
ここ数年はインディー・ロックやギター・ポップが世界的に低調だった、という論調がある。しかし、果たしてこれは事実なのだろうか。台湾や中国、あるいは東南アジア諸国に目を向けると、近年、良質なギター・バンドが次々と登場している。ここ日本のインディー・アーティストとの交流も盛んになっており、国境を跨いだシーンが形成されてきた。今でこそ世界的パンデミックで停滞を余儀なくされているものの、アジアではインディー・ロック/ギター・ポップの新たな土壌が築かれている。
ここで紹介するI Saw You Yesterday(以下、ISYY)は、そんなアジア全域にファンベースを広げている東京のインディー・ロック・バンドだ。90年代オルタナティヴやシューゲイザーを音楽的ルーツとしつつ、キャプチャード・トラックスあたりの北米インディー勢とのシンクロニシティーも感じさせる彼らは、年明けから4つのシングルを連続でリリース。海外を視野に入れながら2021年も攻め続けている。今回はそんなISYYSから、ヴォーカリストでメイン・ソングライターのシモダヒデマサとギタリストのムラカミカイにインタビュー。バンドの成り立ちや、シングル4曲それぞれのアプローチについてなど、じっくりと訊いた。
暑苦しくない、サビを作らない
――SpotifyでのISYYのリスナー所在地を見たら、台北やシンガポールやバンコクでもたくさん再生されていて驚きました。東アジアでこれほど支持されている状況を、おふたりはどう受け止めていますか?
シモダヒデマサ(ヴォーカル/ギター)「すごく嬉しいです。日本の場合は日本語詞じゃないとリスナーに伝わりづらいところがあると思うんですけど、東アジアのリスナーは言語を問わず、サウンドで聴いてくれるので、そこには僕ら自身もすごく可能性を感じていて。今後も東アジアにはリーチしていきたいし、それこそコロナ禍が落ち着いたら、各国を回りたいですね」
ムラカミカイ(ギター)「やっぱりサブスクの影響は大きいですよね。自分たちがこうして海外のリスナーに発見してもらえたのも、ここ数年でサブスクが浸透して、どんな国の音楽も分け隔てなく聴かれるようになったおかげだと思う」
シモダ「きっと今の東アジアには、僕らと同じような音楽を聴きながら育ってきた同世代がたくさんいると思うんです。それこそ僕らや彼らはは中学の頃からYouTubeで音楽を聴いてきたような世代なので、住んでいる国によって音楽性が違うこともないですし、リスナー間の垣根もなくなってきているような気がしていて」
――実際におふたりがどんな音楽に触れてきたのか、教えていただけますか?
ムラカミ「僕は24歳までグランジ・バンドをやってました。シモダもそれとは別でオルタナ系のバンドを組んでて、僕らは対バンで出会った仲なんです」
――どちらもグランジ/オルタナを志向していたと。つまり、双方の音楽性には通じるものがあったということ?
シモダ「そうですね。お互いに同じライブハウスに出ていたんですけど、そこでグランジ/オルタナっぽいことをやっていたのはカイくんたちだけだったので、すごくシンパシーを感じてました」
ムラカミ「でも、当時はふたりとも壁にぶつかっていて。それこそ僕はちょっとヤケになってた時期だったんです。〈誰がなんと言おうと、俺の好きな音はこれなんだ!〉みたいな感じで変にトガっちゃってたし、いま思うと音楽的にも硬化してたなと。そんな頃にシモダがバンドを解散し、そのあとに彼の知り合いが集まっていくなかで、ISYYの基盤ができたんです。言ってしまえば、僕らは挫折から始まったバンドなんだよね?」
シモダ「そうだね。僕らはグランジ/オルタナティヴを共通項として仲良くなったけど、一緒にやるならそれだけじゃダメだと思ってました。もちろん好きなことをやるのは前提だけど、かといって以前と同じようなことを繰り返したくはなかったし、ちゃんとリスナーに受け入れられるような音楽を作りたいなって」
――具体的には、どんな音楽性に向かおうとしていたのですか?
