インスト・バンドshabelのピアニストでもあるMayu Takahashiと、ΔHMHTHP(デーメーテール)でも活躍中のドラマーYukiko Abeが昨年組んだユニットLean Rich(リーンリッチ)が、2021年6月30日にファースト・アルバム『stoichiometry』を配信リリースした。

このユニットの特徴は、キーボードとドラムだけのユニットでありながら、クラシックからジャズやプログレまでを内包した、けれどそのどれにも属さない多彩で独特な音と表現力と世界観を持っていること。そして、それらの楽曲を構成する〈曲の欠片たち〉が出来上がるさまをSNS上で公開し、まるでパズルを組み立てるように曲作りをしていくことだ。

この不思議なユニットとアルバムはどのようにして誕生したのか、TakahashiとAbeに話を訊く。

Lean Rich 『stoichiometry』 Lean Rich(2021)


パンにはリーン系とリッチ系がある

――お二人の出会いはいつですか?

Mayu Takahashi「私がやっているshabelと、ゆっこちゃん(Abe)がやっていたA perfect day for apple deerというバンドが対バンする機会があって。それがインスト祭りみたいなイベントだったんですよ」

shabelの2017年作『TRUE / FALSE』収録曲“boolean”
 
A perfect day for apple deer、2018年の楽曲“Coprime”
 

Yukiko Abe「その時LINEを交換したんだよね。2019年とかかな? 対バンしてから1年もしないうちにユニットに誘ってくれて」

Takahashi「インスト・バンドの界隈で、女性で、かつこんなに一心不乱に叩くドラマーを見たことがなくて。その時はLINEを交換するだけだったんですけど、その後しばらくして私から誘って」

――Abeさんのドラムはそんなすごかった?

Takahashi「なんて言えばいいのか……激しいけど、緻密なんですよ。私は空間を埋め尽くすようなドラムがすごく好きで、ゆっこちゃんはドラムと一体化してるみたいで」

Abe「めっちゃ褒めてくれる(笑)」

――順番としては、ユニットをやろうと思ったのが先ですか? それともAbeさんと一緒に何かをやろうと思ったのが先ですか?

Takahashi「ユニットをやろうと思ったのが先ですかね。その対バンをする1か月前くらいに、私が初めてピアノのソロ・ライブをやったんですよ。でもそのお誘いが結構急で、その時はピアノだけで成立するような曲を5~6曲、ババッと作って演奏したんですけど、その時に何か物足りないというか、ドラムが鳴っていてほしいなって思ったんですよね」

――なぜドラムだったんでしょう?

Takahashi「変な話かもしれないけど、ずっとドラムが好きなんですよね。特にリムショットが好きで(笑)」

Abe「それ知らなかった(笑)」

Takahashi「あと私、工場とかクレーンとかが好きなんですけど、ドラムにもそういう見た目的な魅力があるし。それにゆっこちゃんのドラムは、なんかドラムが喜んでいるような叩き方をするので嬉しいんですよね」

――そんなドラムを叩く人がいるんですね。

Abe「普通に、ワンタムのシンプルなドラムなんですけどね。ちょっとスプラッシュがついてるくらいで」

――Abeさんはお誘いを受けて、どう思いました?

Abe「単純に嬉しかったです。実はその対バンした2~3か月後にバンドを脱退していて、しばらく1人でドラマーとしてやっていこうと色々活動していたんです。でも半年くらいで無理になってきて、やっぱり誰かと一緒にやりたいなって時だったので。タイミングが良かったです」

――なぜLean Richっていう名前なんですか?

Abe「パンって、リーン系のパンとリッチ系のパンがあるんですよ」

――え? ちょっと待ってください。いきなりついていけない!

Abe「リーン系っていうのは油分が少なめのバゲット系のパンで、リッチ系は油分が多めのクロワッサンとか食パンとかのパンで。二人ともパンが好きなんですよね(笑)」

Takahashi「LINEを交換をする時に、とりあえず1個スタンプを送るじゃないですか。そしたら、お互いパンのスタンプを持っていて、それで一気に親近感が湧いて(笑)。ジャケットの絵にもパンが隠れてます」

Abe「リーンとリッチ、並べたら響きが良かったし、訳すとLRになって左利きと右利きみたいだし」

Takahashi「私が左利きでゆっこちゃんは右利きなんです」

Abe「ライブをやる時も左右で配置して向き合ってやりたいなという気持ちはあるし」

――なるほど。だんだん分かってきました。