〈shabelってジャンルで言うと何バンドですか?〉と尋ねると〈ジャズ……かなあ?〉〈メロディック・デスメタルじゃない?〉、そんな返事が冗談交じりで返ってきた。
そんなメロディック・デスメタル・ジャズ・ピアノ・トリオ(?)、shabelが本日1月24日(水)に3枚目のEP『TRUE/FALSE』をタワーレコード先行でリリースした。
大学時代、同じサークルだった3人で2012年に結成されたshabelは、メンバー全員がシステム・エンジニアという本職のかたわらで、デモCD1枚、ミニ・アルバム2枚、EP2枚を続々と発表。このうち全国流通盤(タワーレコード限定)でもある2作のEPが、無名の新人によるノンプロモーションの作品ながらショップでは好セールスを記録。そんな2作に続く待望の新作EPやshabel自身について、Mikikiはもちろんのことメディア自体に初登場だという、ぺいじゅん(ベース)、たけぶち(ドラムス)、髙橋麻佑(キーボード)の3人にたっぷりと語ってもらった。
また後半には、本作のボーナストラックでshabelとコラボレーションを果たした人気キャラクター・うさぎ帝国の中の人、shabelとは旧知の間柄だというきのこ帝国のあーちゃん(ギター)と谷口滋昭(ベース)からの推薦コメントも掲載する。
〈共通項、上原ひろみ以外特になし!〉な3人
――メディア初登場ということで、まずはshabelというバンドについてお聞きしたいのですが、どのようにして誕生したんですか?
髙橋麻佑「3人とも同じ大学の軽音サークルで各自コピーバンドを組んでいたんですが、卒業ライヴのときに私が〈オリジナルの曲でバンドをやりたい〉とぺいじゅんに言い出したのが始まりです。もともと〈星のカービィ〉や〈ドラクエ〉などのゲーム音楽や、映画やニュースなどの音楽が好きで、就活時にゲームや映像のサウンドクリエイターを目指していて。そこで、例えば〈ライバルの登場シーンの曲を1分半で作れ〉といった課題に合った曲をいっぱい作っていたんですが、それをバンドでやりたくて」
ぺいじゅん「その卒業ライヴのときはたけぶちさんではないドラマーだったんです。で、卒業後に僕から〈あれ、もう1回やりたくない?〉って話をしたときに、当時のドラマーが実家に帰っていたので、サークルの1年先輩だったたけぶちさんを誘って。そしたら初めてのスタジオで結構ハマったんです」
髙橋「前任のドラマーがラテンやジャズのノリだったので、メタル好きのたけぶちさんを入れたらどうなるかが楽しみで。案の定たけぶちさんはツーバスを入れてくるので、最初は笑っちゃって演奏できなかったです(笑)」
たけぶち「自分としては、ピアノ・トリオとは言っても、やることはゴリゴリのメロディック・デスメタルと何も変わらないんです。〈もうちょっとオシャレに叩いて〉と言われれば叩くかもしれませんけど、そうも言われないし(笑)」
ぺいじゅん「わりと3人ともバンドのために何かに寄せることはせずに、好きなようにしてるので、誰も各自の演奏に要望は出さないんです」
――そこはジャンルを一括りにできないshabelの良いところでもあり、不思議なところでもありますよね。3人の音楽的な共通項はないんですか?
ぺいじゅん「あまり共通してるところってないんですよね。3人ともどのジャンルに対しても幅広く聴いてるし〈これはダメ〉とかないからね」
髙橋「どんなものでも受け入れるしね。だからこそ、自分が予想しえないことを言ってきたときに、〈それなら、2人が思い描く完成形を知りたい〉っていう気持ちになるんですよね」
ぺいじゅん「もともと友達だしね。去年も、自分たちが演奏するインストア・ライヴの直後に3人で上原ひろみさんのライヴに急いで行って」
――上原さんは3人ともお好きですか?
