岩下優介(ヴォーカル/ギター)、平沢あくび(キーボード)
 

独特の日本語センスとサイケなサウンド、奇想天外なパフォーマンスで人気を誇ったバンド、嘘つきバービーの解散より早5年。フロントマンでベース・ヴォーカルだった岩下優介がベースをギターに持ち替え、小銭喜剛(元・ミドリ、ドラムス)、イザキタツル(ベース)、平沢あくび(キーボード)と共に組んだニガミ17才が、初の全国流通盤となるセカンド・ミニ・アルバム『ニガミ17才b』を6月6日(水)にリリースする。

変態性を増した耳に残る歌詞、キーボードをフィーチャーしたことでよりポップになったサウンド、平沢のキュートなルックス、そして芸人のデッカチャンが水を飲んでは吹き出す謎だらけのPV“おいしい水”などが話題を呼び、同PVの再生回数は50万回を超え、同曲が収録された昨年リリースの前作『ニガミ17才a』は一般には未流通ながら、1600枚以上を売り上げる大ヒットを博した(※『b』のリリースに合わせて一般の流通も開始)。さらに、今年に入ってPVが公開された新曲“ただし、BGM”は、歌詞のテーマが前代未聞の〈ばばあ〉ながらも、より踊れる方向へとサウンドが進化。PVは前回以上の再生回数を記録し、多方面で賛否両論を巻き起こしている。

Mikikiでは今回、バンドの中心人物である岩下と、もともとは嘘つきバービーの大ファンで今はバンドの影のブレーンでもある平沢にインタヴューを敢行。彼らのインタヴューがWEBメディアへ掲載されるのは初ということで、嘘つきバービーの解散からニガミ17才の結成について、そして『b』の制作秘話までたっぷりと語っていただいた。

 

ニガミ17才 ニガミ17才b 苦味興行(2018)

あくび天然説

――(アイスコーヒーにミルクを3つも入れる平沢あくびを見て)あくびさんって天然ですか(笑)?

平沢あくび「いえ、けっこうしっかりしてますよ」

岩下優介「(笑)。めちゃめちゃ天然やん」

――Twitterを見ていると、どこまでが確信犯でどこからが天然なんだろうなって思うんです。拡大コピーをしてきてって言われたのにひとつもちゃんとコピーできなかったり、数々の奇行を起こしていたり(笑)。

あくび「ありましたね(笑)。私算数がダメなんですよ。天然じゃなくてバカなんです」

岩下「キーボードの下に敷く板をホームセンターに買いに行って、店員さんに〈何メートルくらいの板ですか?〉って聞かれて〈100メートルですかね……〉って。〈100メートル!?〉〈いや、すみません間違えました! 100メーター(・・・・)でした!〉。いやいやそれ一緒やから」

あくび「〈100メートル×15センチの板が欲しいです!〉って言ったら〈何に使うんですか!? ウチには無いです!〉って言われて(笑)。しまむらで」

――島忠ですよね(笑)。絶対天然だ。

あくび「(笑)。岩さん(岩下)に指摘されるようになってわかってきましたよ。発言するのが怖いんで、言う前に合ってるかどうか一度相談したりしてます」

 

マイケル・ジャクソンと私

――じゃあ、ニガミ17才の結成前のことから伺っていいですか? まず、嘘つきバービーが解散したのが2013年9月で。

岩下「だいぶ昔だなあ……」

――で、2014年の6月に、岩さんが突然Twitter上で〈愉快なベーシストを募集します〉というツイートをして。そこに応募したうちの一人が僕なんですけど(笑)。

あくび「それめっちゃおもろいエピソードですよね(笑)」

――小銭さん、千布(寿也/元・嘘つきバービー)さんと4人でスタジオに入って、岩さんはキーボードを弾きながら血液型の歌を即興で作っていて。そのとき一番疑問だったのが、嘘つきバービーでベースを弾いていた人が、なぜベーシストを募集してるんだろう?と。

岩下「嘘つきで、ベースは一回終わったなっていうのがあって」

――やり尽くした?

