
ニガミ17才が11月17日(火)にリリースする3枚目のミニ・アルバム『ニガミ17才o』は何から何まで挑戦的だ。まず音。これまでのニガミサウンドはおろか、既存のどのバンド・サウンドとも似ても似つかない実験的な音を出している。それもそのはず、レコーディングには33日間という長期間をかけ、さらにレコーディングした楽曲を自分たちで切り刻んで編集し、まったく新しい異質な楽曲に作り替えるという手法をとった。そして歌詞。〈日本語に聴こえない日本語詞〉が多数登場しては脳内に強烈な〈響きの違和感〉をもたらすだけでなく、歌詞があるのにそれを歌ってすらいない曲まで登場する。『ニガミ17才o』は、いわば日本語と音による壮大な実験とその実験結果の集大成なのだ。
さて、この不思議なバンドはどこを目指し、どこへ向かうのか。岩下優介、平沢あくび、イザキタツル、小銭喜剛の4人に話を訊く。
半分サボり、半分言い訳
――お久しぶりです。『ニガミ17才b』(2018年)の時以来、2年半ぶりのインタビューです。その前回のインタビュー中に、〈『ニガミ17才a』(2017年)のレコーディングの最終日には『b』の話をしていた〉という話が出たので、インタビューの最後に、〈じゃあ『b』のレコーディングの最終日に、次回作の『c』の話は出たんですか?〉って訊いたんですよ。覚えてますか?
平沢あくび「覚えてますよ。〈いい質問ですね〉って言って終わって。〈あ、酒井さん(インタビュアー)、次回作『c』だと思ってるよ〉って思いましたもん(笑)」
岩下優介「そうそう。〈『c』出すと思ってらあ〉ってね(笑)」
――(笑)。結果『c』じゃなくて『o』だったわけですが、実際に『b』の終わりから次回作は作っていたんですか?
岩下「『o』は作ってはいないけど、〈次出す作品は『o』〉っていうのは決まってました」
あくび「血液型にして4部作を完結させる、というのは『a』を出した時から決まってました」
※本作『ニガミ17才o』の完全数量限定盤に、YouTube配信企画「ニガミ17じかん」の模様を収録したDVD「ニガミ17才ab」が付属し、『a』『b』『o』『ab』の4部作が揃う。
――なぜ血液型なんですか?
あくび「4部作になりそうなのがちょうどよくて。a、b、c、d、e、f、gってどんどん続いていくと途中でタイトルを付けたくなった時に付けにくいし、『a』を出した当時、3~4年後のヴィジョンを考えた時に、4部作くらいで完結できるのがいいと思ったんですよね。その時は、『o』と『ab』は同時リリースにして、『o』は完全新作、『ab』は『a』と『b』を録り直したものにする、みたいなアイデアもあったんですけどね」
――なるほど。そして『b』からは2年半ぶりのリリースになりました。もちろんその間にたくさんのライブやツアー、メディア露出もありましたが、リリースはなぜ2年半空いたんですか?
岩下「ライブもやってたし、バラエティー番組も出てたし……でも、世の中の動きも慌ただしくなかったですか?」
――世の中もそうですけど、ニガミを取り巻く世の中が特に慌ただしかったんですかね。あくびさんのモデル業とかもあって。
岩下「まあでも……結局はサボりですよね(笑)」
――サボってたんかい(笑)。
岩下「サボってたというか、曲作りのテンションじゃなかったんじゃないかな」
イザキタツル「確かに重きを置いてたのはライブだったよね」
岩下「そう。だから世間に『b』をもっとしがんでほしかった。結果的に『b』を持っていろんなところへツアーも回れたし、ライブをやるたび曲の出来も良くなっていくし。だから半分サボりの、半分言い訳……って感じですかね(笑)」
――曲作り自体はずっとやってたんですか?
岩下「ずっとやってましたね」
あくび「期限を設けて、〈この月までに1曲〉〈だから、ここまでに合計何曲〉みたいなプランを何回も立てて。立てては守られず、立てては守られずでしたけど(笑)。で、あれよあれよという間に2年経ったという(笑)」
――その締め切りを守らないのは岩さん?
