フィフス・アヴェニュー・バンドやオハイオ・ノックを率いたピーター・ゴールウェイが佐橋佳幸とのコラボアルバム『EN』をリリースした。細野晴臣、小原礼、林立夫、屋敷豪太、矢野顕子、大貫妙子、松たか子など同作に参加したメンバーを眺めるだけでもめまいがしそうだが、ピーターと佐橋、そして錚々たる布陣によって紡がれた楽曲を耳にすれば、たちまち至福の時間が訪れる。エヴァーグリーンなメロディとサウンドに誰もが心を奪われる、紛れもない傑作だ。
ピーターに関してはそのキャリアを含めて数多くの記事が存在するが、本稿ではピーターと深い縁で結ばれた佐橋佳幸にスポットを当てたい。ギタリスト、プロデューサー、アレンジャー、ソングライターとして数多のアーティストから信頼を寄せられる佐橋がこれまで携わった作品群を辿っていこう。
渡辺美里、岡村靖幸など極彩色なアーティストを支えた80年代
シンガーソングライターに憧れてギターを手にした佐橋佳幸は、柴田俊文(キーボード)、松本淳(ドラム)らとUGUISSを結成、1983年にEPIC・ソニーよりメジャーデビューを果たす。70年代のアメリカンロックやウェストコーストロック、楽曲によってはカントリーやハードロックの要素を感じさせるサウンドに、山根栄子の儚くも耳馴染みのよい歌声が重なる構造は当時新鮮だったに違いない。
1984年に解散したUGUISSだが、昨年40年の節目に新たな編成で再結成し、東名阪ツアーを開催したほか、アナログ2枚組『UGUISS (1983-1984) ~40th Anniversary Vinyl Edition~』を発表した。さらに新曲“きみは夜の月”をリリースするなど、その後もバンド活動を継続させている。
1984年にUGUISSが解散すると、佐橋は主にセッションギタリスト、アレンジャー、プロデューサーとしてその手腕を発揮していく。特に渡辺美里との関係性は深く、1988年の4thアルバム『ribbon』ではシングルカットもされた“センチメンタル カンガルー”(作曲・編曲)でキース・リチャーズを彷彿とさせるギターリフ(完全にザ・ローリング・ストーンズ“Start Me Up”オマージュ!)をかき鳴らし、“彼女の彼”(作曲・編曲)でも軽快なカッティングを披露。90年代を目前にシンセを多用したトレンディなサウンドは時代を象徴すると共に、佐橋自身の好奇心の表れとも受け取ることができる。
また、岡村靖幸の作品で聴く佐橋のギターも印象深いものが多い。岡村がプリンスを憑依させたかのように振る舞う“生徒会長”(1988年作『DATE』収録)では、佐橋もウェンディ・メルヴォワンを彷彿とするしなやかでハードなプレイを見せる。片や名曲“だいすき”では控えめながら歌心のあるギターストロークで岡村を支えている。
渡辺や岡村をはじめ、極彩色なアーティストや作品に佐橋がよく起用された背景にはEPIC・ソニー内の人脈も大いに関係していると思うが、ひとつの型に固執することなく、差し出されたメロディやリリックに対して柔軟なアプローチができたことも大きかったのではないだろうか。豊富なアイデアをシンプルな形で落とし込む。そんな佐橋の特性をフル活用したミリオンヒットが、90年代に続々と誕生していく。