ムラカミ「グランジ/オルタナを基調としつつ、もっとハイブリッドなことをやろうと思ってました。僕らは2000年代以降に育ってきたわけだし、それまでに聴いてきたさまざまな音楽のテイストをうまく取り入れていきたいなと」
シモダ「バンドを結成した2015年頃は〈暑苦しくない〉がキーワードでした。それこそグランジ/オルタナにはそういうイメージがあるし、2000年代前半のストロークスとかも、あらためて聴くとけっこう暑苦しい感じがして。そうした時期にミツメとかを聴き始めたのもあって、もっとバランスが取れた表現の仕方があるんじゃないかと思うようになったんです。それでまずはバンドにいろんな制約を課してみようかなと」
――それはどんな制約を?
シモダ「最初にトライしたのが〈あえてサビを作らない〉ということ。それこそ拳を突き上げるような感じにはしたくなかったし、それまでは歌が担ってきた部分をギターに任せようとも考えてました。別の言い方をすると、ヴォーカルもギターと同じく楽器として捉えたらどうかなと」
肉体性を取り戻したい
――2017年のファースト・アルバム『Dove』では、ヴォーカルにもかなり深めのリヴァーブをかけていましたね。
ムラカミ「そうですね。当時は演奏としてもサラッとした表現を模索していたし、確かヨ・ラ・テンゴの流れを汲むようなイメージもあったんじゃないかな。ただ、ここ数年はそれだけじゃ済まないというか、僕らのやろうとしてることも結成当初とは変わってきてて。これは今回のリリースにも言えることなんですけど、また肉体的な表現に戻ってきているような感覚なんですよね」
――そこには何かきっかけがあったのでしょうか?
ムラカミ「たぶんそこに関しては世の中の流れも大きいと思います。それも音楽とかアートに限った話ではなくて、それこそ社会情勢とかも絡んでると思うし、僕ら自身が年齢を重ねてきた影響もあるんじゃないかな」
――連続でリリースされた今回のシングル4曲を並べてみると、どれも音楽的なアプローチが異なっていますよね。
ムラカミ「そうですね。アルバムを最終目標にしつつも、まずは自分たちが今やりたいことをひとつひとつ形にしていきたくて」
シモダ「今は結成当初の制約を取っ払ってる状態なんです。シングルはトライ&エラーができるので、その時々の気分に従いながら、ひとつひとつをぶつ切りで試してみたいなと思ってて」
冷静と情熱のあいだにある“Always”
――では、2月以降に連続リリースしているシングル各曲について訊かせてください。今年の2月にリリースした“Always”はドリーム・ポップ/シューゲイズ的な音作りを基調としつつ、そこにアコギのストロークを重ねているのが印象的だったのですが、この楽曲はどんなアイデアから生まれたのですか?