岩下「(苦笑)。そこは俺の責任というかさ!」
あくび「(爆笑)。まあ、仮に岩さんが締め切りを守らなかったとしても、それに対してケツを叩かなかった私たちにも責任があるので(笑)。誰も〈間に合いますか?〉とか言わなかったし、〈まだ出来ないな~〉くらいの気持ちでいたし。それは気持ちがライブに向かっていたのもあるし、いろんなバラエティー番組に呼んでもらえたこともあって2019年に『b』がもっともっと広まっていったからっていうのもありますね。ここで新作を出して『b』が聴かれなくなっちゃうのも違うな~みたいな」
岩下「僕らは、〈最新作を出すまでが最新〉だと思ってるんですよ。だから、新しいものを出すのがちょっと怖かったってのもあるよね。まあ怖くはないけど(笑)」
――それだけ『b』が良く出来たってことですよね。
岩下「当時はそうですね、『b』がすごく良かった。嘘つきバービーの時は自分のアルバムを聴くことはなかったんですが、ニガミは聴ける、むしろどんどん聴きたいくらいで」
――それは前回のインタビューでも言ってましたね。
岩下「それは今も変わってないですね」
――『b』が良かったことで、次の『o』へのハードルは高くなりました?
岩下「でも常に最高を更新していくっていうのは僕らの本分やから、当たり前のことなんですよ。『ドラゴンボール』で敵の戦闘力がインフレしていくじゃないけど、最高っていうのはどんどん上がっていくものなんでしょうね」

少年がガンダムのプラモデルを改造していくような感覚で
――今回は曲作りの仕方も変えたんですよね。
岩下「なんで知ってるんですか!?」
――いや、ちゃんとYouTube(「ニガミ17にち」)観てますもん(笑)! あの番組で皆さんが喋ってたことはメモしてますから。〈曲作りの追い上げがすごかった〉とか〈あくびとヒリついた〉とか(笑)。
一同「(笑)」
岩下「そう、曲作りの仕方を変えました。今までは一人でプロットを作って、タツルボーイと何ターンかやり取りをして、最終的に出来上がったものをみんなに聴かせて取り掛かるっていうやり方だったんですけど、今回は0から10まで4人で作りました。0から10までの間、やれんことがあってもその場には4人いる。全員同じ時間を共有したというか」
あくび「今までは、岩さんが曲を作ってる間、私たちは違う場所にいたりご飯食べたりしてて、その時の状況を岩さんからのLINEで知ってたんですけど、今は出産に立ち会ってるみたいな、生みの苦しみを一緒に味わってました」
――それはアジトが出来たことも大きいですか?
※今年に入って、曲作りや番組配信、グッズ発送などを行うニガミアジト、通称〈ニガアジ〉が完成。
岩下「めちゃくちゃデカいですね。ライブができないというのもデカいですけど。あと3人に勝手に発売日を決められたっていうのもデカいです」
※17時間に及ぶ生放送配信番組「ニガミ17じかん」のラストで、岩下以外の3人から岩下へサプライズとして、次回作のリリースが決まっていることが伝えられた。
あくび「でもそれは首謀者の3人だけじゃなく、酒井さんたちメディアの人も知っててニュース記事を用意してくれてたんですから」
岩下「(インタビュアーを見て)ダメじゃん」
――(笑)。じゃあ曲作りをするのはアジトに4人でいる時だけだったんですね。
あくび「そういうふうにしたんです」
岩下「そこも環境を変えました。僕、家にパソコンがあって、メシも食わずにずっと曲作りをしちゃうんで」
あくび「オンオフの切り替えができる場所が必要だったんですよね。今まではずっとオフがない状態だったから」
岩下「だから生活にメリハリができました。まあアジトで朝方まで作業する時もありましたけど、普段は意外と健全な時間に終わってるよね」
――漫画家とか作家の先生が、家とは別に仕事場を持つ、みたいな。
岩下「そうですそうです。愛人宅みたいな」
――うんうん。ん!?
岩下「僕一人だと、そういう管理ができないんですよね」
――でも、曲の土台となる部分は岩さんが作るんですよね?