岩下「やり尽くしてはないけど……嘘つきが解散したからベース・ヴォーカルは終わりってだけで」

――そのときに注文がひとつだけあって〈もっとマイケル・ジャクソンみたいなベースがいい〉って言っていたのがすごく印象的だったんです。で、今回『ニガミ17才b』を聴いてたら〈もしかしてマイケルの曲みたいなベースラインかも?〉っていうフレーズがいくつかあって、歌もそれっぽいところがあったりして。それって岩さんの中にずっとあったんですか?

岩下「いやまったく覚えてない(笑)。そんなこと言ってました?」

――はい(笑)。しかもそれっぽいのを弾いたら〈なんか違うな~〉って言われて。

岩下「うわ~嫌いやわ~、そういう人」

――『b』に繋がるエピソードかな、と思ったんですけど。

岩下「たしかに“化けるレコード”なんかはマイケル・ジャクソンぽい歌い方もやってますけどね(笑)」

 

バンド結成前夜1

――そこからニガミ17才はどうやって結成されるんですか? 初ライヴは2015年9月の〈YDO a.k.a ヤスエでんじゃらすおじさん生誕祭〉で、そこにシークレット・ゲストとして出ていますよね。

あくび「その時もまだ正式な始動の前ですね。ちゃんと始動したのは2016年入ってからで」

岩下「え、あのライヴが結成? 結成っていつのことを言うの?」

――それを教えてほしいんですよ(笑)。岩さんと小銭さんが前から一緒にバンドをやろうとしていたのはわかるんですけど、あくびさんと(イザキ)タツルさんはいつから参加してるんですか?

あくび「私が入ったときにはもうタツルボーイがいたから」

岩下「タツルボーイは、小銭がセッションで出会ったベーシストで、酒井さん(インタヴュアー)と同じですよ。一緒にスタジオに入って……でも僕はタツルボーイにその場で〈いいね、このバンドでベース弾いて〉って言った覚えはない。小っちゃん(小銭)はえらく気に入ってたけど」

――岩さん、小銭さん、タツルさんのバンドのとき、岩さんは何を弾いてたんですか? キーボード?

岩下「キーボードを弾いてて、千布もいて彼はギターを弾いてました。で、3~4か月間、4人で曲を作ってたんだけど、ある日、僕が〈この4人でやりたくねえわ〉〈売れる気がしねえ〉って思ってしまいまして」

――(笑)。じゃあもともと売れたいって思ってはいたんですね。

岩下「今も売れたいですよ(笑)。でも、あの当時、4人の塊からネズミ色のオーラが出ているように見えたと言うか。で、自分のやりたい方向性もわからんし、〈じゃあ僕抜けるわ〉って言って、その4人の塊から僕が抜けます。そこからしばらく地に落ちた生活を続けるんですが……」

――それが2014年の後半から2015年の頭あたり?

岩下「そうですね。音楽をやるのか、やめるのか、方向性も見えてこないし……っていう感じだったんですけど、その時期にURBANフェチの野田耕平とか、あくびとかが毎週ウチに呑みに来て、〈この音楽かっけえよ!〉とか言ってくれるようになって」

――頼まなくても、勝手にですか?

