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あえてド頭からコンセプトをぶつけてしまおうと思った

――鎌野さんは『Borderline』の参加者であると同時にバンド外の人でもあるわけですが、そうした中間的な立場としてアルバム全体を聴いてどんな印象を持たれましたか?

鎌野愛「すごくカラフルな作品だなって思いました。私はGecko&Tokage Paradeに対して、もっとジャズ寄りの音楽をやってるイメージを持っていたんですけど、今作にはポスト・ロックとかJ-Popといった、ジャズに留まらない音楽的要素を感じました。それで、その中にジャズ的要素が絶妙に溶け込んでいるという印象で。いろいろな曲がちりばめられていて聴きごたえがありつつ、だけどとっ散らかってない、すごくいいバランスでした」

Gecko「ありがとうございます!」

鎌野「全体の流れもとても良かったです。最初〈え、2曲目にいきなり歌もの(“Polar”)来ちゃっていいの!?〉って思いましたけど(笑)」

『Borderline』収録曲“Polar”
 

Gecko「アルバムを作るときには、ただ曲を寄せ集めるだけではなく、ある程度コンセプチュアルなものにしたいと思ってるので、流れは大事に考えますね。そういう意味で、“Polar”の位置に関しては僕も迷いました。アルバム・コンセプトを集約したような曲なので、終盤に持ってきてもいいかなと思ったり。でも悩んだ末に、あえてド頭からコンセプトをぶつけてしまおうというところに着地した感じですね」

――1曲目の“Core”から“Polar”へ続く流れが綺麗ですよね。

『Borderline』収録曲“Core”
 

Gecko「実は最初、“Core”を1曲目にする予定じゃなかったんですよ。でもアルバムを作っている途中に、あれを最初に持ってきた方が綺麗につながりそうだなって思ったんです。

考えてみれば、“Core”と“Polar”が最初に来るので、リード曲が序盤にドカドカっと出てくるアルバムなんですよね(笑)。もちろん後半は後半で、聴きごたえのあるものを作ってはいるんですけど」

 

Gecko&Tokage Parade × 鎌野愛コラボ実現の舞台裏

――今回Gecko&Tokage Paradeが鎌野さんにゲスト参加をオファーしたきっかけは何だったんですか?

Gecko「実は去年の秋ぐらいに、ヴォーカリストを何人かフィーチャーしたミニ・アルバムを作りたいねっていう話をバンドでしていたんです。それで候補を何人か立てて実際に計画を進めていたんですけど、コロナの関係でスケジュールを見直さなくてはいけなくなって。それでせっかく時間もできたから、どうせならフル・アルバムを作ろうということになりまして、元々候補の中でも筆頭として考えていた鎌野さんにオファーしたという感じですね」

――何人かいた候補の中から、どうして鎌野さんだけに絞ったんでしょう?

Gecko「フル・アルバムを作るとなったときに、自分の中にヴォーカリストを何人も起用するというイメージが湧かなくて。あくまでインスト・バンドのアルバムにしたかったので、そこに歌ものがいくつも入ると、(作品として)具体的になりすぎてしまうかなと思って。

あとせっかくなら鎌野さんの特徴を活かした曲を作りたかったので、そのためには声質や技術的にやれることなんかを細かく考慮する必要があって。そうなると、いつもバンドでインストを作るときのやり方とは全然違うものになるので、ちゃんと1曲に集中したかったというのもあります」

――なるほど。鎌野さんはオファーを受けてどう感じましたか?

鎌野「Gecko君たちがまだミニ・アルバムを作ろうとしていた段階でお話をいただいて、そのときからもう〈ぜひぜひ〉っていう感じでした。ただ自分の中で情報が止まっていたので、ずっと自分はいろんなヴォーカリストがいる中の一人だと思ってたんです。なので“Polar”のデモを聴かせてもらったときにも〈私に対してはこう来たか〉っていう感じで受け止めてました」

――〈こう来たか〉という印象について、もう少し詳しく教えていただけますか。

鎌野「歌ものでありつつも、途中声を楽器みたいに使うところがあって、そのバランスが印象的でした。私はソロでも声の持つ可能性を追求したくてそういうアプローチをしていたので、それを踏まえて作ってくれたんだなと思って。

だからこそ、他の人たちとの違いが楽しみだなと思いながら歌入れしたんです。それでアルバムをいざ聴いてみたら、私以外に誰も歌ってなくて、あれ?ってなりました(笑)」

Gecko「計画変更したことを伝え忘れてて、マスター音源を送ったときに発覚したんですよね(笑)」

鎌野「そうそう(笑)。でも今回は、インストをやってるときとはまた違うGecko君の一面を見られて楽しかったです。(声を)楽器的に使ってる部分は私のソロの感じに近いと同時に、Gecko君のいつもの音楽性とも地続きな気がしたんですけど、メロディーに日本語詞が乗ったいわゆる歌もの的な部分に関しては、まさかそんな感じで来るとは思っていなかったので、新鮮でした」

 

〈ディレクションしない〉というディレクション

――鎌野さんに“Polar”のデモを渡したときには、どのくらいまで作り込んでいたんですか?

Gecko「最初はキー確認のためにサビだけを簡単に録った音源をお送りしたんですけど、その後はバンドでラフに録ったフル尺の音源を送って、それに合わせて練習してもらう感じでした。その時点で、メロディーは確定した状態でしたね。

ピアノ・ソロ直前の声質が変わる辺りのところと、ラスト前のところでは、鎌野さんにアドリブを入れてもらってるんですけど、あとは決めた通りに歌ってもらってます。ただ歌い方に関してはラフなディレクションしかせずに、任せちゃいましたね」

――ディレクションをあまりしないというのには、何か狙いがあったんですか?

Gecko「実はコロナ以降、歌もののプロデュースをする機会が増えていて、わりと細かくディレクションする場合もあるんですけど、今回は最初から鎌野さんが自由に歌うことを想像して作っていたので、好きなように歌ってもらうのが曲にとって一番いいはずだという思いがありました」

――それもまた一つのディレクションの形ですね。

Gecko「そうかもしれませんね。だからある意味で、セッションっぽいやり方だったのかなと思います」

――歌い手としては解釈の余地が大きかったと思いますが、鎌野さんは“Polar”のデモを渡されてから、歌い方やアプローチに関して何かプランを練ったりしましたか?

鎌野「歌詞があるところと、ピアノとユニゾンする部分とで、〈別人になる〉みたいな気持ちでやりました。歌の部分では情景を思い描きながらちゃんと歌ものらしく聴こえるように意識していたんですけど、ユニゾン部分では心を無にして、ピアノと絶対ズレないように歌いきるという意識を持ってました。でもあまりに正確性を意識しすぎて、一回Gecko君に〈もうちょっと揺らしてもらっていいですよ〉って言われました(笑)」

――だいぶ苦労されたようですね。

鎌野「歌ものっぽいところと、ユニゾンになるところが交互に出てくるので、歌い分けるのが本当に難しいんですよ。使う身体の位置が違う、というようなイメージで。だからライブで歌うの大変そうだな、練習しなきゃ……っていまから思ってます(笑)」

※後日、鎌野愛がゲスト出演する『Borderline』リリース記念ライブの開催が決定した。詳細は記事下部〈LIVE INFORMATION〉にて