岩下「いやいや。結構早い段階からみんなで関わってます。さっきからいろんな媒体のインタビューを受けててガンダムで例えたいのにうまくいかなかったから、Mikikiでもう一回挑戦してもいいですか(笑)?
今回のアルバムの作り方をざっくり言うと、まずタツルボーイがプラモデルのパーツを説明書通りに作ってくるんですよ。腕のパーツとか、足とか、接続部分とか。そのパーツを元にみんなで一度仮組みをしてみる。〈こういう組み方をしたらこういうガンダムが出来るよね〉って確認をしたところで、その通りにレコーディングをしてみるんです。で、レコーディングして組み上がった本番のプラモデルを、僕が家に持って帰って、接続部分じゃないところでレーザーで切り分けてボンドでくっつけた、みたいな……やっぱりこの例えうまくいきませんでした(笑)」
一同「(笑)」
――いや、伝わりましたよ(笑)。カットアップとかブレイクビーツみたいなことですよね。ただ、それだとカッコ悪いガンダムにもなりかねないじゃないですか。頭から手を生やしてもカッコいいガンダムになるかどうか、ヴィジョンみたいなものがあったんですか?
岩下「それは僕が潜在的に考えていることなんでしょうね。でも〈この曲をこうしたい〉っていうのは、実際にメスを入れながら、〈これは頭から手を生やしたらカッコいいかな〉って触ってみないと分からない。4人で組んだガンダムはそれで完成してるしカッコいいものなんですけど、そこにさらに違和感みたいなものを入れたいからレーザーで切っちゃうんでしょうね」
――普通のガンダムじゃ面白くない?
岩下「なんでしょうね……普通のガンダムじゃ面白くないわけじゃないんです。タツルボーイの組んだパーツも、4人で組んだものも良かったんです。でもね……」
タツル「さらにカッコよくなるって思ったんじゃない? 普通に組むっていう作業をよりうまくしていくんじゃなくて、本当に少年がプラモデルを改造していくような感覚で実験をするように作ったものがよりカッコよくなるって。だって俺らもそれを見ててカッコいいと思ったし」
――その実験をするきっかけは何かあったんですか? 『b』のインタビューではスペシャ(スペースシャワーTV)を見てその時のモードが決まるって言ってましたけど。
岩下「僕自体、例えば曲の途中でバツッと切れるような曲が好きで、エンジニアさんが〈こういう曲を聴いたら好きかもしれませんよ〉って言っていろんな曲を聴かせてくれて、そういうのがハマったのかもしれないですね。ただバンドが自分自身でカットアップするなんてあんまりないから、それはニガミの武器になるんじゃね?とは思いました」
――結局レコーディングは33日間もしていたそうで、しかも結構ギリギリまで。
あくび「でしたね。でも余裕はあったほうですよね」
岩下「時間は余ってないけど、見直す時間とかはあったからね」
あくび「〈ニガミ17じかん〉が6月28日で、8月のラジオ体操が終わるまでに曲が出来てなかったですもんね」
※平沢あくびは毎年8月に毎日早朝ラジオ体操の配信を行っている。今年の8月で5年目。
岩下「うん」
あくび「9月とか10月でいっきに出来て」
――その頃にはタツルさんもパーツを作ってた?
タツル「俺は〈17じかん〉が終わった後に、これから制作に入るのに精神的なプレッシャーもあるだろうし、イワに一人で全部を担わせるのはヤバいなと思っていて、何か力になれることをしなきゃというのもあったので、ちょこちょこトラックやパーツパーツを作ってました」
岩下「もちろん1曲も出来てなかったというのは形になっていなかっただけで、こういう歌を歌いたいとか細かな構想はありました。だから1か月で全部作ったわけじゃないですよ。組み上がるまでのスパンが短かったんですよね」
――結果的に、〈ニガミ17じかん〉の時に締め切りが設けられたのはよかったですか?