I Saw You Yesterday 『Always』 ISYY/SPACE SHOWER(2021)
ムラカミ「“Always”は昨年の自粛期間明けに作った曲で、ギターもそのときの気分がストレートに表れてます。というのも、僕らは2019年の11月にアルバム『Calm Days』を出したんですけど、あのアルバムで僕は〈穏やかな部屋でひっそりと過ごしているけど、外界ではめちゃくちゃなことが起きてる〉みたいなイメージを個人的に落とし込んでたんです。そうしたら、その抽象的なイメージがコロナ禍で一気にリアルになってしまって。今回のギターはそこに引っ張られたところがあるんですけど、シモダはまた違うんだよね?」
シモダ「そうだね。僕の場合はイメージから作ることってあまりなくて、どちらかというと、曲作りはパズルとか数学みたいな感覚なんです。“Always”が16ビートのゆったりした曲になったのは、自粛期間中にみんなとスタジオに入れなかったことの影響も大きくて。スタジオで音を合わせていると、みんなで演奏しているときの気持ちよさについ流されがちなんですけど、この曲に関してはいつも以上に俯瞰的というか、フラットな気持ちで臨めた感じがする」
――ムラカミさんがエモーショナルなギターを弾く一方で、シモダさんはあくまでも冷静に曲を作ったと。
ムラカミ「まさにその通りで、曲作りにおいて彼は常に冷静沈着なんですけど、僕はつい熱くなっちゃうタイプなんです。実際、“Always”は最初から最後までそんなにテンションが変わらない曲なんですけど、そのなかで僕のギターだけがアクションを起こしてるんですよね(笑)。でも、そこがISYYのおもしろいところだなと思ってて」
シモダ「僕もそう思う。ISYYの曲作りって、要は僕がスケッチを用意して、そこにみんなが好きな色を塗っていくような感じなんです。僕はカイくんみたいにエモーショナルな表現ができないので、そこに関しては彼に任せていて。ただ、みんなで演奏していると、仮に下書きが良くなかったとしても、なんとなく良い感じに思えてきちゃうので、自分はそこに惑わされないようにしなきゃと思ってて」
――グランジ/オルタナを共通項としながらも、ミュージシャンとしてのタイプはまったく違うと。
シモダ「僕がグランジ/オルタナで一番好きなバンドはスマッシング・パンプキンズなんです。スマパンの曲ってめちゃくちゃ綿密なプロダクションで作られていて、聴くたびに発見があるんですよね。そこに影響を受けてるっていうのも、自分の場合は大きいのかもしれない」
――なるほど。いっぽうのムラカミさんが最も影響を受けたバンドといえば?
ムラカミ「やっぱりニルヴァーナかな。『In Utero』(93年)を初めて再生した時のことをよく覚えてて、12歳の僕はびっくりしすぎて停止ボタンを押しちゃったんですよ。〈この音楽は危ない!〉って(笑)。いま思えばそれがロックとの出会いだったし、特に『In Utero』はノイズがすごいじゃないですか。あれが当時10代のモヤモヤした心にはものすごく響いたし、いまもそれを求めてるところがあるんです。それこそノイズってコントロールできる部分とできない部分があって、そういう原始的なところが言葉で言い表せないような感情表現にも結びついてるんじゃないかなって」
シモダ「ノイズの話で今ふと思ったんですけど、マイ・ブラッディ・バレンタインのケヴィン・シールズは、どちらかと言うとビリー・コーガン寄りな気がするんです(笑)。大学の頃に読んだ『Loveless』(91年)の制作に関する本によると、あのアルバムのノイズは本当に計算しつくされたものだし、それこそケヴィン・シールズは完璧主義者ですよね。で、たぶん自分はそういう人にすごく影響されてるんだと思います」
――スマパンのビリー・コーガンが作る音楽と、スティーヴ・アルビニが録音した『In Utero』って、対極と言ってもいいですよね。で、そんな相反する感性がひとつのバンドに共存してると。
ムラカミ「そうなんです。完璧に作りたい人と、それを壊したい人が同じバンドにいるっていう(笑)」
歪んだギターのかっこよさを示した“Drown”
――それこそ3月にリリースされた“Drown”はノイジーなグランジ・サウンドですよね。ふたりのルーツにあるものが素直に表現された楽曲のように聴こえます。

I Saw You Yesterday 『Drown』 ISYY/SPACE SHOWER(2021)
