彼の手を離れていってもなお、そのメロディから〈LOVE〉を放ち続ける『玉置浩二の音楽世界』
もしも自分が歌手だったら、玉置浩二に曲を書いてもらいたい、書いてもらえるような歌手になりたい……と思う。
どうしようもない空想はさておき。『玉置浩二の音楽世界』は、彼のメロディメイカーとしての魅力を〈提供楽曲〉を通して堪能できるコンピレーション・アルバムである。ここに収められている24曲はその一部ではあるのだが、自身の名を掲げて活動しているアーティストであり、みずからがステージに立つパフォーマーでありながら、これほど他者への楽曲提供でも才能を発揮している人は、なかなか見当たらない。たぶん、日本一。
1983年の秋にリリースされた安全地帯の出世作“ワインレッドの心”以降、バンドは次々と楽曲をヒットチャートに送り込んでいくわけだが、〈作曲・玉置浩二〉のクレジットをそれ以外の場で初めて見聞きしたのは、中森明菜“サザン・ウィンド”(84年4月リリース)──実際には本CD 1曲目に収められた石川ひとみ“恋”が1983年9月のリリースでひと足早いが、中森明菜にとって4曲目のナンバーワン・ヒットとなったこの曲で気づいた人が多いとするのは間違いではないだろう。シングルごとに作家を入れ替え、貪欲にパフォーマーとしての自身を刷新していた彼女が、旬なメロディメイカーとして玉置浩二に白羽の矢を立てたのは当然といえば当然であった。
人気アーティストに作曲を依頼し、旬なメロディを手にするというヒット曲の制作パターンは昔もいまも決して珍しいことではないが、さきにも挙げたように、自身の活動を続けていながらにして楽曲提供を続けてきたことが玉置浩二の稀なところで、さらに、求められたのがブレイクしたあの時代だけにとどまらず、現代まで続いていること。それは発表年順に並んだ今回の収録曲をみれば一目瞭然だ(もっとも新しいのは2017年リリースの工藤静香“ほとり”)。
そんなふうに求められ続ける玉置メロディの魅力とはいったいなんなのだろう……。時代時代の旬なアレンジというものがヒット曲とセットだが、そういったお化粧を取り除いたところでも揺るぎなく強いものがある──シンプルに言えば〈よいメロディを書く〉ということだが、歌い手がしっかりと咀嚼して、自身のものにしていく過程で言葉とメロディに芳醇なソウルが宿っていく、要するに歌い手と濃密なコラボレーションを果たせる素養をもった曲をこしらえることができているからではないだろうか。とくにDISC 1後半〜DISC 2は、玉置がソロ活動を活発化、本流とさせた時期であり、その頃から顕著になったと思える〈曲のなかに沁みているノスタルジア〉──彼のルーツにある民謡や童謡がもつような普遍的なメロディが非常に滋味深い。
楽曲を授かった歌手のほとんどは歌唱力が高い、独特の表現力があるなど、表現者としてズバ抜けた人たちばかりだ。そういった表現者の力によって曲が引き立てられていることも間違いないが、どの歌い手も容易く玉置メロディを物にしたとは言えないだろう。そういう意味でこのコンピレーションは、玉置浩二のメロディメイカーとしての魅力とともに、彼の曲を手にした歌い手の底力も垣間見ることができるとも言えよう。この曲でのKinKi Kidsはどうよ、前田亘輝はどうよ、工藤静香はどうよ……すべてが素敵じゃないか。
LIVE INFORMATION
billboard classics
玉置浩二 LEGENDARY SYMPHONIC CONCERT 2025 “ODE TO JOY”
2025年3月2日(日)Bunkamuraオーチャードホール
2025年3月10日(月)福岡サンパレスホテル&ホール コンサートホール
2025年3月11日(火)福岡サンパレスホテル&ホール コンサートホール
2025年3月14日(金)熊本城ホール メインホール
2025年3月22日(土)フェスティバルホール
2025年3月23日(日)フェスティバルホール
2025年3月28日(金)石川県立音楽堂 コンサートホール
2025年4月5日(土)NHKホール
2025年4月6日(日)NHKホール
2025年4月10日(木)兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
2025年4月11日(金)兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
2025年4月24日(木)那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場
2025年4月25日(金)那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場
2025年5月2日(金)やまぎん県民ホール 大ホール
2025年5月10日(土)愛知県芸術劇場 大ホール
2025年5月11日(日)愛知県芸術劇場 大ホール
2025年5月17日(土)札幌文化芸術劇場 hitaru
2025年5月18日(日)札幌文化芸術劇場 hitaru
2025年5月24日(土)レクザムホール(香川県県民ホール)大ホール
2025年5月26日(月)広島文化学園HBGホール
2025年5月29日(木)ベネックス長崎ブリックホール 大ホール
2025年6月4日(水)アクトシティ浜松 大ホール
2025年6月10日(火)水戸市民会館 グロービスホール(大ホール)
2025年6月17日(火)日本武道館
2025年6月18日(水)日本武道館
https://billboard-cc.com/tamaki-odetojoy