岩下「勝手に来て、勝手に音楽を置いていって。それこそSuchmosとかもそこで教えてもらって初めて聴いたんです」

あくび「今こんなの流行ってるんですよ~って」

岩下「ダフト・パンクとか、レッチリとかもそのとき初めてちゃんと聴いて。僕、嘘つきのときに全然音楽を聴いてこなかったんで、そういう曲がスッススッス入ってくるんですよ。〈かっけ~!〉って言いながら、まるでキッズのように喜んで。〈最近はシティー・ポップが流行ってるよ、聴いてみたら?〉〈おわ~! シティー・ポップかっけ~!〉って」

――へえ~! 岩さんってそういうのを取り入れない人かと思ってました。

あくび「私も思ってました」

岩下「本当に音楽をやめようかって思ってたときだからこそ、そういうふうになったのかもしれないですね」

あくび「だってすごい顔してましたもん。地に落ちた……顔。なんかもう、オーラが黒いんですよ!」

――地に落ちた顔(笑)。二人は、人のオーラが色で見えるんですね(笑)。

あくび「(笑)。自信もなさそうだし、目は光ってないし。そのころは〈放送作家とか脚本家とか裏方を目指そうかな〉とか言うようになって。でも私は岩さんに音楽をやめてほしくなかったし、〈岩さんは絶対ステージに立った方がいい〉って思ってたから、少しは刺激になるかなと思ってライヴに連れて行ったりとか、そうやって音楽を紹介したりとか、試行錯誤していろんなものに関心を持たせようとしてました。そうこうしてるうちに、だんだんといろんな音楽を受け入れるようになってきて。でもそれは意外でしたね」

岩下「嘘つきのときは自分が表現する側だからこそ音楽に興味がなくて。それが嘘つきがなくなったときに初めてオーディエンス、ただの視聴者として音楽を聴けるようになって。だから、今の感性は若いですよ(笑)」

あくび「〈サカナクションかっけ~!〉とか(笑)」

 

バンド結成前夜2

――そこから、どうやってバンドになっていくんですか?

あくび「そのバンドを抜けた岩さんが、〈次は、歌える女の子か楽器ができる女の子を絶対入れる〉って言ってて、そこから考え始めて、そんな子を一緒に探したりもしてたんですけど。そしたらある日突然、私に〈やってみらん?〉って(笑)。〈あくび、やらん?〉って言ってきて。でも私は楽器を触ったこともほとんどないし、バンドもやったことないし、歌も下手でコンプレックスだし、カラオケも嫌いだし、そもそも私、役者やってたし。それなのに誘ってきたんで、〈え!?〉って思いましたけど、私が入って岩さんがちょっとでもバンドに対して前向きになれるならと思って、一度スタジオに入ったんです」

――え、ピアノを習ってたりしたわけじゃないんですね!

岩下「で、そこに小銭とタツルボーイを呼んで」

あくび「スタジオの前に、まず串カツ田中に行って(笑)」

岩下「4人で乾杯して、〈あ、乾杯したな。じゃあこの4人でバンドするから〉って言って」

――ほら! それが結成のタイミングですよ!

岩下「あ、それが結成なん? 乾杯した日?」

――それでしょ!

 

あくび、女優を辞める

――それがいつのことですか?

あくび「寒かった気がするから2015年の頭かなあ。そこからも長かったですしね。曲も出来ませんし(笑)」

岩下「そうこうしてたら、あくびがいきなり、当時役者として籍を置いていた事務所を辞めてきたんです」

――え!? バンドに入ったから仕事を辞めたんですか!?

あくび「やるんなら本気でやりたいんで、事務所に契約を解除しに行って(笑)。3才くらいから芸能の仕事しかやってこなかったんですけど、岩さんからお誘いを受けたとき、役者としての迷いや悩みもあった時期でもあって。

一方で岩さんは、ざっくり言うと突然死んじゃうかもしれない病気を持っているんです。過去にも心肺停止から蘇生したこともあって、それにも意味がある気がしちゃって。一応ICD(植込み型除細動器)がお腹に埋まってるんですけど、治る病気ではないというのもあって。

そういうのもあって、私は岩さんと音楽をやるなら命を賭ける、と言ったら大袈裟かもしれませんけど、人生賭けたいなって思ったんです。〈この人とやるなら中途半端は嫌だな〉って思って。いつ、どうなっても後悔したくないので。で、当時の所属事務所と話し合いを重ねて、多少時間はかかりましたけど、結局バンドを本格的に始める前に事務所を辞めました。楽器もろくに演奏したことないし、バンドでステージに立ったこともないし、ピアノも弾けないのに! 初めてだらけの世界に突っ込んでみました(笑)」

