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僕の中の音楽実験

――1曲1曲についても詳しく訊いていきたいんですが、まず特徴的なのが歌ですよね。先日の配信番組でも〈オリエンタルな言葉を探してた〉と言ってましたけど、特に“こいつらあいてる”では日本語を超越しているような歌唱が出てきます。

岩下「“こいつらあいてる”のテーマが〈愛語り〉なんです。〈愛語り〉っていろんな世代の誰しもがやることじゃないですか。純粋に〈愛つらい〉って思ってる若い世代もするし、卑しい気持ちの大人もするし、お金目当てのミュージシャンもする。それぞれ立場は違えど〈愛語り〉ってみんなやってるものなんです。でも若い世代からしたらおじさんの愛語りって意味分かんないですよね。それってつまり、若い世代にはおじさんの言葉が通じてないんだなと思って。もちろん逆もあって、だから一聴して日本語だって通じない歌い方をして〈愛語り〉をしてみようって思ったんです。〈愛つらい〉という言葉を、そういうふうに聞こえないように、誰もが理解できないように歌おうと。だからオリエンタルな言葉にはさほど意味はなくて、何言ってるか分からないっていうことに意味があるんです」

――言葉が通じなくても意味は通じる、みたいな。でも1曲目の“Jimmy Perkins”に至っては、歌が日本語ですらないですよね。初めて聴く時は歌詞カードを見てほしいって言ってましたけど、歌詞とも違う歌です。

岩下「あれは何語なんでしょうね(笑)。何語でもないです」

――日本語があって、オリエンタル日本語があって、最終的に何語でもない言葉の歌になっちゃった。

岩下「僕の中の音楽実験なんですよ。あれはすごく適当に歌ってるんですけど、でも洋楽を聴く時ってよっぽど語学力がない限りは誰でも最初は音だけで聴いてるじゃないですか。で、何年かして〈この歌詞どういう意味やろう?〉って日本語訳を見て、〈あ、こんなこと歌ってたのを聴いてたんだ、ダッサ!〉みたいなこともあって(笑)。だから僕が適当に歌ったものの訳詞を歌詞カードに載せてるんです。実は1番と2番は同じように歌っているんですけど、歌詞カードを見ながら目で追っていくと違うように聴こえるんですよ。音楽の新たな楽しみ方というか」

あくび「だから想像力があればあるほど、その人の音に聴こえると思いますよ。歌詞に〈ネズミ〉が出てきた後に私が歌う〈イェイェイェイェイェーイ〉ってところを聴くと、そこをネズミが歌ってるように聴こえたりとか」

岩下「あの曲、実は元はすごく短い秒数の曲で、全部を細かくカットアップして新しいフレーズを作ってるんですよ」

小銭喜剛「新しいビートを出したよな、あれすごいよ」

あくび「例えば魔法がかかったような〈ドゥルドゥルン〉って音が出てくるんですけど、それもハイハットの〈チキチキ〉って音の〈チ〉の音を上げて〈キ〉の音を下げて組み合わせて作ってたりとか、元は全部こっちゃん(小銭)とタツルボーイが出した音を使ってるんです。だから料理を刻みまくって別の料理を作るみたいな(笑)」

小銭「元の曲で使ってなかったシンバルの音が欲しくなって、今ある音をどう料理してシンバルにするかとかね」

岩下「〈この素材でどうにかして作って!〉みたいなほうが性に合うんですよね。なんとなくシンバルが欲しい時にシンバルの音を足すなんて、今の技術なら簡単なんですよ。でもそこを他のことでやるのが楽しくて。その代わり、〈この音はシンバルじゃないと絶対にダメ!〉っていうちゃんとした理由がある時にだけシンバルを使うんです。ギターのエフェクターもそうなんです。そこで踏む理由がちゃんとあるかどうかを突き詰めて考えて使う。そういう制約がある中で作るのが性に合ってるんですよね」

あくび「だからやっぱり締め切りがあってよかったんですよ(笑)」

――“Jimmy Perkins”っていうのは誰なんですか?

岩下「それは架空のインチキマジシャンの名前です」

――最近オフィシャルのTwitterとかインスタで岩さんの写真が上がると〈教祖感がある〉って書いてあるので、勝手に教祖かと思いました(笑)。名前も思わずググったけど特にヒットしないし。

あくび「絶対みんなググるだろうなと思って、検索した時に絶対ヒットしない人を探して。最初岩さんにありきたりな名前にしたいって言われて、よくある苗字と名前で探したんですけど、何て探してもメジャーリーガーとか昔の画家とか出てきて(笑)」

岩下「最初は日本名だった気がする。なんやったっけ?」

あくび「〈はじめ〉とか?」

岩下「ああー、そんなんやったかなあ。最初、日本名やったんです。そのほうが僕っぽいでしょ? でもなんていうか、その〈ナマ感〉というか、何かが邪魔やったんですよね」

あくび「例えば〈はじめ〉だとしたら、みんなの知り合いのはじめさんとか有名人のはじめさんをポンと思い浮かべますよね。その印象がついちゃうのがイヤですねって話になって。だから思い浮かびそうで浮かばない名前にしたんです」

――結果的に“Jimmy Perkins”は言語も超越したし、音楽的にも既存の音楽を超越したと思います。

岩下「いやあ、みんながいたからですよ(笑)」

――急に感謝!?

岩下「いや、ほんとほんと! 今回本当にメンバーのおかげで。メンバー大好きです」

――あと“オフィシャル・スポンサー”は5拍子と4拍子が入り混じってて、ライブのアンコールで〈5拍子/4拍子〉をやってたのがこういうところに繋がってたのか!?って思いました。〈結局は1拍でもいいからノリなよ!〉っていう。

※ニガミ17才のライブのアンコールでは、岩下のアドリブで曲調や5拍子と4拍子が切り替わるアレンジの曲をよく披露している。

あくび「はははは(笑)、あれが前フリ!?」

タツル「いやー関係ないですね(笑)」

――関係ないのか……。

小銭「ワシの中ではあれがもうノリやすいんだよな。たぶん、5拍子だって気付かない人は気付かないですよ。ノリやすいビートだからスルッと入れるので」

――“生でんぱ”も5拍子で。これまでにも5拍子の曲はありましたけど、こんな5拍子でノレる曲があるのは新鮮で。

小銭「たしかに」

あくび「“幽霊であるし”も変なリズムだもんね」