2021年よりバンド体制になったcolormal(カラーマル)のヴォーカル/ギター担当イエナガと、自身のソロ・ユニットmeiyoの他に、侍文化SAM4416POLLYANNA、HGYM、プールと銃口といったバンド・ユニットにも在籍し、数々のアーティストのサポートや楽曲提供も行うワタナベタカシの二人による連載〈今月のイエナベ!〉。東西を代表するインディー・アーティストの雄でもあり、友人同士でもある二人が、前月に聴いて良かった音楽を3曲ずつ、〈イエでナベでも食べながら報告しあう〉ように紹介する連載です(たまに編集の酒井が茶々を入れます)。それではお二人、張り切ってどうぞ~!

★colormalイエナガとmeiyoワタナベタカシの〈今月のイエナベ!〉記事一覧

 


①Kazero “Thaï na na”

ワタナベ「何年かに一度ネット上で〈変だけどクセになる曲〉として紹介され、そのたび大きな話題になったりならなかったりしている曲。ひたすらにチープなスカ × ニューウェーブ。奇跡的とも言える気色の悪いタイミングで気色の悪い半音階のメロディで差し込まれる〈たぁいぃなぁなぁなぁ~〉を、気がつけばどうしようもないほどに待ち望んでいる! この曲が唯一のヒット曲とのことだけど、他の曲も必ずどこか異常で、計算づくな感じがヒシヒシと」

イエナガ「テレビやライブハウスで流れているとShazamしちゃうタイプの曲だね……。水でふやかし続けたDEVOのような緩さで、ワタナベくんの言うように半音階のメロディが印象的。個人的にプログレッシヴロックを聴くこともあって、絶対フランス語だろうと思ったら大正解でした。鼻にかかったこの吐息混じりの発音が気だるく感じて中毒性高いです」

酒井「どうやらこの曲TikTokで話題らしいですね……全然流行についていけてないのでTikTokは不勉強なんですが、最近meiyoもTikTokでバズってるだけあってちゃんと研究してるんですね。この人たち、フランスのトゥールーズ出身で86~87年に活動したフレンチ・ポップ・デュオとのことですが、こういうクセになる曲が何度もずっと話題になる現象、本人はどう思ってるのか分からないけどすごく面白いと思います。……あと〈たいなな~〉で思い出したけどcolormalのたいなかさん、大丈夫?」

 

②Shiki “Venom”

イエナガ「熊本発、ドラムレス・スリーピースバンドの新アルバムから。僕個人としてもインターネット経由で知り合い、何度かライブもご一緒しています。あくまでも熊本に根ざしていることを大切にするスタンス、録音も含めてDIYで行なっていることによる自由度が素晴らしいバンド。ベースのスギモトくんが〈熊本にはドライブしか楽しみがないからそれに合う音楽を〉と発言していたのがこの曲で、セルフ・エンジニアリングでなければ踏み切れないヴォーカルのエフェクトや、夜の車窓に流れる街頭のようにストイックなリズム・アプローチが秀逸。ギター、ベースのメンバーがいながら楽曲のためならラップトップに徹することもできる男性陣に囲まれ、才能としか思えないボーカルakariちゃんの歌声が十二分に活きていて。このバンドがもっと広まることを願って止みません」

ワタナベ「センターど真ん中にヴォーカルがいなくて両耳に話しかけられているような特殊な処理、反してちょっとドキッとするぐらいシンプルな演奏内容から〈空間〉を強く意識した音楽だなあと感じた。ドラムレスというからちょっぴり構えて聴いたけどむちゃくちゃリズムへの意識が強い音楽だったのでびっくり。そして歌が本当に良い……」

酒井「カッコいい! 出たイエナガ選曲センス! 熊本だけでなく全国全世界の人にこんなオシャレな曲がかかるドライブをしてほしい!」

 

③長澤知之 “回送”

ワタナベ「長澤知之さんは難しい言葉を全然使わないところが好きです。決して高尚ではなくて、これまでわざわざ歌詞として描かれることさえなかったような〈些細な出来事や見ているもの〉について執拗とも言えるぐらい細かく描くことで、聴く人の想像する情景は何十倍もリアルに、感情もより厚みを増していく……これこそが〈歌詞〉だなあと、何百回聴いても打ちのめされます。この曲を知る前と知った後では世界の見え方が変わるような、人生レベルで影響を与えてくれた大切な一曲」

イエナガ「長澤知之の声って、ヴァイオリンの高音を聴いたときみたいな胸の締め付けを感じちゃう。小山田壮平も個人的には同じ感覚に陥るんですが、つっかえなく言葉が頭に飛んで来て。何かを辞めようとすることに踏ん切りがつかないことを、回送電車のテールライトの描写で伝えられる感覚。こんな歌詞を書く人と同じ視座に立ちたいと思ってしまいますが、きっと僕らと見ている景色は同じであることこそが凄みなのかも知れません」