岩下「それをされたら、もうやるしかないでしょ(笑)?」

――ドラマチックな人生ですね……。それでバンドも形になって、岩さんは地に落ちた生活から脱出するんですね。

岩下「そう。それで曲を作っていくんですが、曲がまったくできない。セッションしたりみんなの好きな曲を聴いたり、いろいろ試しましたけど、結局方向性は見えないままで。でも初ライヴの日は近付いてきていて。そこで無理くり作ったのが“町の変態”“ラブレター”(『ニガミ17才b』収録)と“かわきもの”(『ニガミ17才a』収録)の3曲でした」

――でも“かわきもの”なんて、5拍子のけっこう複雑な曲ですよね。

岩下「“かわきもの”はパソコンで作った最初の曲かもしれないな。“町の変態”と“ラブレター”はセッションでアレンジしていったけど」

あくび「“かわきもの”のイントロなんて、まだ私が鍵盤弾けないから今とだいぶ違いましたもんね(笑)」

 

ニガミちゃんの頭の中

――ちなみに、バンド名はいつ決まったんですか?

あくび「岩さんが千布さんたちと最初に組んでたときに〈ニガミ17才〉か〈nani-nani〉っていうバンド名の候補が挙がっていたらしくて。岩さんがそこを脱退し、その後、今の4人で組むとなったときに〈しかしニガミ17才ってバンド名めっちゃ良くない?〉〈めちゃくちゃ良いですね!〉って岩さんと盛り上がって、後日、小っちゃんとタツルボーイに〈ニガミ17才に決まりました〉と報告したような感じです(笑)」

岩下「あの二人はね、そういうの何でもいいんです(笑)」

あくび「しかも、嘘つきバービーの曲で“アマミとニガミ”っていう曲があって、その〈ニガミ〉なのかな、とか。17才の思春期のときの〈甘酸っぱさ〉じゃなくて〈苦さ〉なのかな、とか。そういうセンスが岩さんらしいなと思ったんですよね」

――当初はバンドのコンセプトとして、アーティスト写真にもライヴにも、ニガミちゃんっていう女の子がいましたよね。ライヴではいつもステージ中央に女の子が座っていて、4人が彼女に向って演奏する。あの設定はどうなったんですか?

岩下「もともとは、ニガミちゃんっていう女の子がいて、彼女の頭の中にある細胞の4つがわれわれ……みたいなテーマだったんです」

あくび「だからニガミちゃんに向かってライヴをするのをコンセプトにしていて」

岩下「今は〈そのコンセプト、邪魔やなー〉ってことで」

あくび「ヴィレッジヴァンガード下北沢店の店長になったので、ステージを去りましたけど(笑)」

岩下「歌詞もね、最初はそういうコンセプトにのっとって書いてたけど、いろいろ制約も出てくるし(笑)」

――曲によっては、そのコンセプトもまだ生きてる?

岩下「今作で言うと“町の変態”や“ラブレター”“もつれ”……まあ“テクノロジーの鬼”とかも、ニガミちゃんが主人公と言っても成立する曲なのかもしれないですね」

 

『ニガミ17才a』売れる

――それで、ファースト・ミニ・アルバム『ニガミ17才a』をリリースする前に、2016年に東京と大阪のライヴ会場限定で2枚のシングル(『ニガミとやさしい怪人-◎族』『ニガミとやさしい怪人-△族』)をリリースして、同梱の怪人カードで歌詞作りや曲作りに参加できるという面白い試みもされていて(完成した楽曲は『ニガミ17才a』に収録)。

岩下「応募が200とかだったかな。だから〈こういうことは今しかできんな〉と思っていて。1000とか2000になると、なかなかそういうことってできないじゃないですか」

――じゃあゆくゆくは1000枚売るつもりではいたんですね。

岩下「変なとこ突くな~(笑)。いや、そうですね、たしかに」

――しかし結果的に『a』はヒットしているわけで。反響とかはありました?