岩下「めちゃくちゃよかったです。4人全員で作ろうという発想になったし、締め切りがなかったらもっと部品作りに時間をかけすぎていたと思うし」
――でも〈2020年バズるアーティスト〉第2位なので、年内にリリースされてよかったですよ(笑)。
一同「(笑)」
岩下「リリースしないでバズらないじゃ意味分かんないもんね(笑)」
※今年1月放送の日本テレビ系「バズリズム02」で、ニガミ17才は〈今年コレがバズるぞ!ベスト10〉の2位だった。
――この曲たちを、ライブではどう再現します?
岩下「もちろん作品の通りにやるところはやるし、生ならではのアレンジにするところもあるし、どういうふうにアプローチするか話し合うのもまた楽しいんですよ。〈ここはサンプラーで行こう〉〈ここは生で行こう〉みたいな。でもさっき使った違和感という言葉を借りるなら、違和感がある作品を聴き込んだお客さんが〈こういうことをやるんだろうな〉って思ってライブに来るわけじゃないですか。それを生で表現することで、お客さんにさらなる違和感を与えられたらいいなとは思ってます」

僕の中の音楽実験
――1曲1曲についても詳しく訊いていきたいんですが、まず特徴的なのが歌ですよね。先日の配信番組でも〈オリエンタルな言葉を探してた〉と言ってましたけど、特に“こいつらあいてる”では日本語を超越しているような歌唱が出てきます。
岩下「“こいつらあいてる”のテーマが〈愛語り〉なんです。〈愛語り〉っていろんな世代の誰しもがやることじゃないですか。純粋に〈愛つらい〉って思ってる若い世代もするし、卑しい気持ちの大人もするし、お金目当てのミュージシャンもする。それぞれ立場は違えど〈愛語り〉ってみんなやってるものなんです。でも若い世代からしたらおじさんの愛語りって意味分かんないですよね。それってつまり、若い世代にはおじさんの言葉が通じてないんだなと思って。もちろん逆もあって、だから一聴して日本語だって通じない歌い方をして〈愛語り〉をしてみようって思ったんです。〈愛つらい〉という言葉を、そういうふうに聞こえないように、誰もが理解できないように歌おうと。だからオリエンタルな言葉にはさほど意味はなくて、何言ってるか分からないっていうことに意味があるんです」
――言葉が通じなくても意味は通じる、みたいな。でも1曲目の“Jimmy Perkins”に至っては、歌が日本語ですらないですよね。初めて聴く時は歌詞カードを見てほしいって言ってましたけど、歌詞とも違う歌です。
岩下「あれは何語なんでしょうね(笑)。何語でもないです」
――日本語があって、オリエンタル日本語があって、最終的に何語でもない言葉の歌になっちゃった。
岩下「僕の中の音楽実験なんですよ。あれはすごく適当に歌ってるんですけど、でも洋楽を聴く時ってよっぽど語学力がない限りは誰でも最初は音だけで聴いてるじゃないですか。で、何年かして〈この歌詞どういう意味やろう?〉って日本語訳を見て、〈あ、こんなこと歌ってたのを聴いてたんだ、ダッサ!〉みたいなこともあって(笑)。だから僕が適当に歌ったものの訳詞を歌詞カードに載せてるんです。実は1番と2番は同じように歌っているんですけど、歌詞カードを見ながら目で追っていくと違うように聴こえるんですよ。音楽の新たな楽しみ方というか」
あくび「だから想像力があればあるほど、その人の音に聴こえると思いますよ。歌詞に〈ネズミ〉が出てきた後に私が歌う〈イェイェイェイェイェーイ〉ってところを聴くと、そこをネズミが歌ってるように聴こえたりとか」
岩下「あの曲、実は元はすごく短い秒数の曲で、全部を細かくカットアップして新しいフレーズを作ってるんですよ」
小銭喜剛「新しいビートを出したよな、あれすごいよ」
あくび「例えば魔法がかかったような〈ドゥルドゥルン〉って音が出てくるんですけど、それもハイハットの〈チキチキ〉って音の〈チ〉の音を上げて〈キ〉の音を下げて組み合わせて作ってたりとか、元は全部こっちゃん(小銭)とタツルボーイが出した音を使ってるんです。だから料理を刻みまくって別の料理を作るみたいな(笑)」
小銭「元の曲で使ってなかったシンバルの音が欲しくなって、今ある音をどう料理してシンバルにするかとかね」
岩下「〈この素材でどうにかして作って!〉みたいなほうが性に合うんですよね。なんとなくシンバルが欲しい時にシンバルの音を足すなんて、今の技術なら簡単なんですよ。でもそこを他のことでやるのが楽しくて。その代わり、〈この音はシンバルじゃないと絶対にダメ!〉っていうちゃんとした理由がある時にだけシンバルを使うんです。ギターのエフェクターもそうなんです。そこで踏む理由がちゃんとあるかどうかを突き詰めて考えて使う。そういう制約がある中で作るのが性に合ってるんですよね」
あくび「だからやっぱり締め切りがあってよかったんですよ(笑)」
――“Jimmy Perkins”っていうのは誰なんですか?