ムラカミ「その通りだと思います。たまにはやってもいいかなと(笑)」
シモダ「これはもう、勢いでやっちゃった感じですね。自粛期間中にダイナソーJr.を聴き直していたのもあって、今またストレートにやってみるのもいいかなと」
ムラカミ「逆に言うと、これまではこういう曲をやらないようにしてたんですけど、今これをやったらどうなるのかなっていう興味もあった。まあ、その結果として何かしら新しい発見があったわけでもないんですけど、作って良かったなと思ってます。今ギター・ロックって世界的にはあまり存在感がないじゃないですか。そうしたなかで〈歪んだギターのかっこよさをあらためて示したい〉という気持ちも、多分どこかにあったんじゃないかな」
シモダ「そうだね。ただ、ヴォーカルに関してはちょっと悩んだかな。というのも、この曲はギターがマグロだとしたら、ヴォーカルはシャリなんですよね。そこであんまりストレートに歌うとバランスが取れなくなるので、若干そこは意識してました」
――なるほど。ちなみにヴォーカリストとしてはどう在りたいと考えていますか。それこそビリー・コーガンのヴォーカルはシャリに徹するタイプではないと思うんですが。
シモダ「確かに(笑)」
ムラカミ「ヴォーカルの立ち位置に関しては、ライドとかマイブラの方がイメージに近いんじゃない? あるいはヨ・ラ・テンゴとか」
シモダ「うんうん。発想としてはそっちの方が近いですね」
ウィーザーから青臭さを消した“Darling”
――4月7日にリリースされた“Darling”の穏やかなメロディーとギター・アンサンブルは、それこそヨ・ラ・テンゴとかリアル・エステートに通じるものを思いました。

I Saw You Yesterday 『Darling』 ISYY/SPACE SHOWER(2021)
シモダ「“Darling”は元々ウィーザーみたいなイメージで作り始めた曲だったんです。当初は歪んだギターでコードをジャカジャカ鳴らして、メロディーも前面に出していくつもりだったんですけど、いざスタジオで何度か合わせてみると、なんか青臭過ぎるような気がしちゃって。そこで考え方を変えて、細かいギターのフレーズを入れながらメロディーの臭みを除いていったら、徐々にああいうサウンドになったんです」
ムラカミ「ギターに関しては、クリーン・トーンでどこまでパンチ力を出せるのかが“Darling”のテーマでした。ギターのヘヴィーさって必ずしも歪んだ音ではなくて、その音が纏っている雰囲気やハーモニー、ピッキングのアタック感とかで決まるものだと僕は思ってるので、この曲ではそこを追求したかったんです」
ギターとヴォーカルが交互にメロディーを歌う“Swedish Summer”
――そして先日リリースされたばかりの“Swedish Summer”。これはガールズを思わせる甘いコード感のギター・ポップですね。

I Saw You Yesterday 『Swedish Summer』 ISYY/SPACE SHOWER(2021)
シモダ「この曲は出だしのコードが気に入って、そこから自然発生的にメロディーも浮かんできた曲ですね。個人的には最後のパートが気に入ってて、あのパタパタした音がなんとなく虫の羽音っぽいなと(笑)」
――ムラカミさんのギターもすごくメロディアスですよね。
ムラカミ「まさにこの曲はギターとヴォーカルが交互にメロディーを歌うようなイメージで弾きました。この曲に関してはそんなに苦労がなかったというか、あっという間に出来上がりましたね」
――こうしてシングル4曲をひとつずつ見ていくと、ISYYはインディー・ポップ/ギター・ロックの多面性と可能性をあらためて示しているようにも感じます。
ムラカミ「そうですね。世の中にはいろんな楽器があるけど、僕はギターという楽器が持っているある種の不安定さにシンパシーを感じてるし、そこには表現の可能性がまだまだあると思うんです」
シモダ「個人的な気分としては、ギターでもっとオーガニックなことを試していきたいなと思ってます。今回で言うと”Always”ではアコギも使って生っぽい質感を出すことができたので、次はそこをもっと発展させていきたいかな。プロダクション的にも今後はDAW側でかけるエフェクトをもっと減らしていって、プリミティヴな感じを出していけたらなと。こうやって考えているだけでも、ギターでやりたいことってどんどん出てくるんですよね。〈やっぱりギターはおもしろいな〉って、最近また思ってます」