岩下「全然感じないですよ(笑)。今でもYouTubeのコメントの8割が〈ヴォーカルがひょっこりはんに似てる〉だけだから、ネットの評判とかもあんまり見ないんですよね」

あくび「私は、人生で一度もライヴをしたことがなかったから〈お客さんなんて最初は5人とかだよ〉って言われたのをずっと信じていて。でも実際は全然違ったし、気付けばお客さんもどんどん増えてはいますね。でも、実感があるのは周りの人に〈最近よく名前聞くよ〉とか言われるくらいかなあ」

『ニガミ17才a』収録曲“おいしい水”
 

 

 

ダンス・チェーンがあらわれた!

――『b』を作ろうって話には、いつなったんですか?

あくび「『a』のレコーディングの最終日にもう次のアルバムの話はしてたと思います。でも岩さんのエンジンはかかってなかったですけど」

岩下「『a』で全部出しきったわけではないけど、嘘つきのときと違うのは、ニガミは作品が完成したときに満足感がある。だって家に帰って自分の音源を聴きますもん。当時は自分が『a』にまだ飽きてなかったから、エンジンがかかってなかったのかな」

――『b』を作るモードにちゃんとなったのはいつぐらいですか?

あくび「まず最初に“ただし、BGM”ができたので、すでにあった“ラブレター”“町の変態”と合わせて3曲録ることになったんです。でも“ただし、BGM”で思いのほか手こずって、その1曲しか録れなくて。それでとりあえずPVを作って、そのPVの公開をアルバム・リリースのニュースに合わせようということになったんです。当初の予定よりかは遅れたんですが、〈b〉という字が〈6〉に見えないこともないので、じゃあ6月6日にリリースしよう、と決まって」

岩下「だから“ただし、BGM”ができた2月ごろが、『b』のプロジェクトの始まりですね」

――“ただし、BGM”の時点で、サウンドのモードが『a』から変わりましたよね。

あくび「ロックの要素がちょっと減ったかな? 岩さんが聴く曲にブームがあって、その時はオシャレで踊れる感じの曲ばっかり聴いていて。それが反映されて、岩さん流のダンス・ミュージックになったんだと思う。スタジオでよく〈踊れる曲がいい〉って指示を出してたし。だから“ただし、BGM”は、岩さんなりのダンス・チェーン」

岩下「〈ダンス・チェーン〉(笑)。なんなんそのドラクエの敵におりそうなやつ」

――〈おどるくさり〉みたいな(笑)

あくび「(笑)。だから〈あー、ニガミってこうなったんだ〉って思う人もいると思うんですけど、ニガミじゃなくて岩さんのブームでこうなったんです(笑)。いずれまたロック寄りに戻る時期も来るだろうし」

岩下「家でスペシャ(スペースシャワーTV)をずっと見てるんです。だから、スペシャが次のニガミのモードを決めていくってことですね」

――(笑)。でも先日拝見したライヴでも、リハが終わって変な曲が流れてたら、岩さんがPAさんに〈もっとノレる曲をかけてください!〉って言ってて。〈あの岩さんがノるとか言ってる!〉って思って(笑)。

あくび「今まではノラせないことに命を賭けてそうだったのに(笑)」

岩下「でもね、お客さんのことをすごい考えるようになったんです。例えば映画とか舞台を観に行って、おもんなかったら嫌やし。音楽なら、〈ノレる〉ってことは〈よかった〉ってことでしょ?」

