ECMからの新機軸。今もっともジャズの深淵を出すテナー・サックス
テナー・サックス奏者のジョー・ロヴァーノというと、ブルーノートのイメージが強い。彼は90年以降近年まで、20作を超えるアルバムを同社から出している。だが、82年のポール・モチアンの『Psalm』参加以降、彼は様々なECM作にも関与してきた。アメリカ王道のジャズを提出するブルーノートとジャズのもう一つの美意識を体現するECMに無理なく関与できる、そんな名手は2019年からついにECMを介してリーダー作を出すようになった。ロヴァーノにとって、ECMとはどんなレコード会社なのだろう。
「私にとってECMはもっともクリエイティヴなレコード会社、〈ミュージック・オブ・ワールド〉と言うべきものだね。今日に至るまで、私がマンフレート(・アイヒャー)とやったすべてのセッションはゲストとして参加してきた。その点、トリオ・タペストリーは、ECMにおけるリーダーとしての録音の始まりだった」
ECMデビュー作のアルバム表題にもなったトリオ・タペストリーは、スペースの創出にも留意したベースレスのトリオだ。もちろん、2作目の『Garden Of Expression』も同じ3人で事にあたっている。
「これが今の、この時期の私であり、一番大事な活動中のバンドなんだ。前作を出して以降、たくさんツアーして来た。そして、2019年11月に私たちのその年のツアーの最後に、この『Garden Of Expression』をスイスのリサイタル・ホールで録音できたんだ」
滋味あふれるサックス音を聞いていると、今もっともジャズの深淵を表出できるの存在がロヴァーノだとも言いたくなってくる。自身のなかでサックス観やジャズ観が変化してきているところあったりするのだろうか。
「子供の頃は、(サックス奏者である)父の演奏を聴いて育った。10代の頃にはクラブで、ソニー・スティット、ジーン・アモンズ、ジェームス・ムーディー、ローランド・カークを聴いた。私が受けた主な影響といえば、彼らのトーンやサウンドだ。その後も、ずっと素晴らしいサックス奏者と共演し、それは私自身のサウンドへと発展していくのに役立った。この2021年に感じるのは、個人的な表現方法をまだ探しはじめたばかりであり、より美しいと感じるアプローチを開拓するその道中……。まだ道半ばだね(笑)」
『Garden Of Expression』を聴いていると、侘び寂びという言葉を思い出す。それを鋭敏なアメリカ人の彼はジャズという即興を介する様式を介して悠々と表出しているとも言いたくなってしまう。
「そうだね、あらゆる事を受け入れることだと私には思える。おそらくそうやって、私はWABISABIを表現しているのかもしれない」