岩下「それは架空のインチキマジシャンの名前です」
――最近オフィシャルのTwitterとかインスタで岩さんの写真が上がると〈教祖感がある〉って書いてあるので、勝手に教祖かと思いました(笑)。名前も思わずググったけど特にヒットしないし。
あくび「絶対みんなググるだろうなと思って、検索した時に絶対ヒットしない人を探して。最初岩さんにありきたりな名前にしたいって言われて、よくある苗字と名前で探したんですけど、何て探してもメジャーリーガーとか昔の画家とか出てきて(笑)」
岩下「最初は日本名だった気がする。なんやったっけ?」
あくび「〈はじめ〉とか?」
岩下「ああー、そんなんやったかなあ。最初、日本名やったんです。そのほうが僕っぽいでしょ? でもなんていうか、その〈ナマ感〉というか、何かが邪魔やったんですよね」
あくび「例えば〈はじめ〉だとしたら、みんなの知り合いのはじめさんとか有名人のはじめさんをポンと思い浮かべますよね。その印象がついちゃうのがイヤですねって話になって。だから思い浮かびそうで浮かばない名前にしたんです」
――結果的に“Jimmy Perkins”は言語も超越したし、音楽的にも既存の音楽を超越したと思います。
岩下「いやあ、みんながいたからですよ(笑)」
――急に感謝!?
岩下「いや、ほんとほんと! 今回本当にメンバーのおかげで。メンバー大好きです」
――あと“オフィシャル・スポンサー”は5拍子と4拍子が入り混じってて、ライブのアンコールで〈5拍子/4拍子〉をやってたのがこういうところに繋がってたのか!?って思いました。〈結局は1拍でもいいからノリなよ!〉っていう。
※ニガミ17才のライブのアンコールでは、岩下のアドリブで曲調や5拍子と4拍子が切り替わるアレンジの曲をよく披露している。
あくび「はははは(笑)、あれが前フリ!?」
タツル「いやー関係ないですね(笑)」
――関係ないのか……。
小銭「ワシの中ではあれがもうノリやすいんだよな。たぶん、5拍子だって気付かない人は気付かないですよ。ノリやすいビートだからスルッと入れるので」
――“生でんぱ”も5拍子で。これまでにも5拍子の曲はありましたけど、こんな5拍子でノレる曲があるのは新鮮で。
小銭「たしかに」
あくび「“幽霊であるし”も変なリズムだもんね」

バンド・シーン自体をもっと盛り上げるために
――今後はどうしますか? 『b』の時は〈『c』を作ってるんですか?〉という質問で終わりましたけど、じゃあこの『o』の後はどうします?
岩下「これね、最近結構よく訊かれるんです。で、他の誌面ではその度に、じゃあ次は〈煩悩108部作〉を作りますって答えてるんです(笑)。でもMikikiにはオリジナリティー溢れる答えにしたいから、そこは小銭に訊いてください」
――(笑)。小銭さん、どうします?