あくび「〈楽しい〉ってことですね」

岩下「〈ノレる〉という共通言語があるだけでもいいなと思って。まずはお客さんに楽しんでもらわないと」

――今までは〈わからん奴はわからんでいい〉みたいなところもありましたよね。

あくび「たしかに(笑)」

岩下「音楽ってまた違った難しさがあるでしょ。サッカーだったら〈あそこに決めれば得点!〉っていうひとつの目的があって。でも音楽って良くも悪くもゴールがいっぱいあるんですよね、いろんな場所に。〈え、この審判のポケットに決めても得点なん?〉みたいな。だから、ゴールのひとつとして〈ノレる=楽しい〉っていう明確なものがあると、僕としては少しだけやりやすい」

――そうやって、お客さんにちゃんとゴールを提示してるのも変わったところじゃないですか?

あくび「前はお客さんに託してましたもんね。〈わからん奴はわからん〉だったし、ライヴの途中で帰ったりするし」

岩さん「(笑)」

――なんか照れ臭そう(笑)。

 

アングラから地上へ

――サウンドや提示するスタイルが変わる一方で、嘘つきの頃から変わっていないと思ったのは、〈歌詞を聴かせたい〉とずっと言っているところで。曲作りにしても、以前は歌詞や世界観をメンバーに伝えて、そこから曲を練っていくって言ってましたよね。今はどうですか?

岩下「曲によっては今もそうですね。でも、最初からあくびと僕だけ同じ画を共有でき過ぎて盛り上がっちゃうことがある。そうするとスタジオに独特の変な空気が流れるときが毎回訪れる」

あくび「絶対あるね、あの空気(笑)」

岩下「もちろん二人(タツルと小銭)とも、音楽的にはほぼ共有できてるんです。でも、主人公の年齢であったり、曲全体が醸してる色味みたいな話になると、ここ(岩下とあくび)のシンクロ率が高すぎて、何に関してもほぼ同じことを言えて、船酔いみたいになっちゃうときがある」

――だからこそ、あくびさんにはバンドに加入してほしかったわけですよね。

岩下「そうですそうです。例えば映画の話をしても、同じところを見てることが多くて」

あくび「岩さんの感性って、すごい昔の言葉で言うと〈アングラ〉って言うんですかね。〈地下〉な感じがあって。でも岩さんから〈売れたいのよ〉とか〈もっと一般の人にも届けたい〉とか言われたときに、同じ感覚を持ってるけど、私は〈地下と地上と繋げる役割になりたい〉って思ったんですよね。だから岩さんが作詞作業をしているときに、言ってるワードが〈これじゃみんなに伝わらないよ!〉っていうのがけっこうあって、岩さんは〈こんなわかりやすい歌詞ないやろ〉とか言うんですけど、もっとわかりやすくしつつ、でも岩さんのセンスも消さないように悩みながら伝えてます。

今回だったら“ただし、BGM”で〈ばばあ〉とか言ってるじゃないですか。〈その歌詞は紅白歌合戦じゃ歌えないよ〉とか言ったり。岩さんのセンスで言う〈ばばあ〉は、一般的に言う悪口みたいな〈ばばあ〉と違うのは私にはわかるし、岩さんを知ってる人にもわかると思うけど、一般の人にはわからないじゃないですか。そういうギリギリのラインを、赤ペン先生じゃないけど添削しながら、よく話し合ってます」

岩下「……カウンセラーです(笑)」

――二人はお互い、足りないものを補い合ってる関係みたいですよね。岩さんは自分が地下にいる自覚はあるんですか?

岩下「地下なところで評価されたっていう認識はあります。でも、自分の感性がすごく地下だってことはわかってなかったかも」

――で、地上に行きたい? 売れたい?

岩下「売れたいっていうか、1枚でも多くの人に届けたいっていう、バンドをやってる人ならみんなが思うアレです」

――アレ(笑)。あくびさんがいるから、ソレもだいぶ実現されてるんじゃないですか?

