筆者の少年時代はFM放送でベームやチェリビダッケといった巨匠の海外ライヴを聴くのが楽しみだった。そこにはセッションとは違った楽興や熱気があり、本場の会場の雰囲気までも感じ取れたからだ。当盤の“未完成”はオーストリア、ホーエネムス宮殿でのライヴで、LPになる前にFMで接し、大感動した演奏である。実演で燃えるベームのスケール雄大な音楽が、宮殿の長い残響により、いっそう大きく豊かに身に迫る。しかもSACD化により素晴らしい音で蘇っている! セッション録音の第5番は、ライヴの空気感の代わりに、シャープな録音が楽員個々の妙技を鮮やかに捉えていて、別の楽しさ、味わいがある。