月くらいです。僕の誕生日も2月17日なんですけど、5人が揃った日にバンドの新しいかたちが生まれたなと思いました。〈過去の俺らが死んでった〉って感じですかね」
一同「(苦笑)」
――そのタイミングで、バンド名もdaisanseiになって。その後、この5人になってからの充実が、今年に入ってからの4か月連続での新曲シングル配信という活動につながってるのではないかと思うんですが。
安宅「まさにおっしゃる通りです。あの曲たちで大きく変わった感じがあります」
――脇山さんが参加した時点でもサウンド面での変化はあったとは思うんですが、そことは違うものですか?
安宅「連続のシングルでいうと、最初の“北のほうから”(2020年4月)は、僕がすごく落ち込んでたときに自分に対する励ましのお便りとして作らせてもらったような曲でした。次の“体育館”(2020年5月)は、たまたま〈体育館は迫ってくる〉みたいなフレーズができたので、そこから膨らませていったら、いつの間にか僕の内側にいる〈中二のときの俺〉に宛てた曲になってしまって。この2曲あたりが自分の内側と向き合う期間でしたね。そして、それを脇山がより掘り下げてきたという感じでした」
――脇山さんが掘り下げた、とはどういう感じで?
安宅「僕を部屋の隅に追い詰めてきましたね。〈もう自分の心からは逃げられないからね〉と言われた気がします」
――……(苦笑)。
脇山「“ショートホープ”までの彼の歌詞はわりと情景描写的な歌詞で、それも美しいんですけど、もうちょっと心に残る歌が欲しいとなったときに、どこまで自分と対話しながら作れるかというのを追求したのがその2曲だったなと思いますね。心情描写にフォーカスして、〈つまりここってどういう気持ちなの?〉っていうQ&Aを繰り返していきました」
安宅「彼(脇山)がやってくれたのは僕の歌詞の推敲とかじゃなくて、歌うときの気持ちはどっちなのかを整理してくれたんです」
脇山「シングルの最初の2曲は、僕ら2人で曲を詰めてスタジオに持っていって完成させた感じだったんですけど、“しおさい”(2020年6月)、“ざらめ、綿飴”(2020年7月)では、メンバーによって広がっていったかもしれないですね」
――“しおさい”で印象的なのは、フジカケさんによる朗読ですね。
安宅「彼女が自身で希望しました。〈私、朗読やりたいかもしれないです〉って」
フジカケ「……ウソです(笑)」
――またあからさまなウソを言いますね(笑)。
フジカケ「前から朗読を入れたいとは言われていたんですけど、(“しおさい”の)コーラスを録ったあとでお願いされました」
安宅「なんか自然に思いついてしまって。お願いしたら一発でできましたね。僕が朗読をやっちゃうとコミック・バンドになりかねないんですけど、(フジカケは)そうならないギリギリのところを持ってる人だなと思って。ふざけてるようにも聴こえるし、めっちゃ真面目なようにも聴こえる。そのスレスレな感じは僕だと出ない」
――そういうスレスレな感じって、daisanseiの曲自体にも言えますよね。真面目かもしれないけど笑っていいのかも、と感じられるところもある。たとえば“北のほうから”の歌い出しって、ほとんど細川たかしの“北酒場”みたいじゃないですか。
安宅「これはね、意識してたわけじゃないんですよ! やってしまったんです(笑)」
――でも、正解だと思うんです。耳に残るし。一応、(安宅の)出身も秋田県で、〈北のほう〉だし。
安宅「意味なくそれにしてるわけじゃないんで。“北酒場”の世代と、こっちの世代で分かれてくると思うし。“北酒場”と張り合おうという感じです(笑)」