岩下「カンダタですよ、僕は」

あくび「かんだた?? 何それ?」

――「蜘蛛の糸」の。

岩下「あなたは蜘蛛の糸なんですよ」

あくび「???」

 

 

ばばあのエロス

――“ただし、BGM”って、すごく乱暴に言ってしまえば〈僕〉が〈踊るばばあ〉を見ているだけの歌詞なんですが、曲のノリやすさも相まって強烈な世界観が出てるじゃないですか。〈踊るばばあの曲でさらに踊らされてる俺ら〉みたいな。〈ばばあ〉って何なんですか、〈ばばあ〉って(笑)

岩下「本当に、〈ばばあ〉は〈ばばあ〉なんですよ(笑)」

――何の会なんですか、これは。岩さんが実際に体験したことですか?

岩下「いや、ないですね。映画とかでそういうシーンあるじゃないですか。主人公の〈僕〉は親戚の集まりに参加する中学生なんですよね。酒も飲めんし、ガヤガヤしてるし、ワケわからんけど、ばばあが光って見えて、それが宇宙とシンクロしていく」

あくび「かなり初期の段階で岩さんが〈これお葬式なんよ〉って言ってたのがけっこう衝撃的で。そこから今のかたちになるまでにイメージは変わっていったと思うんですけど。誰かが亡くなって、その火葬中に上の座敷の部屋で親戚が集まって、献杯して、寿司でもつまみながら久々にする会話が盛り上がっていって。そのうち踊ったりする親戚も出てくるわけです。そこで主人公の〈僕〉はお酒も飲めないし、オレンジジュースでも飲みながら、ばばあたちが踊る新春舞踊を見ていて。最初は〈どうでもよかさ、そんなもん〉とか思ってるんですけど、熱燗が届いて部屋にその湯気が立ち込めていくと……」

岩下「なんだかエロい感じになっていく(笑)。そんなこと言ってた気がするね」

――ばばあなのに、謎のなまめかしい雰囲気はありますよね(笑)

岩下「ばばあでもまだ色気が残ってるんですね。最初はもっと絡みがあったり、〈太もも〉とか出てきたりしてもっと直接的なエロスがあったりしたのを、〈絡ませんほうが絶対かっこいいわ〉と思って、ばばあを見てるだけにしたんだよね」

――なんでだろう、死とエロスって隣り合わせだからかな。直接的なものを排除しても、なお匂ってくるものがありますよね(笑)。

岩下「それはうれしいですね(笑)」

あくび「だから〈寿司凝視〉とか、その設定は多少は残ってるよね」

――だからか!

岩下「もっと伝わるようにがんばります(笑)。地上とつながるように」

 

ちぇっ しゃー ばさっ ごそごそ かたかた ごくっ ぱきぽきぱき きゅー

――ニガミ17才になってからは歌詞や世界観が先ではない曲もあるんですね。

あくび「楽曲が先にできるパターンも増えましたね。嘘つきは歌詞から作ってたみたいですけど」

岩下「でも作ってる段階で〈こういう歌詞にしよう〉とか、そういうイメージはあるよ。ただ歌詞をつけるまでそれをみんなに言わなくした」

――個人的には“化けるレコード”が一番好きなんですけど、これは、あくびさんが飼っていたインコの〈ばけるくん〉とは関係あるんですか?

あくび「ばけるが病気でそう長くは生きられないってなったときに、岩さんが〈ばけるが生きてるうちにこの曲を仕上げるわ〉って言ってた曲が、今の“ただし、BGM”なんですよ。で、今年の1月にばけるが亡くなり、そのときは曲名を“ただし、BGM”にするか“化けるレコード”にするか迷っていて。結局その曲のタイトルは“ただし、BGM”になったんですけど、“化けるレコード”というタイトルも気に入っていて」

岩下「あくびが我が子のように可愛がってたばけるが病気になって、あくびが変になってたんです。だから、ばけるを思い出すような詞の内容とかではなくて、単純に曲名に〈ばける〉っていう名前が入っていて、聴くたびに思い出す人が思い出せればいいかなと思って付けただけで、別に〈あくびちゃんのばけるのために〉とかってことではないんです」

――なるほど。この曲の世界観は、作曲に苦悩する岩さん自身を表現しているとか。

岩下「そうですね。“かわきもの”に近くて、あれも作曲の苦悩みたいなものをテーマにしてるんですけど」

――今までは自分自身をテーマにすることなんてなかったと思うんですけど、それは何か理由があるんですか?