ぺいじゅん「あ、それは3人の共通項ですね!」
髙橋「そういえば(笑)!」
ぺいじゅん「とはいえ、上原ひろみトリオを目指してるわけではないですからね。上原ひろみトリオのテクニックは世界一ですもん」
――バンドにおける3人の役割を教えていただきたいのですが。
髙橋「最初に私が曲を作って事前に2人に渡すこともあれば、スタジオに入ってその場で弾くこともあります」
ぺいじゅん「麻佑が持ってきたメロディーに対して、たけぶちさんが曲の大枠のリズムを考えるんですけど、そのときに曲をどんどんカットしていくんです。でも彼女はなるべく切ってほしくない。一方でたけぶちさんに見えている完成形の風景もあって、(たけぶちは)バンバン意見を出していくんです」
髙橋「〈これは!〉と自信を持っていた1分のサビより10秒しか出てこない箇所を推してきたりするんですもん(笑)。でも最近はそれが面白いと思っていて、〈どうなっていくんだろう?〉って先が見えないのは楽しいです」
たけぶち「僕は、曲の産みの苦しみを知らないんですよ。だからつまんなきゃ〈つまんない〉で終わっちゃうんです。先輩だし(笑)」
一同「(笑)」
髙橋「そういうときにぺいじゅんが折衷案を出してくれることもあるしね。でも、曲って生き物みたいに成長していくものだし、やりたいことをやるだけならソロでやればいいわけだし。自分としては、曲がどう変わっていくか、最後まで見届けようという気持ちでいます」
自主制作のCDが、あれよあれよという間に全国流通盤に
――shabelの遍歴についてもお聞きしていくと、結成翌年の2013年にはデモCD『I/O』を発表していますね。
ぺいじゅん「当時はたくさんライヴをしてたんですが、あまりそれが実にならなかったので、曲を作って形にしようと。それでフリーのCD-Rを作りました」
たけぶち「CD-Rを大量に作ったのに、ぺいじゅんが50枚くらいゲーセンに忘れてきてね」
一同「(爆笑)」
ぺいじゅん「僕と麻佑が空き時間にゲームセンターで遊んでたら、僕がそこに配布用のCD-Rを全部忘れまして(笑)。取りにも行ってないし、ゲーセンのスタッフさんが聴いてくれていればいいかな」
たけぶち「誰ももらってくれなかったから、捌けてくれてよかったよ(笑)」
――そして翌2014年2月には自主制作のファースト・ミニ・アルバム『Synthesized Quiet Language』をリリースし、1年間が空いて2016年2月にセカンド・ミニ『Restructuring of Rock』をリリースしています。
たけぶち「活動していなかった2015年ごろにTwitterのアカウントとAudioleafを開設したんです。そしたらモナレコードの坂本さんという方がたまたまAudioleafを見てくれて、ライヴのお誘いがあったんです。そういう話もあったし、〈レコーディングでもしようか〉ということになり、セカンドを作ってモナレコードで販売することになって。そうこうしてるうちに、坂本さんがULTRA-VYBE(CD流通・制作会社)のスタッフに聴かせ、さらにULTRA-VYBEの方がタワーレコードのバイヤーさんに聴かせたらしく」
ぺいじゅん「いろんな人に気に入っていただいて。それで、ちょうどセカンド・ミニの打ち上げのとき、2枚のミニ・アルバムを編集してタワーレコードからリリースするっていう話を急に聞かされて」
髙橋「2作目を何十枚も作ってモナレコードに持って行ったのに、急に〈タワレコから出るよ〉って話になって〈ん? どういうこと!?〉みたいになりましたね」
――とんとん拍子というか、急転直下というか。それでセカンド・ミニのリリースからわずか2か月後に、タワーレコードから初の全国流通盤EP『Restructuring of shabel』が出たんですね。
髙橋「〈これは夢なのか?〉みたいな感じで、とにかくビックリしました」
たけぶち「〈本当にみんな聴くのかよ?〉みたいな。〈っていうかタワレコ本部の人もこんなの聴くなんてヒマなのか!?〉みたいに思ってました(笑)」
――そして、その『Restructuring of shabel』がノンプロモーションながら完売(後に再プレス)。これはみなさんに訊くのもおかしいですが、なぜ売れたんでしょう?
ぺいじゅん「僕らがタワレコさんに聞きたいですよ(笑)! それによってライヴのお客さんが増えたとか、Twitterで騒がれたとかも一切ないし。でも確かに売れてはいたらしく。店舗に挨拶回りに行ったとき、バイヤーさんから〈発売日はオープンしてすぐに10枚売れました〉とか言われて〈え? 誰が!?〉みたいな感じでした(笑)」
――もしかして、さっきのゲーセンの店員さんが買ってたりして(笑)。
髙橋「ここで繋がった(笑)!?」
ぺいじゅん「マジか! 実はめっちゃ聴いてくれてたんだ(笑)!」
――で、同2016年の12月にはセカンドEP『Null Point Exception』がリリースされ、こちらも好セールスを記録したそうで。
たけぶち「大人が〈早く次を出せ〉とうるさいので、一時期の小室哲哉ばりに曲を作って」
ぺいじゅん「その10分の1くらいな! でも、我々は普通の社会人なので、時間が土日しかなくて、かなりギリギリで作ってました」
――髙橋さんは曲を作り溜めてたんですか?
髙橋「これを言うと会社に怒られるかもしれないですけど(笑)、通勤中とか仕事中に曲を思いつくことが割と多くて。とはいえ、そういう状況だとなかなかメモをとることができないので、常に頭のなかでメロディーやフレーズの勝ち抜き戦が行われている感じなんです。〈頭の中に忘れずに残り続けたものが名フレーズ! 優勝!〉みたいなお祭りが常に開催されているというか。そうして脳内でループ再生させて勝ち残ったメロディーたちを、仕事の後や土日に解放されたようにドバーッと思いっきり弾いて、2人に渡す。その繰り返しでしたね。このやり方が、自分の普段の作曲のスタイルになりつつあります」