(左から)Gecko、鎌野愛
 

ジャズをベースにミニマル・ミュージックやポスト・ロックなど、さまざまなジャンルをブレンドした独自の音楽性で名門レーベル・Playwrightに新しい風を吹かせているインストゥルメンタル・バンド、Gecko&Tokage Parade。そんな彼らが4作目のオリジナル・アルバム『Borderline』を2021年1月20日にリリースした。

今回Mikikiでは『Borderline』のリリースを記念して、Gecko&Tokage ParadeのピアニストでリーダーのGeckoことWataru Satoと、本作のリード曲“Polar”のゲスト・ヴォーカリストである鎌野愛によるリモート対談を実施。パソコンの画面越しに繰り広げられる和やかなやりとりは、いつしか〈音楽にとって声とは何か〉という根源的なテーマにまで辿り着いていた。ピアニストとヴォーカリスト、立場は違えど共通するものを持った両者によるダイアローグをぜひお楽しみいただきたい。

Gecko&Tokage Parade 『Borderline』 Playwright(2021)

ミニマル・ミュージックで通じ合った2人

――そもそも、お2人はどんな経緯で知り合ったんですか?

Gecko「初めて顔を合わせたのは、かなり前ですよね?」

鎌野「そうですね」

Gecko「渋谷のWOMBでやった〈DEEP MOAT FESTIVAL〉(2012年)というイベントで会ったのが、最初だと思います。僕は他のアーティストのサポート・メンバーとして出ていたんですけど、鎌野さんが以前参加していたハイスイノナサもそれに出演していたんです。僕がハイスイノナサのファンだったというだけで、全然面識はなかったんですけど、終演後に鎌野さんに話しかけられて。僕キーボードで出てたのに、〈歌、素敵でした〉って(笑)」

鎌野「人違いでした(笑)。Gecko君はそれ以降ハイスイノナサのライブを何回か観に来てくれていたので、その印象が強いです」

ハイスイノナサの2012年作『動物の身体』収録曲“logos”の大西景太とのライブ映像
 

Gecko「でもその頃にはまだ、そこまで接点はなかったんですよね。それがここ2~3年くらいですかね、鎌野さんがanohっていうユニットをやりはじめた辺りから、音楽的な接点が生まれた気がします」

鎌野「ちょうどその頃、Gecko君がやってるピアノと弦のトリオ(Gecko with Strings)にゲストで呼んでもらったりして」

Gecko with Strings“Requiem”のライブ映像
 

Gecko「そうでしたね。その後は、僕が鎌野さんのソロ・アルバム(2019年作『muonk』)のリリース記念パーティーにサポート・メンバーとして出演させてもらったり、österreichというプロジェクトに2人ともサポート・メンバーとして参加したりという感じで、一緒にやらせていただくことが増えました」

――お互いに対する音楽的な面での印象はどんなものですか?

Gecko「僕はそもそもハイスイノナサのヴォーカリストとして鎌野さんを知ったので、やはりその印象が強かったんですけど、その後anohで鎌野さんがオペラやミニマル・ミュージックに接近しているのを知って。僕も元々(スティーヴ・)ライヒとかのミニマル・ミュージックが好きで、自分のソロとかトリオでもそういう音楽をやっていたので、一緒に何かやってみたいと思うようになりました。

あと、2年前に鎌野さんの出したソロ・アルバムが、かなり攻めた内容だったじゃないですか」

鎌野「ふふ(笑)」

Gecko「ハイスイノナサの音楽も歌ものとしては異質だったと思うんですけど、あのソロ・アルバムはさらに尖った内容だったのでびっくりしました。僕はエクスペリメンタルなものも好きだったので、それで〈ああ、同じような音楽が好きなんだな〉とますます親近感が湧きましたね」

鎌野愛の2019年作『muonk』収録曲“浮遊する都市”
 

鎌野「私は、Gecko君のパフォーマンスではピアノ・ソロのライブを最初に観させていただいたんですけど、自分がハイスイノナサのときに別のキーボーディストと2人で協力してやっていたようなこと、たとえば2拍と3拍が並行しながら反復していくミニマル・ミュージック的な試みを、両手を駆使して一人でやってる変な人がいる!って思いました(笑)」

Gecko「変な人って(笑)」

鎌野「私とGecko君は、やってきた音楽が全く同じ感じというわけではなかったと思うんですけど、根底に〈ミニマル好き〉という共通点があるなっていうのはずっと感じていて、何か一緒にやりたかったんです。なので鎌野ソロでGecko君にサポートをお願いしたことなんかも、その延長線上にあると思います」

――ミニマル好きというのが、お2人を結びつける要素になっていたんですね。その関連で言うと、今作『Borderline』は前作までと比べてミニマル要素が前景化しているなと感じました。その辺りは意識的に考えていましたか?

Gecko「アルバムを作る上ではそこまで意識していないんですけど、鎌野さんとやった“Polar”の曲調に引っ張られていたかもしれないとは思います。たとえば3曲目の“Tripper”なんかは、“Polar”に引っ張られてミニマルな感じになってます。

あとはバンド・メンバー同士のセッションで、リフをずっと繰り返しながら展開を作っていくというやり方をしていたのも大きいかもしれません。5曲目の“Overheat”なんかは、ピアノとベースがひたすら同じリフを繰り返してる上で、ギターが2~3分間ずっとソロを弾いてる曲で。あれ、実はオープン・タイムでやったんですよ。尺を決めちゃうといいものが出来ないからということで、ギター・ソロの盛り上がりがピークに達したところで止めました」

『Borderline』収録曲“Tripper”“Overheat”