岩下「〈この言葉も入れたい〉〈こんな感情になるよね〉っていう感じで、当初描いてた主人公が自分にどんどん重なっていったんですかね。だからその主人公は僕とは違う人間です」

――歌詞で〈ちぇっ しゃー ばさっ ごそごそ かたかた ごくっ ぱきぽきぱき きゅー〉ってさまざまな擬音が登場して、そこが本当に最高なんですが、その後それらを〈やかましい〉と一掃するのは“ファンタ”(嘘つきバービーの楽曲)と一緒ですよね。

あくび「この擬音たちは作曲してるときに岩さんが起こす生活音のすべてで、舌打ちしておしっこして骨鳴らしてパソコンをカタカタして画面じーっと見て、みたいな(笑)。それらがやかましいんでしょうね」

岩下「たしかにこの〈やかましい〉は“ファンタ”とフレーズもやり口も一緒ですよね」

――セルフ・サンプリングしたわけではないんですか?

岩下「全然違います。なんかあるんでしょうね、僕のレパートリーの中に(笑)」

――嘘つきバービーつながりで言うと、本作には“ねこ子”もセルフ・カヴァーされて収録されています。

岩下「Tik Tokとかいうアプリで、“ねこ子”の曲に合わせて自撮り動画を載せるのが流行ってるらしくて、いま“ねこ子”が女子高生の玩具みたいになってるらしくて」

――HIKAKINさんが動画を上げてバズってたやつですよね。

岩下「そう、あれの広告がいたるところで流れて、すごくウザいらしくて。そのせいで、〈この曲作ったやつムカつく〉みたいなコメントがつけられたり、この曲が嫌われてるらしいんですよ。だから、〈それそういう曲ちゃうから!〉って思ってニガミでやることにしたんです。かっこいい曲だっていうのをちゃんとわかってもらおうと」

 

そして『ニガミ17才c』へ?

――さっきもダンス・ミュージックの話が出ましたけど、サウンド面では“化けるレコード”のドラムは打ち込みだし、『やさしい怪人』から再録された2曲(“ラブレター”“町の変態”)も当時は土臭いバンドの音だったのが、今作ではすごくスタイリッシュになって、全体的に洗練された印象を受けました。

岩下「でも、あの2曲はどっちのバージョンもいいよね。それぞれ良さがあって」

あくび「そうそう。あとは、例えば“もつれ”はゾンビの歌なので、リズムはゾンビ感が出るように叩くとかしてますね」

岩下「ドラムの音は全曲でちょこちょこ変えてますね」

――ベースのタツルさんはダブルストップ(重音奏法)とか和音をけっこう使っていて。ああいうベースを弾く人もあまり見ませんけど。

岩下「僕がまったくウワモノを弾かないからかもしれないですね。コードも弾きたがらないし。だんだんスタジオにギターも持ってこなくなって(笑)。それで和音を弾かざるを得ない感じになってるのかもしれないです」

――世界観だけでなくサウンド面でも今後はどう進化していくのか、すごく気になっています。まあそれはスペシャでかかる音楽次第なのかもしれないですけど(笑)。じゃあ最後の質問。今回の『ニガミ17才b』のレコーディング最終日に、次回作の『c』の話は出たんですか?

岩下「えーーーーーーー……(笑)」

あくび「いい質問で終わりますね(笑)。えーーと……」