小銭「えー……〈十二星座完結作〉で」
一同「(沈黙)」
岩下「やっぱり〈煩悩〉で行きましょう!」
一同「(爆笑)」
岩下「でも次は〈なんちゃら何部作〉っていうことじゃないと思ってます」
あくび「あと……でも……この話しよっかなー(何か言いたそうに)」
――教えてください。
あくび「自分たちの活動ももちろんなんですけど、バンドのシーン全体が一丸となって一つのバンドを持ち上げていきたいっていう気持ちがあって。例えばKing GnuがカッコいいならKing Gnuでもいいし、Official髭男dismがカッコいいならOfficial髭男dismでもいい。一つのバンドを、全バンドが持ち上げたいと思ってるんですよ。そうしないとスポーツとか他の文化と同じフィールドまで、バンド音楽が行けないぞっていう危機感があって」
――なるほど。
あくび「本当はバンドなんて音楽だけやっていればいいはずなのに、それだけじゃ評価されないのが嫌で。私たちはバラエティー番組とかメディアから出演のお話をいただく機会があって、それはとても幸運なことですけど、それを自分たちのためだけに利用するのではなくって、バンド・シーン自体をもっと盛り上げるために利用して、利用されて、いい関係で盛り上がっていきたいんです。
例えばCreepy Nutsは率先してメディアに出て、芸人さんと絡んだりCMにも出たりしてますけど、きっと〈自分たちが有名になりたい〉っていうだけでやってるわけではないと思うんですよね。よそからいろんなことを言われるのを覚悟の上で日本のヒップホップ・シーンを背負ってメディアに出ているのが分かるので、私たちもいろんな仕事をいただける幸運な立場にいるのだから、バンド・シーン全体を盛り上げたいなって思ってます」
――それは自分たちがバンド・シーンの頂点に行かなくてもいい?
あくび「もちろんその神輿の上にも乗りたいですけど、神輿の上に乗ってるのは自分たちでなくてもいいとも思います。だって神輿を担ぐ側にも力がなきゃ意味がないと思うので。だからまずはこのリリースをきっかけに、神輿を担ぐくらいの力を付けられたらいいなと思って。
それによく神輿の上の人は身動きが取れにくくなっちゃうなんて話も聞くので、私たちはまだ比較的自由に動けるし、担ぎ上げられてもいないので、もっと私たちの後の世代も音楽をやりやすいように、音楽をやることにみんなが憧れて、カッコいい音楽を鳴らせば評価される時代になってほしいなって、音楽への愛がそういう考えに変わってきてるのかもしれないですね。メディアに出るようになって、〈メディアなんてダセえ〉って言ってるアーティストの音楽も評価されてほしいって思うようにもなりましたし。バンド・シーンの地位が上がれば、ダサくても良くて」
岩下「そうだね。もっと言ってしまえば、ニガミ17才の今回のアルバムが〈すげえダサくね?〉〈ベタじゃね?〉って言われる時代が来ればいいよね。これがスタンダードになることが、一番の喜びかもしれないですね」
――今作は実験作じゃないですか。それがスタンダードになるっていうことは、聴く側も作る側も相当な意識の変化が必要だなって思います。それに数年前まで楽器を弾いたこともない、人前で歌ったこともなかったあくびさんが、バンド・シーンに対してそこまで考えていたということに驚いています。
あくび「私も音楽に救われたっていうのがあるので」
――(明石家)さんまさんの番組で変なエピソードを喋ってる裏で、ちゃんとこんなことも考えてたんだなって(笑)。
あくび「(笑)。ああいう番組って事前にアンケートがあるんですけど、なるべく知り合いのバンドの名前を出したりして、〈バンドマンでも面白い子がいるんだ〉って知ってもらおうと思ってます。もちろんバンドによってはバラエティーに出たくない人たちもいると思うんですけど、チャンスが転がるのは絶対いいことだと思って。そうやって日常的に音楽に目が行くような状況を作れればいいなと思います。だって俳優さん・女優さんとかアスリートの人だと〈おおー〉ってなって、バンドマンだと〈おおー〉ってなりにくいのは嫌だし。そのために何ができるかなっていつも考えてますね。音楽のフィールドだけでやっていけてたらいいんですけど、そうもいかないですし」
岩下「もう一度ちょっと地ならししましょうというかね」
あくび「そういうことをするためには自分たちの音楽の実力が伴っていないと説得力がないし、もちろんメインは音楽を本気でやりつつ、ですけどね」


